27 / 32
二七章
美女ダチざまぁ。何ていい響き
しおりを挟む
「おわあっ!」
鴻志は声を上げた。あまりの勢いに助手席の上で体がバウンドし、シートに激しく押しつけられる。次の瞬間、反動で前に投げ出され、フロントガラスに突っ込みそうになる。すんでのところでダッシュボードに腕を伸ばし、衝突を食いとめる。安堵のため息をひとつ。
単に勢いのよすぎる運転、と言うわけではない。基本的に運転が下手なのに気分のままに飛ばしているものだから揺れる、揺れる。脳はシェイクされるわ、尻は痛いわ、ホラー映画なんかよりよっぽど怖い。
ダッシュボードに手をついた助手席からずり落ちそうな姿勢のまま、鴻志は横目で真梨子を見た。真梨子は世界的大作家に怪我をさせるところだったのも気にせず、楽しそうに運転している。
――こりゃだめだな。
眉をよせてそう悟った。悟らざるを得ない。下手にとめようとしたらそれこそ事故につながりかねない。ここは従うしかない。
舌打ちしながら助手席に座りなおす。腰を深々と沈める。シートベルトに手を伸ばす。
「……まさか、この歳になって誘拐されるとは思わんかった」
ぶつぶつ言いながらシートベルトをしめる。
ちらりと真梨子を見た。真梨子はとても楽しそう。髪型をかえたためだけではない。表情が輝いている。以前より一〇歳も若返ったような笑顔だ。
――何があったか知らんが……。
鴻志は心のなかで呟いた。
――こんな表情になるなら、まっ、少しぐらい付き合ってやってもいいか。
そう思わされるぐらい、真梨子は楽しそうだった。
住宅街を抜け、国道に入った。前後左右を無数の車にはさまれ、群れのなかの魚のように国道を走っていく。
真梨子がほがらかに声をかけた。
「どう? たまには車で飛ばすのもいいもんでしょ?」
鴻志は憮然として答えた。
「何を言っている。こんな狭苦しい箱のなかに閉じ込められて身動きひとつできない。拷問だぞ、これは」
「車、きらいなの?」
「きらいだ」
断言する鴻志である。
「だいたい、都会に住んでて車なんか必要ないだろうが。歩いていける距離に何だって売ってるんだし、配達だってしてくれる。ちょっと遠くに行きたいと思ったら電車だってバスだってあるんだ。車なんざ乗る必要ない」
「でも、自然のなかをドライブするのって気持ちいいと思わない?」
「こんな箱のなかで何が自然だ。そういうところは自分の足でのんびり歩くからいいんだ。車で通りすぎるなんて無粋の極みだ」
「現代人とも思えない言い草ね」
「あいにくだったな。おれは二一世紀最初の一九世紀ヨーロッパ型天才だ」
「一九世紀? ヨーロッパ?」
意味不明の言葉に真梨子は目をぱちくりさせて聞き返した。
ヨーロッパは伝統的に父性原理社会である。子供に対しては暴力をもってしても厳しくしつけ、服従を要求する。
一時代前のヨーロッパの天才たちはそのほとんどが支配者としての父親像に押しつぶされそうになりながら、そのなかでもがき、あらがい、立ち向かい、その葛藤のなかでほとんど自分自身を破滅させるようにして創造を行ってきた。そのことは母性原理社会である日本の天才が母親、あるいは『母親的な父親』との関係で語られることと対称を成している。
その点、鴻志は日本に生まれ育った身でありながら、支配者としてふるまう親との関係のなかで育ち、その態度が不当であったことを証明するために創造の世界に踏み込んだ。
鴻志の言う『二一世紀最初の一九世紀ヨーロッパ型天才』というのは、自分の境遇が一時代前のヨーロッパの天才たちと似通っていることを皮肉っぽく指摘したものである。
もちろん、歴史上の天才たちに対する知識をもたない真梨子にはそんな事情はわからない。鴻志もわざわざ説明する気はない。そんなことをくわしく説明したりしたら『彼らは皆、厳しくしつけられて天才になった。子供は厳しくすればするほどいいのだ』と言い出す人間が必ず現れる。自分の存在を理由に『支配と服従の関係』を正当化されてはたまったものではない。
車は高速に乗り速度を上げた。いよいよドライブらしくなってきたところで真梨子か思い出したように言った。
