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朱夏編第一話
二章 バカップルはバカ夫婦へと進化した
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「はい、追加の品よ」
宴もたけなわ。若く、健康な胃袋に、用意された食材が次々と消えていき、物足りなさを覚えた頃、笑苗がもってきたのは、
「ダチョウの卵でも使ったのか⁉」
と、他人を驚かせるほどに巨大な卵焼き。
しかし、驚かされるのはその大きさだけではない。
見た目の完璧さも、同じぐらい他人を驚かせるものだった。
色合いは均一な黄色で、金粉を溶かして染めあげたかのよう。色ムラのあるところがまったくない。しっかりと巻かれた断面は絵画のようにきれい。
表面の焼き色はまさに『適度』の見本。濃すぎず、薄すぎず、一目見て腹の虫が鳴りそうなぐらいおいしそう。なんとも、食欲をそそる色合いだ。
それでいて、なかまでしっかり火が通っていて生焼けのところがまったくない。まるで、一流料亭に出てくるかのような完璧な卵焼き。
「わあっ、おいしそう。いただきま~す!」
澪が小さな女の子のように無邪気に喜んで、卵焼きに箸を延ばす。巨大すぎる卵焼きの一部を切りとり、口へと運ぶ。
その途端、誰もが一目見て好きにならずにはいられないような幸せいっぱい、お日さまいっぱいの笑顔が浮かぶ。
「うん、おいしい! やっぱり、笑苗の卵焼きは天下一品ね」
素直な賛辞に笑苗は鼻高々。『ふん!』とばかりに胸を張っている。
「本当。笑苗の卵焼きも三年ぶりだけど、ますます上手になったんじゃない?」
「そりゃあね。各国を渡り歩くなかでも樹とふたり、いつでも愛情いっぱいで作ってきたんだもの。おいしいに決まってるわよ」
笑苗はあきらの言葉に、恥じらいも謙遜もなく自慢して見せた。そのまま夫の腕に抱きつき、幸せオーラを辺りかまわず放ちまくる。
「ねっ、樹」
「ああ」
樹のほうも妻に負けず劣らず愛情のこもった笑顔で笑苗を見つめる。その態度、恋人いない歴=年齢のぼっち族でなくても嫉妬で狂ってしまいそうなものだった。
「なるほどねえ。おいしいわけだわ」
澪が『うんうん』とうなずいて見せた。
「実際、この卵焼きなら、これだけでお店がもてるわよ。あたしが言うんだからまちがいない!」
「そりゃあな。卵焼きにかけては笑苗の右に出るやつはいないって」
慶吾がそう言うのには理由がある。
卵焼きは笑苗と樹にとっては思い出の料理。
罰ゲームの嘘告で付き合いはじめて間もない頃、笑苗と樹は弁当のおかずを交換していた。
しかし、樹の弁当が自前の野菜をふんだんに使った手作りなのに対し、笑苗の弁当は冷凍食品をレンジでチンして詰めただけ、という代物。
「これじゃ、さすがに釣り合いがとれないわ」
と、反省した笑苗は一念発起。自分でも手料理を振る舞うことにした。
そして、作ったのが――と言うか、作ろうとしたのが――卵焼き。
しかし、それまでの人生で一度たりとも『料理』などしたことのない身。当然、まともにできるはずはなく、出来上がったものはと言えば表面は黒焦げ、中身はデロデロのスライムだった。
それこそ、卵を産んだ母ニワトリが見れば、
「スライムにするために卵を産んだんじゃない!」
と、『トサカに』来て、つついてきそうな代物だった。
見た目だけではなく、味も最悪。
苦い。
甘い。
しょっぱい。
そして、まずい。
の、四重苦。
当時、中学生だった笑苗の弟が、
「……姉ちゃん。人死にだけは出すなよ」
と、真剣に心配するような代物だった。
笑苗自身、自分で、自分の卵焼きを食べた際、
「あたし、他人様にこんなものを食べさせたの⁉」
と、猛省――『味見ぐらい先にしとけ!』というツッコみはこの際、なしとして――した。
