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九章 親に会って
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「いやあ、めでたい! 宏太くん、うちの娘をよろしくね!」
「はい、任せてください! 静香さんは僕が一生、支えてみせます」
「よく言った! それでこそ、男の子!」
ママはそう言って野々村さんの肩をバシバシ叩く。野々村さんも肩を叩かれて痛そうだったけど嬉しそう。
我が家の居間はお祭り騒ぎが爆発していた。ママと野々村さんとで盛りあがり、熱気がムンムン、『まさに夏!』って感じになっている。あたしの目には、居間の天井めがけて打ちあがる無数の花火がはっきり見えていた。
いやもう、ほんと、それぐらいま大騒ぎ。当事者のあたしなんてすっかり蚊帳の外。どちらからも相手にされない。忘れられた存在。っていうか、ママと野々村さんのノリの良さについていけず、自分から引いてしまって関わることができない。
生まれてはじめて親に男の子の友だちを紹介する。
そんな、一生に一度の大イベント。クールな外見のくせして熱血なママと、あたしを愛しまくっているパパとで、どんなことになるかと思っていたけど……いやもう、しょっぱなからママと野々村さんは意気投合。野々村さんが『内ヶ島ソーラーシステムを作る!』って宣言すると、
「よく言った! 若者はそうでなきゃ!」
ママはそう言って、たちまち、大騒ぎ。
「『作りたい』じゃなくて『作る!』って言い切るところが気に入ったわ。それだけ、覚悟を決めてるってことね」
「もちろんです! 何がなんでもやり遂げる! その思いがなかったらできることもできませんから」
「おおっ、そのとおり! 頼もしいぞ、若人よ」
って、言葉使いまで妙なことになっている。
「でっ、ソーラーシステムってなに?」
ママが真顔になってそう尋ねたのは、それからのことだった。
……いや、ママ。せめて、それを聞いてから盛りあがってよね。
とにかく、野々村さんはママに説明した。プロジェクト・太陽ドルの内容から、城の主になりたいっていう思いまで。そのために、あたしにアイドルになってほしいっていうことまで。
ママは腕組みしながら――やけに嬉しそうに――うんうんって聞いていたけどそのうち、どんどん上機嫌になっていって、そりゃあもう、二つ返事でOKよ。あたしが引いちゃうぐらいノリノリでの返事だったわ。
「でかした、静香! よくぞこんな途方もないプロジェクトに参加する気になったものね。それでこそ、わたしの娘。全力で取り組みなさい。わたしもできる限りの応援するわ。太陽ドルになって世界を希望の光で照らすのよ!」
……だから、ママ。初対面の人、誰もが『弁護士さんですか?』って聞いてくるようなクールで理知的なルックスのくせに、すぐに少年マンガの熱血主人公みたいになるのはやめて。ギャップがすごいから。
あたしは思わず、ママに言った。
「ちょ、ちょっとまってよ、ママ! なんで、そんな簡単にOKだしてるの⁉」
「なに言ってるの。OKもらいに来たんでしょう? それなのに、OKもらってなにが不満なのよ?」
「そ、それはそうなんだけど……でも、普通、こういう場合って『夢が必ず叶うならいいけど……』とかなんとか言って、将来を心配するものなんじゃないの?」
「いつも言ってるでしょ。叶うかどうかなんてただの結果。大切なのは挑戦すること。成長そのものを目的とすれば人生に失敗なんてないってね」
それは確かに、小さな頃からずっと聞かされているけど。
「途中で放り出すのは一番、悪い、とかよく言うけど、ふざけんじゃないわよ。それじゃなに? 自分の子どもが最初からなにもしないで一日中、寝て過ごしてたら満足するわけ? バカ言ってんじゃないわよ。三日坊主どころか、一日坊主だって、なにもしないよりは、やった方がいいに決まってるじゃない。どんなことでも行動すればその分、成長する。あんたもそうよ。プロジェクト・太陽ドルに参加すれば歌も踊りも本気で練習しなきゃいけない。その過程で何度もなんども壁にぶち当たり、苦労も挫折も味わって、人間として磨かれていく。同じように、将来を見据えて真剣になっている仲間とも出会える。その仲間たちと研鑽していくことであんたは確実に成長する。仲間とともに過ごした時間は、あんたの人生にとってかけがえのない財産になる。それ以上、なにが必要だって言うの?」
「で、でも、太陽ドルになれなかったら……」
