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第一章 はじまり

【閑話】イザベルの休日 3

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 アニーと共に暫く歩くとすぐにカフェが見えてきた。

「こちらがお店です」

 おっと、カフェだからと軽い気持ちでいたけど立派な門構えのお店ね。

 近くにいたドアマンが扉を開けると、豪華な内装が飛び込んできた。

 おお、ここは前世で行ったことのある日本の銀〇にある某有名パティスリーのお店に近い内装だわ。

 そんな事を考えつつ、店員に席まで案内して貰う途中にふと金髪の男が目についた。

 あれ、あの人どっかで見覚えが。

 すると男は急に立ち上がり、こちらへ歩み寄ってきた。

 ああ! このキラキラ美男子はヘンリー殿下じゃない!?

「やぁ、イザベル嬢。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「ご、ごきげんよう、ヘンリー殿下」
「今日は市井に買い物か?」
「あ、はい。左様でございますわ」
「そうか。立ち話も何だし、もし良ければこちらの席で話をしないか」

 え、ヘンリー殿下と一緒の席!?
 で、でも下手に断れないしなぁ。

「は、はい……」

 渋々ヘンリー殿下と一緒の席に着くと、ヘンリー殿下はどこか嬉しそうな様子で口を開いた。

「いや、こんな偶然は中々ない。イザベル嬢と私は見えない何かで繋がっているのかも知れないな」
「そ、そうでしょうか? おほほほ」

 見えない何かはきっと赤い糸なんかではなくゲーム補正なんだろうな、と内心苦笑をしていると、ヘンリー殿下はメニュー表を渡してくれた。

「さて、イザベル嬢は何か食べたい物があるだろうか」
「ありがとうございます」

 わぁ、いっぱいメニューがある。
 どれも美味しそうに見えてきて目移りしちゃうなぁ。

「イザベル嬢、甘味は好みか?」
「ええ。好きですわ」
「そうかそうか。では甘めとさっぱりめ、どちらの甘味が好みだろうか」
「えっと。甘い方が好みですわ」
「では、これなんかどうだ? あとはこれとかもオススメだ」

 あれ、ヘンリー殿下やけに詳しいな。

「教えていただいてありがとうございます。ヘンリー殿下はこちらのお店に詳しいのですね」
「ああ、実は私も甘味が好きでね。たまに時間を見付けて来ているんだ」
「まぁ、そうだったのですね!」

 なにぃ!? ヘンリー殿下はスイーツ男子だったのか!
  キラキラ王子顔にスイーツとか、王道の組み合わせね。前世なら萌えまくりの設定だわ!

「では、こちらにしますわ」
「お、奇遇だな。私もこのメニューが一押しなんだ。では、注文しておく」

 ヘンリー殿下はテキパキと注文をし、店員が捌けると私に話かけてきた。

「イザベル嬢はすでに買い物は済んだのか?」
「ええ。先程香油を購入しました」
「ほう、香油が好きなのか」
「あまりきつい香りは好みではありませんが、優しい香りのものでしたら」
「なるほど、覚えておこう。他に好きな物は?」
「え? えーと」

 いきなり聞かれると困るなあ。
 元々物欲があまりないから好きな物って言われると即答しずらい。
 真剣に考えていると、ヘンリー殿下はふふっと小さく笑った。

「すまない、困らせるつもりはなかったんだ。貴女の事がもっと知りたくて」
「え?」

 ヘンリー殿下の碧眼と目が合う。

「私と貴女は将来を約束した仲だろう? しかし、それは貴女の気持ちも聞かずに半ば強引に決めてしまったものだ」

 まぁ、貴族同士の結婚なんて政治的意図が絡むものがほとんどだから、ある意味それが普通なんだよね、きっと。

「貴女の意思に関係なく決まったことだからこそ、貴女の事を一番に尊重したいと思っている」
「ヘンリー殿下……そんな恐れ多いですわ」
「ああ、そんなに萎縮しないでほしい。貴女と私だけの時はなるべく対等な立場でいたいんだ」
「は、はぁ」

 あれ、ヘンリー殿下って俺様っぽい性格なのかと思っていたけど意外だわ。

「対等な関係を築くには、まずお互いの事をよく知る必要があると思っている。だから、私は貴女の事をもっと知りたいんだ。もし、嫌でなければ、貴女の話をたくさん聞かせてほしい」

 ヘンリー殿下の優しい微笑みに、私の心臓はバクバクと早鐘を打つ。

 うぐっ、その発言の後にその表情は反則!
 乙女ゲームなら胸きゅんスチルだろう展開に思わず顔が緩む。
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