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一三章 現代スローライフ
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「こ、ここが……」
野々村さんに連れてこられた内ヶ島ソーラーシステムの予定地。そこを一目見た瞬間、あたしは思わず、絶句していた。タラリタラリと脂汗まで流れ出る始末。
だって、だって――。
なんにもないじゃん!
小田原ソーラーシステムの豪華絢爛な佇まいを見てきたばっかりだし、ソーラーシステムの予定地って聞けば少しぐらいは期待するじゃない。レストランのひとつぐらいもあるとかさあ。
ところが、ここったら、ほんっと~になんにもない! 山のなかに草がボウボウに生えた空き地が広がってるだけ。レストランどころかお茶屋ひとつありはしない。
「本当にここが、内ヶ島ソーラーシステムの予定地なの?」
思わず、ジト目でそう疑っちゃったわよ。あとになってみれば失礼だったかと思うけど、この場合は仕方ないよね。こんな草ボウボウの空き地に連れてきた野々村さんが悪いんだから、うん。
「ここは知り合いの耕作放棄地なんだよ」
野々村さんは屈託のない笑顔でそう言った。相変わらず、無邪気な子どもっぽい目であたしを見ながら。この純真さ、なんだか反則っぽく見えてきた。
「耕作放棄地って……捨てられた畑ってこと?」
「そう。本人が歳をとって畑仕事もできなくなって、後継者もいない。だから、放り出しっぱなしでこの様になっちゃったんだ。それを借りてるんだよ」
「こんなところにソーラーシステムなんて、本当に作れるの?」
「もちろん」
って、野々村さんは自信満々にうなずいて見せた。その姿がなんかもう、学校での陰キャボッチの姿からは想像もできないぐらい頼もしかったりする。でも――。
――その自信はどこから来るのよ⁉
っていう気もする。
もと畑だかなんだか知らないけど、こんな草ボウボウの空き地にあんな豪華絢爛な施設ができるとはとてもじゃないけど思えない。
「なにも、小田原ソーラーシステムをお手本にすることはないよ」
野々村さんは、あたしの思いを読み取ったようにそう言った。
「僕たちは僕たちの身の丈に合ったソーラーシステムを作ればいい。たしかに、山奥の小さな耕作放棄地だけど、それでも、畑を作って、太陽電池を並べて、応援ハウスを経営することぐらいはできる。それに、耕作放棄地はまわりにいっぱいあるんだ。残念なことにね。内ヶ島さんが太陽ドルになってファンからいっぱい課金されるようになれば、新しい土地をどんどん借りて、広めていける。
この草ボウボウの荒れ地を畑に戻して、応援ハウスを建てて、レストランも作って、一歩いっぽ、僕たち自身の手でここに新しい世界を作っていくんだよ。そのために僕はいま、知り合いの農家から畑仕事を教わっているし、将来は調理師免許もとるつもりなんだ。自分でレストランを経営できるようにね」
こ、こいつ、そんなことやってたんだ。陰キャボッチでアイドルの動画ばっかり見てるキモヲタだと思っていたのに、そこまで将来のことを考えて行動していたなんて。まだ、中学生なのに。あたしなんて、学校生活だけで手一杯で将来のことなんて考えたこともないのに。
そりゃ、そんなことしてたら学校の部活に入ったり、放課後、カラオケに行ったりしてる暇なんてないよね。なんか、見直したわ。
でも『一歩いっぽ、新しい世界を作っていく』かあ。
それも、あたしたち自身の手で。
そう言われるとなんだかラノベによくある異世界開拓ものみたいで、ちょっとドキドキしてきた。たしかに、一から自分たちで作っていくっていうのは魅力あるかも。
メエエ~。
やけに、間延びした声がした。みると、そこには真っ白な毛に包まれた二頭のもふもふ!