「そのときはそのとき。道なんていくらでもあるわよ。太陽ドルを目指した経験を生かしてアイドル事務所に就職したっていいし、ステージのスタッフになるとか、アイドルのステージ衣装を作るとか、裏方になってアイドルを支える仕事についてもいいし、アイドルマンガを描いたり、アイドル育成ゲームを作るっていう手もあるんだから。
やる前から先の心配なんてしなくていいの。挑戦して、挑戦して、自分が登れるだけ高みに登って『もうダメだ』っていうところまで来たらそこから横にずれて、ちがう道に移ればいいだけなんだから。最初から『どうせ、叶うわけないし……』なんて言って、なにもせずにいるよりずっといい人生を送れる。でしょう?」
な、なるほど……。
そう言われてみると、たしかにそうかも。
「それじゃママは、あたしが太陽ドルを目指すのに賛成なのね?」
あたしが聞くとママは『ふん!』とばかりに胸を張って答えた。いや、だから、『お堅い弁護士』なルックスでそういう態度をとられるのは……。
「もちろんよ。大賛成。お金の心配ならいらないわよ。レッスン代ぐらい、出してあげられるから」
レッスン代か……。
そうよね。中学校のダンス部とはちがう。仮にもプロになって、ファンからお金をもらおうって言うんだもの。いままでとは比べものにならない厳しいレッスンをしなくちゃいけないし、そのためには先生につくなり、スクールに通うなりしなくちゃいけない。その分、お金だってかかるわけよね。その難点があっさりクリアできたらしいのはよかったけど……。
――そう言えば、レッスンとかどうなってるんだろう? なにか、あてとかあるのかな?
肝心なことをまだ、なにひとつ聞いていないことにいまさらながら思い当たった。まあ、まだ承知したばっかりで親の許可をもらい来た段階だから具体的なことをなにも聞いてなくても仕方ないのかも知れないけど、
――やっぱり、一応のことは先に聞いてから返事するべきだったかな? 野々村さんはどう考えてるんだろう?
あたしはふと、そう思った。
あれだけ熱心に起業や、アイドル業界について勉強してたんだからなにも考えてないとは思えないけど……。
あたしはチラリと野々村さんを見た。ところが――。
野々村さんはいま、そんなことを尋ねられる状況になかった。
なぜかと言うと、うちのパパが野々村さんの手を握りしめながらグスグス泣いていたから。
「……うう。娘が一緒に風呂に入ってくれなくなったとき『人生にこれ以上の悲哀はない!』と思った。しかし、ちがった。そんなものはまだまだ甘いものだったと、娘が自分の入ったあとの風呂には入らなくなったときに思い知らされた」
……だから、パパ。よその人にそういうことを言うのやめて。ひたすら、恥ずかしいでしょうが。ふたつの意味で。
「しかし、それすらも、いまから思えばハチミツ漬けの砂糖菓子のように甘いものだった。娘が親元から巣立つ日がこんなにも強く、悲しいものだとは……」
いや、あのね、パパ?
今日、野々村さんを連れてきた理由、わかってる? 『そういう話』をしに来たわけじゃないんだからね?
「娘はアイドルになる。それも、世界を照らす太陽ドルにだ! 嬉しい。しかし、さびしい! どうすればいいんだ、この気持ちは!」
って、パパは両手を広げて天を仰いでみせる。
あっ、よかった。一応、今日の話の内容は理解してたんだ。
それにしても、毎度まいど大袈裟なパパのこの態度。あたしとママは慣れているからいいとしても――ママなんて『まっ、いつものことだしね』って感じで、平気な顔でお茶なんて飲んでいる。こういうところは『冷徹な法律家』に見られるぐらいクールで理知的な外見にピッタリくるのよね。でも、野々村さんは……。
そう思って横目で野々村さんの様子をうかがったけど、えっ、ちょっとまって。野々村さん? なんか、パパと同調してない?
「だいじょうぶです、お父さん!」
そう叫んでパパの手を握り返す。
いきなり『お父さん!』なんて呼ぶな!
「静香さんならきっと、世界を照らす太陽ドルになってくれます! なにしろ、静香さんはかわいいし、明るいし、元気がよくて性格もいいから、絶対、必ず、世界を照らす光となってくれます」
「うん、その通りだ。よくわかっているね、宏太くん。静香はかわいい。見た目だったら日本一、性格だったら世界一、すべてひっくるめたなら宇宙一かわいい! 必ず、絶対、世界を照らすトップアイドルになる! しかし、そうなれば問題も出てくる。やっかむ輩だっているだろう。そのときは頼むぞ、宏太くん。娘を守ってやってくれ」
「もちろんです。静香さんは僕が全力で守ります!」
「よく言ってくれた! それでこそだ」
そう言って、パパと野々村さんは手をガッシリ握りあい、見つめあう。
いやいや、待ってまって。なんか、感動的な光景になってるけどそれ絶対、ちがう話になってるでしょ!