その後、樹お手製の卵焼きを食べて、その見た目のきれいさと味の良さとに感動したこともあって、その場で樹の弟子入り。卵焼きの作り方を教わることにした。
嘘告、嘘付き合いだったふたりの関係を一気に深めるきっかけとなった料理。
それが、卵焼き。
言わば、笑苗と樹にとっての愛のキューピッド。
それだけに、思いを込めて作るのは当たり前だし、笑苗が、
「卵焼きなら、どんな一流プロにも負けない!」
と、豪語するのも当然なのだった。
「しかし、わからないものだな」
雅史が卵焼きを食べながら言った。
「料理なんて一切、興味がなくて、作ろうともしなかった笑苗が、こんなにうまい卵焼きを作れるようになるなんてな」
「それだけ練習したもの」
笑苗は照れも恥じらいもせずにそう言って、胸を張る。
それだけ、卵焼き作りにかけては修行した。
その自信があるからこその態度である。
「ああ、そのとおりだよ。笑苗。君は本当に一所懸命に練習したからね」
「ありがとう、樹。君の教え方が上手だったおかげよ」
樹と笑苗はピッタリよりそいイチャイチャしだす。
あたり一面、他人の迷惑顧みず、♡マークが乱れ飛び、慶吾と雅史はさすがに引き気味。そのなかであきらがふと、不思議そうに呟いた。
「あのふたり、帰ってきてからどっちも『君』呼びよね?」
「そう言えばそうだな」と、雅史もうなずいた。
「欧米は男女平等が進んでいるからな。各国を巡って、その態度が身についたんじゃないか?」
「なるほどねえ。雅史なんて、いつでも『お前』呼びなのにねえ」
「慶吾もだよね。いつでも、どこでも『お前、お前』なんだから」
妻からそう指摘されて、慶吾と雅史は見るからにたじろいだ。
「な、なんだよ! 亭主が自分の女房のことを『お前』って呼んで、なにか悪いんだよ!」
「べつに悪くはないわよ? ただ、自分の妻を対等の存在と認めて『君』呼びする人の方が格好いいって思うだけ」
澪がニッコリ笑って、圧をかけつつそう言うと、あきらもクールな視線で指摘した。
「自分のことを『亭主』なんていう時点で対等の意識がないしね」
続けざまにそう言われて慶吾はさすがにたじろいだが、すぐに自棄になったような態度になった。
「わ、わかったよ! 『君』って呼べばいいんだろ! これからは、おれも『君』って呼ぶよ! 君、君、君!」
澪は夫のそんな態度に小首をかしげて、両手を合わせ、ニッコリと微笑んだ。
「さすが、慶吾。そういう素直なところ、大好き」
「あ、ああ、まあな……」
愛する妻にそう言われて、慶吾はたちまち得意気になった。胸をそらし、鼻の下などを指でこすってみせる。
なんとも単純で子どもっぽい仕種だが、それだけに人の良さがよく表われている。『単純だが良いやつ』な慶吾らしい姿だった。
一方、雅史は、あきらからジッと見つめられて、
「……わかった。今後はおれも『君』と呼ぶ」
両目を閉じて、指先でメガネをいじり、頬をほんのり赤く染めた姿でそう言った。
はた目には『しぶしぶ』という感じにしか見えないが、雅史にとっては照れ隠しの姿であることを、妻のあきらはよく知っている。
「それじゃ、わたしも『君』呼びっていうことで」
「……ああ」
二組の夫婦がやり取りしているその目の前で、樹と笑苗のふたりは相変わらずイチャついている。抱きあい、お互いにまっすぐ見つめあい、
「愛してる、笑苗」
「愛してる、樹」
と、言いあっている。
その姿に慶吾と雅史はさすがにドン引き。澪とあきらは胸きゅん。
「なあ、樹、お前……」
慶吾はそう言いかけたところで言葉を呑み込んだ。澪を見た。そして、聞いた。
「男同士なら『お前』呼びでいいよな?」
「……そこまで気を使うなよ」
樹に半ばあきれられながらそう言われたので、めでたく(?)『お前』呼びで決定した。
「樹。お前やっぱり、三年間の海外暮らしで性格、かわっただろ」