「そうそう。樹くんって覚えてる? 秋子の家のパーティーで会った……」
「あの画家志望のベビーフェイスか」
「そう。久しぶりに家に帰って留守電聞いたら、美里からの電話が入っててね。ものすごい怒り方でがなりたてててね。最初は何を言ってるのかわからないぐらいで驚いちゃったわ。それでよく聞いたらなんと……」
真梨子はぷっと噴き出した。おかしくておかしくてならない、と言うのと同時に『いい気味だわ』という意地悪な気分も混じっているような噴き出し方だった。
「なんとね! 樹くんが婚約解消してヨーロッパに行っちゃったんだって」
「はっ?」
「なんでも、あのパーティーであなたと話をしてもう一度、挑戦してみる気になったんですって。『生活のためにこんなごまかしの婚約をしたのはおれのまちがいだった。本当に絵が好きならどんな生活でも描きつづけられるはずだ』とか言って、着の身着のまま、ヨーロッパに修行に出ちゃったそうよ」
「……そこまでけしかけたつもりはないんだが」
いかにも爽快そうに話す真梨子の横で、鴻志は困惑して頬などをかいてみた。『夢を追いかける』と言えば聞こえはいいが、それで成功するという保証はどこにもない。二〇年後にはホームレスになって、どこかの地下鉄の駅の片隅で酒をかっくらって『あのとき、あんなバカなことをしなければ……』と愚痴をこぼしているかも知れないのだ。少なくとも、大画家として君臨するようになるよりは、そのほうが確率は高いだろう。
あのまま美里のもとにいればペットとしてであれ、アクセサリーとしてであれ、とにかく、生活だけは保障される。そのなかで画家としての道が開けたかも知れない。それなのにそのすべてを捨ててジャングルに飛び出してしまった。
もちろん、飼いイヌの幸せをすて、野性のオオカミとして生きる決意をしたことに対する共感はある。爽快とも感じる。これが自分に関わりのないまったくの他人のことなら『よくやった!』と屈託なく叫ぶところだ。
だが、そうさせたのが自分となればそうそう無責任にエールを送ってもいられない。責任を感じずにはいられない。樹の行動に対する鴻志の思いは単純なものにはなりえなかった。
――まあ、そうなった以上、成功するよう祈ることしかできないわけだが……。
あのパーティーでの樹の顔。じっと見つめていたいけれど『自分なんかがそんなことをしたら失礼だ』という思い込みがあってそれもできない。緊張でおどおどとした表情。森山鴻志を、ちょっと前までみじめな寄生虫に過ぎなかった森山鴻志を、あこがれの目で見てくれた若者。その若者の顔を思い浮かべながら、鴻志は胸のなかで呟きながら苦い思いをかみしめた。
「やったわよねえ、樹くん。やっぱり、男はこうでなくちゃ」
鴻志とは裏腹に単純明快で能天気な真梨子の声が響いた。子供っぽいと言うにも無邪気すぎるその声に、鴻志はいぶかしい思いで真梨子の表情をうかがった。
真梨子の表情はあくまでも明るく、迷いとか、逡巡とかいうものはまったくなかった。どこまでも単純で屈託がない。本気で樹の決断をほめたたえているようだ。
生活に対する不安とか、失敗したらどうするとか、そんなネガティブなことは頭のなかのどこにも入っていないらしい。まるで熱血少年マンガのキャラクターのような単純さ。いい歳したおとなの態度ではない。いくら、他人事と言っても度が過ぎる。鴻志は見ているうちに何だかだんだん腹が立ってきた。
――あの地味で暗くて、居心地の悪かった小山内真梨子が何だってこんな、の~天気ポジティブ女になってんだ? 何があった? まさか、本気でよからぬものにとり憑かれてるんじゃあるまいな。でなきゃクスリにでも手を出したか……。
いずれにせよ、何もなかったとはとうてい信じられない。海の向こうから沸き立つ暗雲のような、不気味な思いにかられる鴻志であった。
そんな鴻志の内心などお構いなしに、新生小山内真梨子は相変わらずの能天気さでしゃべり出した。