「わっ、ヒツジじゃない! ここで飼ってるの?」
「『飼っている』っていうのとはちがうよ。住んでもらっているんだ。こんな草ボウボウじゃさすがに野菜なんて作れないけど、かと言って、自分の手で草むしりしてたらキリがないからね。ヒツジに住んでもらっていれば、たいていの草は食べて、土地をきれいにしてくれるから」
「なるほどねえ。ねえ、さわっていい?」
「いいよ。二頭ともメスでおとなしいからね。よほど乱暴に扱わない限りは危険はないから」
そ、そっか、よおし……。
ヒツジは見るからにふんわりしていてかわいいし、もふもふ具合も抜群。一度はさわってみたいと思ってた。でも、いままで機会がなかった。その機会がいま! やってきた! いざ、ふもふも初体験!
あたしは舌なめずりしながらヒツジに近づいた。両手をそっと伸ばし、気合いを込めて一気にもふもふのなかに両手を突っ込んだ!
うわあ、もふもふ、もふもふ!
期待を裏切らないもふもふ振り。これは気持ちいいわあ。
あたしは生まれてはじめてのもふもふにすっかり興奮してしまった。わしゃわしゃとかなり乱暴にもふってしまったけど野々村さんの言ったとおり、ヒツジたちはおとなしくしてくれていた。
「ねえねえ、この子たち、お乳は出すの? 乳搾りできる?」
「うん。ちゃんとミルクを出してくれるよ」
「やってみたい!」
「いまはダメだよ。乳搾りは朝と夕方の二回って決まってるから。この時間だとまだでないよ」
「じゃあ、夕方までまてばできるってことね?」
勢い込んで尋ねるあたしに、野々村さんはちょっと引いたみたいだった。
「う、うん、それはまあ……。でも、夕方までここにいたら帰りが遅くなるよ。お母さんたちが心配するよ」
「だいじょうぶ。ちゃんと連絡しておくから」
あたしはスマホを取り出して家に連絡した。パパはリモート勤務だからたいていの時間、家にいる。
「宏太くん。娘をよろしく頼むよ」
って言う、パパの涙交じりの声がスマホから流れてきて万事解決。あたしはそのまま夕方まで野々村さんの畑仕事を手伝うことにした。
「この二頭のヒツジは今年になってから知り合いにゆずってもらったんだ。だから、ここに住んでからまだ、あんまり日はたっていない。それでも、ちゃんと草を食べて、雑草だらけの放棄地をもとの畑に戻してくれている。糞をすることで、肥料もまいてくれている。これから、ここで野菜を作っていくんだ。最初はほんのちっぽけな畑だけど……それでも、一歩いっぽ広げていくんだ。自分の力で。将来、ここに立派なソーラーシステムを作りあげる、そのためにね」
野々村さんは目をキラキラさせながらそう語る。こんなふうに将来を語る人と一緒に過ごしたことなんていままでにない。スクールカーストの立場を守ることで精一杯で、そのための人付き合いしかなかったし。
だから、なんだか、ものすごく新鮮。刺激的。それになんだか……こいつがカッコよく見えてきた。
――まっすぐに将来を語る人って、こんなに気持ちいいんだ。
そう思った。
あたしは夕方まで畑仕事を手伝った。もちろん、畑仕事なんてはじめてだから野々村さんにいちいち教わりながら。
「僕も知り合いの農家に教わっているところだけど……」
野々村さんはそう言って恥ずかしそうに笑いながらそれでも、優しく、丁寧に教えてくれた。あたしは教えられるままに生まれてはじめての畑仕事に精を出した。邪魔になる草をむしったり、古くなった葉を摘んだり、ある程度、育った苗を間引いて苗を一本立ちさせたり……。
はじめてのことばかりでなかなか大変だったけどでも、楽しくもあった。自然いっぱいの山のなか、額に汗して働くのはなんとも気持ちよかった。
そして、念願の乳搾り。いよいよの体験に舌なめずりしながら、野々村さんに教わったとおりに乳を搾る。最初はなかなかうまく行かず、お乳は一滴も出てこなかった。ヒツジの方もなんだか痛そうにしていた。でも、野々村さんに根気よく教えてもらいながらやっているうちに段々、コツがつかめてきた。そして、ついに――。
シャアアッ!