心のなかで叫ぶあたしに向かい、ママがチラッとクールな視線を向けてきた。
「よかったじゃない。すんなり嫁入りが認められて」
だから、ちが~う!
野々村さんと両親の面談を終えて――。
あたしは『野々村さんを送ってくるから』っていう口実で家を出た。ずっと泣きじゃくったままのパパと同じ家にはとてもじゃないけどいられなかったから。それにしても――。
疲れた!
家を出た途端、どっと疲れが全身に襲ってきた。それこそ、デッカいお城ひとつが丸々、背中に乗っかってる感じで、とにかく体が重い、だるい。思わず、うなだれて歩いてしまう。
そんなあたしの横で野々村さんは明るい笑顔で元気いっぱい。腹が立つぐらいの晴天野郎。
「いやあ、理解あるお母さんでよかったね、内ヶ島さん」
「いきなり『お母さん』はやめて!」
「えっ、なんで?」
怒鳴るあたしに、野々村さんはキョトンとした目を向けてくる。その心底、不思議そうな表情。本気でなにもわかってない。これだから、この中身小学生は!
「そ、それより、これからどうするの? ただ『太陽ドルになる!』なんて言ってたって、なれるわけないでしょ。やらなきゃいけないことはいっぱいあるはずだけど……」
「うん。内ヶ島さんには行ってもらいたいところ、会ってもらいたい人がたくさんいる。まずは、小田原ソーラーシステムを見学に行こう」
「小田原ソーラーシステム?」
「そう。ソーラーシステムを作るからにはやっぱり、ソーラーシステムというのがどういう場所が知っておいてもらわないとね。小田原ソーラーシステムは太陽ドル第一号ふぁいからりーふの本拠地だから、ソーラーシステムとしては一番、古いし、歴史がある。規模も大きいし、ソーラーシステムの特徴全部、もっているから見学にはうってつけだと思うんだ」
「ちょ、ちょっとまってよ! 小田原って……神奈川県の小田原でしょう?」
「そうだよ。ふぁいからりーふは小田原北条氏太陽ドルだからね」
「岐阜から神奈川まで行くの⁉ ……ふたりっきりで?」
「だいじょうぶ。僕はもう何度も行ってるからちゃんと案内できるよ。交通網も整備されてるから意外と時間もかからないしね」
そういうことを言ってるんじゃない!
ああもう、この無自覚なんとかして!
「はい、任せてください! 静香さんは僕が一生、支えてみせます」
「よく言った! それでこそ、男の子!」
ママはそう言って野々村さんの肩をバシバシ叩く。野々村さんも肩を叩かれて痛そうだったけど嬉しそう。
我が家の居間はお祭り騒ぎが爆発していた。ママと野々村さんとで盛りあがり、熱気がムンムン、『まさに夏!』って感じになっている。あたしの目には、居間の天井めがけて打ちあがる無数の花火がはっきり見えていた。
いやもう、ほんと、それぐらいま大騒ぎ。当事者のあたしなんてすっかり蚊帳の外。どちらからも相手にされない。忘れられた存在。っていうか、ママと野々村さんのノリの良さについていけず、自分から引いてしまって関わることができない。
生まれてはじめて親に男の子の友だちを紹介する。
そんな、一生に一度の大イベント。クールな外見のくせして熱血なママと、あたしを愛しまくっているパパとで、どんなことになるかと思っていたけど……いやもう、しょっぱなからママと野々村さんは意気投合。野々村さんが『内ヶ島ソーラーシステムを作る!』って宣言すると、
「よく言った! 若者はそうでなきゃ!」
ママはそう言って、たちまち、大騒ぎ。
「『作りたい』じゃなくて『作る!』って言い切るところが気に入ったわ。それだけ、覚悟を決めてるってことね」
「もちろんです! 何がなんでもやり遂げる! その思いがなかったらできることもできませんから」
「おおっ、そのとおり! 頼もしいぞ、若人よ」
って、言葉使いまで妙なことになっている。
「でっ、ソーラーシステムってなに?」
ママが真顔になってそう尋ねたのは、それからのことだった。
……いや、ママ。せめて、それを聞いてから盛りあがってよね。
とにかく、野々村さんはママに説明した。プロジェクト・太陽ドルの内容から、城の主になりたいっていう思いまで。そのために、あたしにアイドルになってほしいっていうことまで。