「そんなわけだからも~、美里ったら興奮しちゃって大変なの。『あの子はいままであたしに逆らったことなんてなかったのに!』とか、『こんなことになったのもあのいまいましい男のせいよ!』とか、『あんたなんか呼ぶんじゃなかったわよ!』とか、も~大騒ぎ。昔っから、いつだって『エレガントな女』でいようとしていたあの嫌味な美里が体面忘れてこんなに興奮するなんてね。ざまあみろってとこだわ。いやあ、爽快だったわあ」
そう言ってけらけら笑う。仮にも一〇年来の友人相手にそこまで言うとは、よっぽと鬱屈した人生送ってたんだな、こいつ……と、思わずにはいられない鴻志であった。
真梨子はさらにつづけた。
「そうそう、おまけに秋子からも電話があったのよ。秋子、覚えてるでしょ?」
「あのパーティーのホステスだろ? 大学教授の奥方の……」
「そう。それがもう泣きながら電話してきたのよ。いきなり『もう会えない』ってね。旦那さんがあれ以来、ものすごく不機嫌で、『二度とあの生意気な作家を呼ぶな』って息まいてるんですって。それで、あたしと付き合ってるとあなたとも会うことになるから――秋子はあなたがあたしの婚約者だって信じてるから――もうあたしとも付き合えないってね」
「……おれのせいで友人なくしたわけか。悪いことしたな」
「ああ、いいのよ。友だちって言ったって、引き立て役に引きまわされてただけだもの。せいせいしたわ」
「けど、泣きながら電話してきたんだろ?」
「おもちゃをなくした子供だって泣き叫ぶわよ」
「……意外にきついね、お前さん」
「まあね。以前のあたしならこんなことは言わなかったけど。でももう、以前のあたしじゃないから。ひとりになるのを恐れて子分役に甘んじるなんてもうごめんだわ。だから、いいタイミングだったの。これまでの腐った友人関係なんてみんな清算してやるわ。そして、もっといい友だちを作る。これからは、ね」
そう力強く語る真梨子の横顔に鴻志ははっとなった。内心の決意が露になったその表情。顔の作りそのものは決してきれいとはいえない。だが――。
実に美しい表情だった。
鴻志は声を上げた。あまりの勢いに助手席の上で体がバウンドし、シートに激しく押しつけられる。次の瞬間、反動で前に投げ出され、フロントガラスに突っ込みそうになる。すんでのところでダッシュボードに腕を伸ばし、衝突を食いとめる。安堵のため息をひとつ。
単に勢いのよすぎる運転、と言うわけではない。基本的に運転が下手なのに気分のままに飛ばしているものだから揺れる、揺れる。脳はシェイクされるわ、尻は痛いわ、ホラー映画なんかよりよっぽど怖い。
ダッシュボードに手をついた助手席からずり落ちそうな姿勢のまま、鴻志は横目で真梨子を見た。真梨子は世界的大作家に怪我をさせるところだったのも気にせず、楽しそうに運転している。
――こりゃだめだな。
眉をよせてそう悟った。悟らざるを得ない。下手にとめようとしたらそれこそ事故につながりかねない。ここは従うしかない。
舌打ちしながら助手席に座りなおす。腰を深々と沈める。シートベルトに手を伸ばす。
「……まさか、この歳になって誘拐されるとは思わんかった」
ぶつぶつ言いながらシートベルトをしめる。
ちらりと真梨子を見た。真梨子はとても楽しそう。髪型をかえたためだけではない。表情が輝いている。以前より一〇歳も若返ったような笑顔だ。
――何があったか知らんが……。
鴻志は心のなかで呟いた。
――こんな表情になるなら、まっ、少しぐらい付き合ってやってもいいか。
そう思わされるぐらい、真梨子は楽しそうだった。
住宅街を抜け、国道に入った。前後左右を無数の車にはさまれ、群れのなかの魚のように国道を走っていく。
真梨子がほがらかに声をかけた。
「どう? たまには車で飛ばすのもいいもんでしょ?」
鴻志は憮然として答えた。
「何を言っている。こんな狭苦しい箱のなかに閉じ込められて身動きひとつできない。拷問だぞ、これは」
「車、きらいなの?」
「きらいだ」
断言する鴻志である。
「だいたい、都会に住んでて車なんか必要ないだろうが。歩いていける距離に何だって売ってるんだし、配達だってしてくれる。ちょっと遠くに行きたいと思ったら電車だってバスだってあるんだ。車なんざ乗る必要ない」