音を立てて乳がほとばしった!
「やったあ!」
あたしは思わず叫んでいた。あんまり大きな声で叫んだのでヒツジがびっくりして跳びはねたぐらい。野々村さんがあわててヒツジを押さえて、あたしに言った。
「ダ、ダメだよ、内ヶ島さん! 動物はデリケートなんだから。いきなりそんな大声、出したらびっくりしちゃうよ」
「ご、ごめんなさい……!」
あたしは、お乳のついた両手で口を押さえた。
野々村さんがヒツジを落ち着かせてくれたところで、改めて挑戦。もうコツをつかんでいたので好調、好調。搾るたびにシャー、シャーって気持ちのいい音を立ててお乳がほとばしり、バケツのなかに溜まっていく。
「すごい。絞りたてのお乳ってこんなに暖かいんだ」
「そりゃあ、生きた動物の体内から出てくるわけだから」
それもそうだ。納得。
バケツにたまった真っ白なお乳。そのなかにカップを入れてお乳をすくう。生まれてはじめての自分で搾ったお乳。
う~ん。なんだか感無量って感じ。
一口、飲んでみる。とてもじゃないけどもったいなくて一気飲みなんてできない。せっかくの自分で搾ったお乳。じっくり味わって飲まないとね。
「……すごい。なんか味がすごく濃い。いつも飲んでる牛乳とは全然ちがう」
「実は、ヒツジのミルクは牛乳の二倍ぐらい栄養があるからね。その分、味もちがうよ」
「へえ、そうなんだ」
あたしは新鮮なお乳を飲みながら思った。自然豊かな山のなか、こうして野菜を育ててヒツジのお乳を搾って暮らしていくのも悪くない。異世界転生なんてしなくても、のんびりスローライフはできるんだ。
――よし、決めた!
あたしは心に思った。
――太陽ドル目指して全力でがんばろう。そして、もしダメなら内ヶ島ソーラーシステムにスタッフとして雇ってもらう。太陽ドルから、太陽ドルを売り出す方にまわる。あたしの人生はここにある!
野々村さんに連れてこられた内ヶ島ソーラーシステムの予定地。そこを一目見た瞬間、あたしは思わず、絶句していた。タラリタラリと脂汗まで流れ出る始末。
だって、だって――。
なんにもないじゃん!
小田原ソーラーシステムの豪華絢爛な佇まいを見てきたばっかりだし、ソーラーシステムの予定地って聞けば少しぐらいは期待するじゃない。レストランのひとつぐらいもあるとかさあ。
ところが、ここったら、ほんっと~になんにもない! 山のなかに草がボウボウに生えた空き地が広がってるだけ。レストランどころかお茶屋ひとつありはしない。
「本当にここが、内ヶ島ソーラーシステムの予定地なの?」
思わず、ジト目でそう疑っちゃったわよ。あとになってみれば失礼だったかと思うけど、この場合は仕方ないよね。こんな草ボウボウの空き地に連れてきた野々村さんが悪いんだから、うん。
「ここは知り合いの耕作放棄地なんだよ」
野々村さんは屈託のない笑顔でそう言った。相変わらず、無邪気な子どもっぽい目であたしを見ながら。この純真さ、なんだか反則っぽく見えてきた。
「耕作放棄地って……捨てられた畑ってこと?」
「そう。本人が歳をとって畑仕事もできなくなって、後継者もいない。だから、放り出しっぱなしでこの様になっちゃったんだ。それを借りてるんだよ」
「こんなところにソーラーシステムなんて、本当に作れるの?」
「もちろん」
って、野々村さんは自信満々にうなずいて見せた。その姿がなんかもう、学校での陰キャボッチの姿からは想像もできないぐらい頼もしかったりする。でも――。
――その自信はどこから来るのよ⁉
っていう気もする。
もと畑だかなんだか知らないけど、こんな草ボウボウの空き地にあんな豪華絢爛な施設ができるとはとてもじゃないけど思えない。
「なにも、小田原ソーラーシステムをお手本にすることはないよ」
野々村さんは、あたしの思いを読み取ったようにそう言った。