ママは腕組みしながら――やけに嬉しそうに――うんうんって聞いていたけどそのうち、どんどん上機嫌になっていって、そりゃあもう、二つ返事でOKよ。あたしが引いちゃうぐらいノリノリでの返事だったわ。
「でかした、静香! よくぞこんな途方もないプロジェクトに参加する気になったものね。それでこそ、わたしの娘。全力で取り組みなさい。わたしもできる限りの応援するわ。太陽ドルになって世界を希望の光で照らすのよ!」
……だから、ママ。初対面の人、誰もが『弁護士さんですか?』って聞いてくるようなクールで理知的なルックスのくせに、すぐに少年マンガの熱血主人公みたいになるのはやめて。ギャップがすごいから。
あたしは思わず、ママに言った。
「ちょ、ちょっとまってよ、ママ! なんで、そんな簡単にOKだしてるの⁉」
「なに言ってるの。OKもらいに来たんでしょう? それなのに、OKもらってなにが不満なのよ?」
「そ、それはそうなんだけど……でも、普通、こういう場合って『夢が必ず叶うならいいけど……』とかなんとか言って、将来を心配するものなんじゃないの?」
「いつも言ってるでしょ。叶うかどうかなんてただの結果。大切なのは挑戦すること。成長そのものを目的とすれば人生に失敗なんてないってね」
それは確かに、小さな頃からずっと聞かされているけど。
「途中で放り出すのは一番、悪い、とかよく言うけど、ふざけんじゃないわよ。それじゃなに? 自分の子どもが最初からなにもしないで一日中、寝て過ごしてたら満足するわけ? バカ言ってんじゃないわよ。三日坊主どころか、一日坊主だって、なにもしないよりは、やった方がいいに決まってるじゃない。どんなことでも行動すればその分、成長する。あんたもそうよ。プロジェクト・太陽ドルに参加すれば歌も踊りも本気で練習しなきゃいけない。その過程で何度もなんども壁にぶち当たり、苦労も挫折も味わって、人間として磨かれていく。同じように、将来を見据えて真剣になっている仲間とも出会える。その仲間たちと研鑽していくことであんたは確実に成長する。仲間とともに過ごした時間は、あんたの人生にとってかけがえのない財産になる。それ以上、なにが必要だって言うの?」
「で、でも、太陽ドルになれなかったら……」
「そのときはそのとき。道なんていくらでもあるわよ。太陽ドルを目指した経験を生かしてアイドル事務所に就職したっていいし、ステージのスタッフになるとか、アイドルのステージ衣装を作るとか、裏方になってアイドルを支える仕事についてもいいし、アイドルマンガを描いたり、アイドル育成ゲームを作るっていう手もあるんだから。
やる前から先の心配なんてしなくていいの。挑戦して、挑戦して、自分が登れるだけ高みに登って『もうダメだ』っていうところまで来たらそこから横にずれて、ちがう道に移ればいいだけなんだから。最初から『どうせ、叶うわけないし……』なんて言って、なにもせずにいるよりずっといい人生を送れる。でしょう?」
な、なるほど……。
そう言われてみると、たしかにそうかも。
「それじゃママは、あたしが太陽ドルを目指すのに賛成なのね?」
あたしが聞くとママは『ふん!』とばかりに胸を張って答えた。いや、だから、『お堅い弁護士』なルックスでそういう態度をとられるのは……。
「もちろんよ。大賛成。お金の心配ならいらないわよ。レッスン代ぐらい、出してあげられるから」
レッスン代か……。
そうよね。中学校のダンス部とはちがう。仮にもプロになって、ファンからお金をもらおうって言うんだもの。いままでとは比べものにならない厳しいレッスンをしなくちゃいけないし、そのためには先生につくなり、スクールに通うなりしなくちゃいけない。その分、お金だってかかるわけよね。その難点があっさりクリアできたらしいのはよかったけど……。
――そう言えば、レッスンとかどうなってるんだろう? なにか、あてとかあるのかな?
肝心なことをまだ、なにひとつ聞いていないことにいまさらながら思い当たった。まあ、まだ承知したばっかりで親の許可をもらい来た段階だから具体的なことをなにも聞いてなくても仕方ないのかも知れないけど、
――やっぱり、一応のことは先に聞いてから返事するべきだったかな? 野々村さんはどう考えてるんだろう?
