伏物語(フセモノガタリ)

越知 学

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5話(完結)

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 遂に私が零したわずかな星に気づくこともなく、彼は右手の人差し指を空に向けていた。
 相変わらず周りの目に無頓着な彼に思わず失笑してしまう。
 私は自分自身に向けて囁くように問いかける。
『あなたはこれから何がしたいの?』
 柄にもなく『言ってごらん?』なんて語尾をつけてみる。
 答えなんて言うまでもない。
 ……ずっとこのまま君の隣にいたい。心の中じゃなくて君の隣。
 けれど――どんな想いも考えも、それがどんなに強くても溢れてても、結局は妄想の域。現実にはなり得ない。
 真実の対義語は虚偽であるように、そこにはどうしても相容れない境界が存在する。
 本物はいつだって残酷だ。時には周りを不幸にし、ある時は一方的な正義を突き付けられる。本当はそんなものがあるかも分からないのに、誰もが憧れ、追い求め、磨いていく。
それ故に本物は何にも増して輝いて見えるのだ。
 彼の表情がほんの少しだけ緩む。
 それは何度も見た、もう二度と戻ることはできない夏の日の彼と同じだ。
 淡い煌めきがどこまでも遠くへ駆けていき、一本の道を作り出している。
 ……うん。今でもその記憶は私の中にちゃんとある。
『あなたの優しさ。あなたの笑顔。あなたの涙。あなたの葛藤――全部……全部好きでした。……おかしいよね。だって、私はあなた。あなたは私を知らない。どう考えても叶いっこないのに。……でも、それでもあなたが大好きです』
 そんな言葉を全て胸にしまい込む。
 手段がなくて言えなかった?
 伝わらないから言わなかった?
 そんなのもうどうでもよかった。
 君には届けない。この想いは――私だけの秘密。
 雲一つない空に向けられた指が、遠い思い出の彼とシンクロする。彼はあの頃と変わらない清純な声でその名前を呟く。
 じゃあ、私が最後に……最後に贈る言葉はこれしかない。
「あれがベガ、それで下側にデネブ、その右側にアルタイル」
『私はあなたというアルタイルの心に寄り添えて幸せで――』……………。
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