「僕たちは僕たちの身の丈に合ったソーラーシステムを作ればいい。たしかに、山奥の小さな耕作放棄地だけど、それでも、畑を作って、太陽電池を並べて、応援ハウスを経営することぐらいはできる。それに、耕作放棄地はまわりにいっぱいあるんだ。残念なことにね。内ヶ島さんが太陽ドルになってファンからいっぱい課金されるようになれば、新しい土地をどんどん借りて、広めていける。
この草ボウボウの荒れ地を畑に戻して、応援ハウスを建てて、レストランも作って、一歩いっぽ、僕たち自身の手でここに新しい世界を作っていくんだよ。そのために僕はいま、知り合いの農家から畑仕事を教わっているし、将来は調理師免許もとるつもりなんだ。自分でレストランを経営できるようにね」
こ、こいつ、そんなことやってたんだ。陰キャボッチでアイドルの動画ばっかり見てるキモヲタだと思っていたのに、そこまで将来のことを考えて行動していたなんて。まだ、中学生なのに。あたしなんて、学校生活だけで手一杯で将来のことなんて考えたこともないのに。
そりゃ、そんなことしてたら学校の部活に入ったり、放課後、カラオケに行ったりしてる暇なんてないよね。なんか、見直したわ。
でも『一歩いっぽ、新しい世界を作っていく』かあ。
それも、あたしたち自身の手で。
そう言われるとなんだかラノベによくある異世界開拓ものみたいで、ちょっとドキドキしてきた。たしかに、一から自分たちで作っていくっていうのは魅力あるかも。
メエエ~。
やけに、間延びした声がした。みると、そこには真っ白な毛に包まれた二頭のもふもふ!
「わっ、ヒツジじゃない! ここで飼ってるの?」
「『飼っている』っていうのとはちがうよ。住んでもらっているんだ。こんな草ボウボウじゃさすがに野菜なんて作れないけど、かと言って、自分の手で草むしりしてたらキリがないからね。ヒツジに住んでもらっていれば、たいていの草は食べて、土地をきれいにしてくれるから」
「なるほどねえ。ねえ、さわっていい?」
「いいよ。二頭ともメスでおとなしいからね。よほど乱暴に扱わない限りは危険はないから」
そ、そっか、よおし……。
ヒツジは見るからにふんわりしていてかわいいし、もふもふ具合も抜群。一度はさわってみたいと思ってた。でも、いままで機会がなかった。その機会がいま! やってきた! いざ、ふもふも初体験!
あたしは舌なめずりしながらヒツジに近づいた。両手をそっと伸ばし、気合いを込めて一気にもふもふのなかに両手を突っ込んだ!
うわあ、もふもふ、もふもふ!
期待を裏切らないもふもふ振り。これは気持ちいいわあ。
あたしは生まれてはじめてのもふもふにすっかり興奮してしまった。わしゃわしゃとかなり乱暴にもふってしまったけど野々村さんの言ったとおり、ヒツジたちはおとなしくしてくれていた。
「ねえねえ、この子たち、お乳は出すの? 乳搾りできる?」
「うん。ちゃんとミルクを出してくれるよ」
「やってみたい!」
「いまはダメだよ。乳搾りは朝と夕方の二回って決まってるから。この時間だとまだでないよ」
「じゃあ、夕方までまてばできるってことね?」
勢い込んで尋ねるあたしに、野々村さんはちょっと引いたみたいだった。
「う、うん、それはまあ……。でも、夕方までここにいたら帰りが遅くなるよ。お母さんたちが心配するよ」
「だいじょうぶ。ちゃんと連絡しておくから」
あたしはスマホを取り出して家に連絡した。パパはリモート勤務だからたいていの時間、家にいる。
「宏太くん。娘をよろしく頼むよ」
って言う、パパの涙交じりの声がスマホから流れてきて万事解決。あたしはそのまま夕方まで野々村さんの畑仕事を手伝うことにした。