あたしはふと、そう思った。
あれだけ熱心に起業や、アイドル業界について勉強してたんだからなにも考えてないとは思えないけど……。
あたしはチラリと野々村さんを見た。ところが――。
野々村さんはいま、そんなことを尋ねられる状況になかった。
なぜかと言うと、うちのパパが野々村さんの手を握りしめながらグスグス泣いていたから。
「……うう。娘が一緒に風呂に入ってくれなくなったとき『人生にこれ以上の悲哀はない!』と思った。しかし、ちがった。そんなものはまだまだ甘いものだったと、娘が自分の入ったあとの風呂には入らなくなったときに思い知らされた」
……だから、パパ。よその人にそういうことを言うのやめて。ひたすら、恥ずかしいでしょうが。ふたつの意味で。
「しかし、それすらも、いまから思えばハチミツ漬けの砂糖菓子のように甘いものだった。娘が親元から巣立つ日がこんなにも強く、悲しいものだとは……」
いや、あのね、パパ?
今日、野々村さんを連れてきた理由、わかってる? 『そういう話』をしに来たわけじゃないんだからね?
「娘はアイドルになる。それも、世界を照らす太陽ドルにだ! 嬉しい。しかし、さびしい! どうすればいいんだ、この気持ちは!」
って、パパは両手を広げて天を仰いでみせる。
あっ、よかった。一応、今日の話の内容は理解してたんだ。
それにしても、毎度まいど大袈裟なパパのこの態度。あたしとママは慣れているからいいとしても――ママなんて『まっ、いつものことだしね』って感じで、平気な顔でお茶なんて飲んでいる。こういうところは『冷徹な法律家』に見られるぐらいクールで理知的な外見にピッタリくるのよね。でも、野々村さんは……。
そう思って横目で野々村さんの様子をうかがったけど、えっ、ちょっとまって。野々村さん? なんか、パパと同調してない?
「だいじょうぶです、お父さん!」
そう叫んでパパの手を握り返す。
いきなり『お父さん!』なんて呼ぶな!
「静香さんならきっと、世界を照らす太陽ドルになってくれます! なにしろ、静香さんはかわいいし、明るいし、元気がよくて性格もいいから、絶対、必ず、世界を照らす光となってくれます」
「うん、その通りだ。よくわかっているね、宏太くん。静香はかわいい。見た目だったら日本一、性格だったら世界一、すべてひっくるめたなら宇宙一かわいい! 必ず、絶対、世界を照らすトップアイドルになる! しかし、そうなれば問題も出てくる。やっかむ輩だっているだろう。そのときは頼むぞ、宏太くん。娘を守ってやってくれ」
「もちろんです。静香さんは僕が全力で守ります!」
「よく言ってくれた! それでこそだ」
そう言って、パパと野々村さんは手をガッシリ握りあい、見つめあう。
いやいや、待ってまって。なんか、感動的な光景になってるけどそれ絶対、ちがう話になってるでしょ!
心のなかで叫ぶあたしに向かい、ママがチラッとクールな視線を向けてきた。
「よかったじゃない。すんなり嫁入りが認められて」
だから、ちが~う!
野々村さんと両親の面談を終えて――。
あたしは『野々村さんを送ってくるから』っていう口実で家を出た。ずっと泣きじゃくったままのパパと同じ家にはとてもじゃないけどいられなかったから。それにしても――。
疲れた!
家を出た途端、どっと疲れが全身に襲ってきた。それこそ、デッカいお城ひとつが丸々、背中に乗っかってる感じで、とにかく体が重い、だるい。思わず、うなだれて歩いてしまう。
そんなあたしの横で野々村さんは明るい笑顔で元気いっぱい。腹が立つぐらいの晴天野郎。
「いやあ、理解あるお母さんでよかったね、内ヶ島さん」
「いきなり『お母さん』はやめて!」
「えっ、なんで?」
怒鳴るあたしに、野々村さんはキョトンとした目を向けてくる。その心底、不思議そうな表情。本気でなにもわかってない。これだから、この中身小学生は!
「そ、それより、これからどうするの? ただ『太陽ドルになる!』なんて言ってたって、なれるわけないでしょ。やらなきゃいけないことはいっぱいあるはずだけど……」
「うん。内ヶ島さんには行ってもらいたいところ、会ってもらいたい人がたくさんいる。まずは、小田原ソーラーシステムを見学に行こう」
「小田原ソーラーシステム?」
「そう。ソーラーシステムを作るからにはやっぱり、ソーラーシステムというのがどういう場所が知っておいてもらわないとね。小田原ソーラーシステムは太陽ドル第一号ふぁいからりーふの本拠地だから、ソーラーシステムとしては一番、古いし、歴史がある。規模も大きいし、ソーラーシステムの特徴全部、もっているから見学にはうってつけだと思うんだ」
「ちょ、ちょっとまってよ! 小田原って……神奈川県の小田原でしょう?」
「そうだよ。ふぁいからりーふは小田原北条氏太陽ドルだからね」
「岐阜から神奈川まで行くの⁉ ……ふたりっきりで?」
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