「性格はかわっていない。態度をかえただけだ。あちこちを巡って、何度も言われたからな。『結婚はゴールじゃない。スタートだ。幸せな結婚生活をつづけて人生のゴールを切るためには、お互いの努力が欠かせないし、愛情表現を忘れてはならない』ってさんざん、言われたからな」
「お前、農業の視察に行ったのか、夫婦生活の視察に行ったのか、どっちだ⁉」
慶吾は思わずどなったが、樹は照れも恥じらいもなく、当然のこととして答えた。
「両方だ。絶対に笑苗を失いたくないからな。歳をとっても仲の良い夫婦を見つけるたび、秘訣について聞いてきた」
その言葉に笑苗はますますピッタリくっつき、あたり一面に♡マークを飛ばしまくる。
その姿に澪とあきらは『……うらやましい』と、表情と仕種で語っている。
樹はのろける様子もなく真剣そのものの態度と表情とでつづけた。
「その人たちに教えられたのは、愛情表現を欠かさないこと、自分の気持ちをきちんと言葉として伝えること、そして、不平不満は溜め込まずにすぐに口にして、すぐに解決すること。この三年間、そうやって暮らしてきた」
「……いいなあ」
澪が片手を頬に当ててウットリと呟いた。
「やっぱり、しっかり愛情を言葉にして伝えてくれる夫くんって最高よねえ」
「な、なんだよ! それぐらい、おれだってできるぞ。愛してる、澪! 愛してる、愛してる、愛してる!」
「うん。あたしも愛してるわ、慶吾」
ニッコリ笑ってそう答える澪であった。
一方、仲間たちの『愛してる!』攻勢に取り残された感のある雅史は、メガネ越しの視線を妻へと向けた。
「……おれに、あのノリを期待しないでくれよ」
「し、してないわよ……! あんた……じゃなくて、君の性格は知ってるし。あんなこと言われたって困るし」
あきらは拗ねたような、恥じ入ったような表情でそっぽを向いた。そのあきらの耳にぼそっと呟く夫の声が届いた。
「……愛してる」
「な、なによ、急に⁉」
「おれだって、お前……君を失いたくはない。そのために必要なら、これぐらいのことは言うさ」
「……ばか」
あきらはそっぽを向いたまま言った。そして、呟いた。
「……愛してる」
宴もたけなわ。若く、健康な胃袋に、用意された食材が次々と消えていき、物足りなさを覚えた頃、笑苗がもってきたのは、
「ダチョウの卵でも使ったのか⁉」
と、他人を驚かせるほどに巨大な卵焼き。
しかし、驚かされるのはその大きさだけではない。
見た目の完璧さも、同じぐらい他人を驚かせるものだった。
色合いは均一な黄色で、金粉を溶かして染めあげたかのよう。色ムラのあるところがまったくない。しっかりと巻かれた断面は絵画のようにきれい。
表面の焼き色はまさに『適度』の見本。濃すぎず、薄すぎず、一目見て腹の虫が鳴りそうなぐらいおいしそう。なんとも、食欲をそそる色合いだ。
それでいて、なかまでしっかり火が通っていて生焼けのところがまったくない。まるで、一流料亭に出てくるかのような完璧な卵焼き。
「わあっ、おいしそう。いただきま~す!」
澪が小さな女の子のように無邪気に喜んで、卵焼きに箸を延ばす。巨大すぎる卵焼きの一部を切りとり、口へと運ぶ。
その途端、誰もが一目見て好きにならずにはいられないような幸せいっぱい、お日さまいっぱいの笑顔が浮かぶ。
「うん、おいしい! やっぱり、笑苗の卵焼きは天下一品ね」
素直な賛辞に笑苗は鼻高々。『ふん!』とばかりに胸を張っている。
「本当。笑苗の卵焼きも三年ぶりだけど、ますます上手になったんじゃない?」
「そりゃあね。各国を渡り歩くなかでも樹とふたり、いつでも愛情いっぱいで作ってきたんだもの。おいしいに決まってるわよ」
笑苗はあきらの言葉に、恥じらいも謙遜もなく自慢して見せた。そのまま夫の腕に抱きつき、幸せオーラを辺りかまわず放ちまくる。
「ねっ、樹」
「ああ」
樹のほうも妻に負けず劣らず愛情のこもった笑顔で笑苗を見つめる。その態度、恋人いない歴=年齢のぼっち族でなくても嫉妬で狂ってしまいそうなものだった。