「でも、自然のなかをドライブするのって気持ちいいと思わない?」
「こんな箱のなかで何が自然だ。そういうところは自分の足でのんびり歩くからいいんだ。車で通りすぎるなんて無粋の極みだ」
「現代人とも思えない言い草ね」
「あいにくだったな。おれは二一世紀最初の一九世紀ヨーロッパ型天才だ」
「一九世紀? ヨーロッパ?」
意味不明の言葉に真梨子は目をぱちくりさせて聞き返した。
ヨーロッパは伝統的に父性原理社会である。子供に対しては暴力をもってしても厳しくしつけ、服従を要求する。
一時代前のヨーロッパの天才たちはそのほとんどが支配者としての父親像に押しつぶされそうになりながら、そのなかでもがき、あらがい、立ち向かい、その葛藤のなかでほとんど自分自身を破滅させるようにして創造を行ってきた。そのことは母性原理社会である日本の天才が母親、あるいは『母親的な父親』との関係で語られることと対称を成している。
その点、鴻志は日本に生まれ育った身でありながら、支配者としてふるまう親との関係のなかで育ち、その態度が不当であったことを証明するために創造の世界に踏み込んだ。
鴻志の言う『二一世紀最初の一九世紀ヨーロッパ型天才』というのは、自分の境遇が一時代前のヨーロッパの天才たちと似通っていることを皮肉っぽく指摘したものである。
もちろん、歴史上の天才たちに対する知識をもたない真梨子にはそんな事情はわからない。鴻志もわざわざ説明する気はない。そんなことをくわしく説明したりしたら『彼らは皆、厳しくしつけられて天才になった。子供は厳しくすればするほどいいのだ』と言い出す人間が必ず現れる。自分の存在を理由に『支配と服従の関係』を正当化されてはたまったものではない。
車は高速に乗り速度を上げた。いよいよドライブらしくなってきたところで真梨子か思い出したように言った。
「そうそう。樹くんって覚えてる? 秋子の家のパーティーで会った……」
「あの画家志望のベビーフェイスか」
「そう。久しぶりに家に帰って留守電聞いたら、美里からの電話が入っててね。ものすごい怒り方でがなりたてててね。最初は何を言ってるのかわからないぐらいで驚いちゃったわ。それでよく聞いたらなんと……」
真梨子はぷっと噴き出した。おかしくておかしくてならない、と言うのと同時に『いい気味だわ』という意地悪な気分も混じっているような噴き出し方だった。
「なんとね! 樹くんが婚約解消してヨーロッパに行っちゃったんだって」
「はっ?」
「なんでも、あのパーティーであなたと話をしてもう一度、挑戦してみる気になったんですって。『生活のためにこんなごまかしの婚約をしたのはおれのまちがいだった。本当に絵が好きならどんな生活でも描きつづけられるはずだ』とか言って、着の身着のまま、ヨーロッパに修行に出ちゃったそうよ」
「……そこまでけしかけたつもりはないんだが」
いかにも爽快そうに話す真梨子の横で、鴻志は困惑して頬などをかいてみた。『夢を追いかける』と言えば聞こえはいいが、それで成功するという保証はどこにもない。二〇年後にはホームレスになって、どこかの地下鉄の駅の片隅で酒をかっくらって『あのとき、あんなバカなことをしなければ……』と愚痴をこぼしているかも知れないのだ。少なくとも、大画家として君臨するようになるよりは、そのほうが確率は高いだろう。
あのまま美里のもとにいればペットとしてであれ、アクセサリーとしてであれ、とにかく、生活だけは保障される。そのなかで画家としての道が開けたかも知れない。それなのにそのすべてを捨ててジャングルに飛び出してしまった。
もちろん、飼いイヌの幸せをすて、野性のオオカミとして生きる決意をしたことに対する共感はある。爽快とも感じる。これが自分に関わりのないまったくの他人のことなら『よくやった!』と屈託なく叫ぶところだ。
だが、そうさせたのが自分となればそうそう無責任にエールを送ってもいられない。責任を感じずにはいられない。樹の行動に対する鴻志の思いは単純なものにはなりえなかった。