「この二頭のヒツジは今年になってから知り合いにゆずってもらったんだ。だから、ここに住んでからまだ、あんまり日はたっていない。それでも、ちゃんと草を食べて、雑草だらけの放棄地をもとの畑に戻してくれている。糞をすることで、肥料もまいてくれている。これから、ここで野菜を作っていくんだ。最初はほんのちっぽけな畑だけど……それでも、一歩いっぽ広げていくんだ。自分の力で。将来、ここに立派なソーラーシステムを作りあげる、そのためにね」
野々村さんは目をキラキラさせながらそう語る。こんなふうに将来を語る人と一緒に過ごしたことなんていままでにない。スクールカーストの立場を守ることで精一杯で、そのための人付き合いしかなかったし。
だから、なんだか、ものすごく新鮮。刺激的。それになんだか……こいつがカッコよく見えてきた。
――まっすぐに将来を語る人って、こんなに気持ちいいんだ。
そう思った。
あたしは夕方まで畑仕事を手伝った。もちろん、畑仕事なんてはじめてだから野々村さんにいちいち教わりながら。
「僕も知り合いの農家に教わっているところだけど……」
野々村さんはそう言って恥ずかしそうに笑いながらそれでも、優しく、丁寧に教えてくれた。あたしは教えられるままに生まれてはじめての畑仕事に精を出した。邪魔になる草をむしったり、古くなった葉を摘んだり、ある程度、育った苗を間引いて苗を一本立ちさせたり……。
はじめてのことばかりでなかなか大変だったけどでも、楽しくもあった。自然いっぱいの山のなか、額に汗して働くのはなんとも気持ちよかった。
そして、念願の乳搾り。いよいよの体験に舌なめずりしながら、野々村さんに教わったとおりに乳を搾る。最初はなかなかうまく行かず、お乳は一滴も出てこなかった。ヒツジの方もなんだか痛そうにしていた。でも、野々村さんに根気よく教えてもらいながらやっているうちに段々、コツがつかめてきた。そして、ついに――。
シャアアッ!
音を立てて乳がほとばしった!
「やったあ!」
あたしは思わず叫んでいた。あんまり大きな声で叫んだのでヒツジがびっくりして跳びはねたぐらい。野々村さんがあわててヒツジを押さえて、あたしに言った。
「ダ、ダメだよ、内ヶ島さん! 動物はデリケートなんだから。いきなりそんな大声、出したらびっくりしちゃうよ」
「ご、ごめんなさい……!」
あたしは、お乳のついた両手で口を押さえた。
野々村さんがヒツジを落ち着かせてくれたところで、改めて挑戦。もうコツをつかんでいたので好調、好調。搾るたびにシャー、シャーって気持ちのいい音を立ててお乳がほとばしり、バケツのなかに溜まっていく。
「すごい。絞りたてのお乳ってこんなに暖かいんだ」
「そりゃあ、生きた動物の体内から出てくるわけだから」
それもそうだ。納得。
バケツにたまった真っ白なお乳。そのなかにカップを入れてお乳をすくう。生まれてはじめての自分で搾ったお乳。
う~ん。なんだか感無量って感じ。
一口、飲んでみる。とてもじゃないけどもったいなくて一気飲みなんてできない。せっかくの自分で搾ったお乳。じっくり味わって飲まないとね。
「……すごい。なんか味がすごく濃い。いつも飲んでる牛乳とは全然ちがう」
「実は、ヒツジのミルクは牛乳の二倍ぐらい栄養があるからね。その分、味もちがうよ」
「へえ、そうなんだ」
あたしは新鮮なお乳を飲みながら思った。自然豊かな山のなか、こうして野菜を育ててヒツジのお乳を搾って暮らしていくのも悪くない。異世界転生なんてしなくても、のんびりスローライフはできるんだ。
――よし、決めた!
あたしは心に思った。
――太陽ドル目指して全力でがんばろう。そして、もしダメなら内ヶ島ソーラーシステムにスタッフとして雇ってもらう。太陽ドルから、太陽ドルを売り出す方にまわる。あたしの人生はここにある!
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