「なるほどねえ。おいしいわけだわ」
澪が『うんうん』とうなずいて見せた。
「実際、この卵焼きなら、これだけでお店がもてるわよ。あたしが言うんだからまちがいない!」
「そりゃあな。卵焼きにかけては笑苗の右に出るやつはいないって」
慶吾がそう言うのには理由がある。
卵焼きは笑苗と樹にとっては思い出の料理。
罰ゲームの嘘告で付き合いはじめて間もない頃、笑苗と樹は弁当のおかずを交換していた。
しかし、樹の弁当が自前の野菜をふんだんに使った手作りなのに対し、笑苗の弁当は冷凍食品をレンジでチンして詰めただけ、という代物。
「これじゃ、さすがに釣り合いがとれないわ」
と、反省した笑苗は一念発起。自分でも手料理を振る舞うことにした。
そして、作ったのが――と言うか、作ろうとしたのが――卵焼き。
しかし、それまでの人生で一度たりとも『料理』などしたことのない身。当然、まともにできるはずはなく、出来上がったものはと言えば表面は黒焦げ、中身はデロデロのスライムだった。
それこそ、卵を産んだ母ニワトリが見れば、
「スライムにするために卵を産んだんじゃない!」
と、『トサカに』来て、つついてきそうな代物だった。
見た目だけではなく、味も最悪。
苦い。
甘い。
しょっぱい。
そして、まずい。
の、四重苦。
当時、中学生だった笑苗の弟が、
「……姉ちゃん。人死にだけは出すなよ」
と、真剣に心配するような代物だった。
笑苗自身、自分で、自分の卵焼きを食べた際、
「あたし、他人様にこんなものを食べさせたの⁉」
と、猛省――『味見ぐらい先にしとけ!』というツッコみはこの際、なしとして――した。
その後、樹お手製の卵焼きを食べて、その見た目のきれいさと味の良さとに感動したこともあって、その場で樹の弟子入り。卵焼きの作り方を教わることにした。
嘘告、嘘付き合いだったふたりの関係を一気に深めるきっかけとなった料理。
それが、卵焼き。
言わば、笑苗と樹にとっての愛のキューピッド。
それだけに、思いを込めて作るのは当たり前だし、笑苗が、
「卵焼きなら、どんな一流プロにも負けない!」
と、豪語するのも当然なのだった。
「しかし、わからないものだな」
雅史が卵焼きを食べながら言った。
「料理なんて一切、興味がなくて、作ろうともしなかった笑苗が、こんなにうまい卵焼きを作れるようになるなんてな」
「それだけ練習したもの」
笑苗は照れも恥じらいもせずにそう言って、胸を張る。
それだけ、卵焼き作りにかけては修行した。
その自信があるからこその態度である。
「ああ、そのとおりだよ。笑苗。君は本当に一所懸命に練習したからね」
「ありがとう、樹。君の教え方が上手だったおかげよ」
樹と笑苗はピッタリよりそいイチャイチャしだす。
あたり一面、他人の迷惑顧みず、♡マークが乱れ飛び、慶吾と雅史はさすがに引き気味。そのなかであきらがふと、不思議そうに呟いた。
「あのふたり、帰ってきてからどっちも『君』呼びよね?」
「そう言えばそうだな」と、雅史もうなずいた。
「欧米は男女平等が進んでいるからな。各国を巡って、その態度が身についたんじゃないか?」
「なるほどねえ。雅史なんて、いつでも『お前』呼びなのにねえ」
「慶吾もだよね。いつでも、どこでも『お前、お前』なんだから」
妻からそう指摘されて、慶吾と雅史は見るからにたじろいだ。
「な、なんだよ! 亭主が自分の女房のことを『お前』って呼んで、なにか悪いんだよ!」
「べつに悪くはないわよ? ただ、自分の妻を対等の存在と認めて『君』呼びする人の方が格好いいって思うだけ」
澪がニッコリ笑って、圧をかけつつそう言うと、あきらもクールな視線で指摘した。
「自分のことを『亭主』なんていう時点で対等の意識がないしね」
続けざまにそう言われて慶吾はさすがにたじろいだが、すぐに自棄になったような態度になった。
「わ、わかったよ! 『君』って呼べばいいんだろ! これからは、おれも『君』って呼ぶよ! 君、君、君!」
澪は夫のそんな態度に小首をかしげて、両手を合わせ、ニッコリと微笑んだ。
「さすが、慶吾。そういう素直なところ、大好き」
「あ、ああ、まあな……」
愛する妻にそう言われて、慶吾はたちまち得意気になった。胸をそらし、鼻の下などを指でこすってみせる。
なんとも単純で子どもっぽい仕種だが、それだけに人の良さがよく表われている。『単純だが良いやつ』な慶吾らしい姿だった。
一方、雅史は、あきらからジッと見つめられて、
「……わかった。今後はおれも『君』と呼ぶ」
両目を閉じて、指先でメガネをいじり、頬をほんのり赤く染めた姿でそう言った。
はた目には『しぶしぶ』という感じにしか見えないが、雅史にとっては照れ隠しの姿であることを、妻のあきらはよく知っている。
「それじゃ、わたしも『君』呼びっていうことで」
「……ああ」
二組の夫婦がやり取りしているその目の前で、樹と笑苗のふたりは相変わらずイチャついている。抱きあい、お互いにまっすぐ見つめあい、
「愛してる、笑苗」
「愛してる、樹」
と、言いあっている。
その姿に慶吾と雅史はさすがにドン引き。澪とあきらは胸きゅん。
「なあ、樹、お前……」
慶吾はそう言いかけたところで言葉を呑み込んだ。澪を見た。そして、聞いた。
「男同士なら『お前』呼びでいいよな?」
「……そこまで気を使うなよ」
樹に半ばあきれられながらそう言われたので、めでたく(?)『お前』呼びで決定した。
「樹。お前やっぱり、三年間の海外暮らしで性格、かわっただろ」
「性格はかわっていない。態度をかえただけだ。あちこちを巡って、何度も言われたからな。『結婚はゴールじゃない。スタートだ。幸せな結婚生活をつづけて人生のゴールを切るためには、お互いの努力が欠かせないし、愛情表現を忘れてはならない』ってさんざん、言われたからな」
「お前、農業の視察に行ったのか、夫婦生活の視察に行ったのか、どっちだ⁉」
慶吾は思わずどなったが、樹は照れも恥じらいもなく、当然のこととして答えた。
「両方だ。絶対に笑苗を失いたくないからな。歳をとっても仲の良い夫婦を見つけるたび、秘訣について聞いてきた」
その言葉に笑苗はますますピッタリくっつき、あたり一面に♡マークを飛ばしまくる。
その姿に澪とあきらは『……うらやましい』と、表情と仕種で語っている。
樹はのろける様子もなく真剣そのものの態度と表情とでつづけた。
「その人たちに教えられたのは、愛情表現を欠かさないこと、自分の気持ちをきちんと言葉として伝えること、そして、不平不満は溜め込まずにすぐに口にして、すぐに解決すること。この三年間、そうやって暮らしてきた」
「……いいなあ」
澪が片手を頬に当ててウットリと呟いた。
「やっぱり、しっかり愛情を言葉にして伝えてくれる夫くんって最高よねえ」
「な、なんだよ! それぐらい、おれだってできるぞ。愛してる、澪! 愛してる、愛してる、愛してる!」
「うん。あたしも愛してるわ、慶吾」
ニッコリ笑ってそう答える澪であった。
一方、仲間たちの『愛してる!』攻勢に取り残された感のある雅史は、メガネ越しの視線を妻へと向けた。
「……おれに、あのノリを期待しないでくれよ」
「し、してないわよ……! あんた……じゃなくて、君の性格は知ってるし。あんなこと言われたって困るし」
あきらは拗ねたような、恥じ入ったような表情でそっぽを向いた。そのあきらの耳にぼそっと呟く夫の声が届いた。
「……愛してる」
「な、なによ、急に⁉」
「おれだって、お前……君を失いたくはない。そのために必要なら、これぐらいのことは言うさ」
「……ばか」
あきらはそっぽを向いたまま言った。そして、呟いた。
「……愛してる」
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