――まあ、そうなった以上、成功するよう祈ることしかできないわけだが……。
あのパーティーでの樹の顔。じっと見つめていたいけれど『自分なんかがそんなことをしたら失礼だ』という思い込みがあってそれもできない。緊張でおどおどとした表情。森山鴻志を、ちょっと前までみじめな寄生虫に過ぎなかった森山鴻志を、あこがれの目で見てくれた若者。その若者の顔を思い浮かべながら、鴻志は胸のなかで呟きながら苦い思いをかみしめた。
「やったわよねえ、樹くん。やっぱり、男はこうでなくちゃ」
鴻志とは裏腹に単純明快で能天気な真梨子の声が響いた。子供っぽいと言うにも無邪気すぎるその声に、鴻志はいぶかしい思いで真梨子の表情をうかがった。
真梨子の表情はあくまでも明るく、迷いとか、逡巡とかいうものはまったくなかった。どこまでも単純で屈託がない。本気で樹の決断をほめたたえているようだ。
生活に対する不安とか、失敗したらどうするとか、そんなネガティブなことは頭のなかのどこにも入っていないらしい。まるで熱血少年マンガのキャラクターのような単純さ。いい歳したおとなの態度ではない。いくら、他人事と言っても度が過ぎる。鴻志は見ているうちに何だかだんだん腹が立ってきた。
――あの地味で暗くて、居心地の悪かった小山内真梨子が何だってこんな、の~天気ポジティブ女になってんだ? 何があった? まさか、本気でよからぬものにとり憑かれてるんじゃあるまいな。でなきゃクスリにでも手を出したか……。
いずれにせよ、何もなかったとはとうてい信じられない。海の向こうから沸き立つ暗雲のような、不気味な思いにかられる鴻志であった。
そんな鴻志の内心などお構いなしに、新生小山内真梨子は相変わらずの能天気さでしゃべり出した。
「そんなわけだからも~、美里ったら興奮しちゃって大変なの。『あの子はいままであたしに逆らったことなんてなかったのに!』とか、『こんなことになったのもあのいまいましい男のせいよ!』とか、『あんたなんか呼ぶんじゃなかったわよ!』とか、も~大騒ぎ。昔っから、いつだって『エレガントな女』でいようとしていたあの嫌味な美里が体面忘れてこんなに興奮するなんてね。ざまあみろってとこだわ。いやあ、爽快だったわあ」
そう言ってけらけら笑う。仮にも一〇年来の友人相手にそこまで言うとは、よっぽと鬱屈した人生送ってたんだな、こいつ……と、思わずにはいられない鴻志であった。
真梨子はさらにつづけた。
「そうそう、おまけに秋子からも電話があったのよ。秋子、覚えてるでしょ?」
「あのパーティーのホステスだろ? 大学教授の奥方の……」
「そう。それがもう泣きながら電話してきたのよ。いきなり『もう会えない』ってね。旦那さんがあれ以来、ものすごく不機嫌で、『二度とあの生意気な作家を呼ぶな』って息まいてるんですって。それで、あたしと付き合ってるとあなたとも会うことになるから――秋子はあなたがあたしの婚約者だって信じてるから――もうあたしとも付き合えないってね」
「……おれのせいで友人なくしたわけか。悪いことしたな」
「ああ、いいのよ。友だちって言ったって、引き立て役に引きまわされてただけだもの。せいせいしたわ」
「けど、泣きながら電話してきたんだろ?」
「おもちゃをなくした子供だって泣き叫ぶわよ」
「……意外にきついね、お前さん」
「まあね。以前のあたしならこんなことは言わなかったけど。でももう、以前のあたしじゃないから。ひとりになるのを恐れて子分役に甘んじるなんてもうごめんだわ。だから、いいタイミングだったの。これまでの腐った友人関係なんてみんな清算してやるわ。そして、もっといい友だちを作る。これからは、ね」
そう力強く語る真梨子の横顔に鴻志ははっとなった。内心の決意が露になったその表情。顔の作りそのものは決してきれいとはいえない。だが――。
実に美しい表情だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる