不肖ながら、お嬢様は渡しません

松本雀

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執事は最高に最悪な解決策を見いだす

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──戦場というものは、いつだって滑稽だ。

誰もが理想を掲げ、己の正義を信じ、武器を取る。だが、最終的に残るのは、破壊と無力感、そして血の臭いが染みついた後悔だけだ。

そして今、この森の奥で繰り広げられている戦いもまた、例外ではなかった。

剣を振り下ろす騎士、足を鋭く打ちつける蜘蛛。

まるで異なる存在が、一つの命を賭けて激突していた。
騎士は己の正義を、蜘蛛は生き延びる本能を──互いに違う目的でありながら、どちらも譲れない理由を抱えている。

私はしばらくその様子を眺めていた。

──くだらない。

いや、少し違うか。これは“儚い”と言うべきかもしれない。
真剣に打ち合うその姿は、儚さの中でかすかな光を放っている。

だが、その“儚さ”がこの場に必要かと言われれば、答えは一つだ。

「──終わりにしましょうか」

一歩、前へ。

蜘蛛の複眼がこちらを一斉に向き、わずかに震えた。
騎士もまた、こちらを見て目を見開く。

「クロード……?」

その声には驚きと安堵、そして疑念が入り混じっていた。
私は視線を返さず、ただ前に進む。

──私は助けに来たわけではない。

「……」

蜘蛛が長い脚を動かし、剣を構えた騎士を飛び越えてこちらに向かってくる。
単純な恐怖に駆られた攻撃。──だから、見え透いている。

「遅い」

私は蜘蛛の猛撃を軽くかわし、その巨大な胴体に向かって拳を突き出した。

ドン、と鈍い音が響き、蜘蛛の体が揺れ、宙を浮いて大きく後退する。

──一撃。

「……何……だと……?」

蜘蛛の複眼がわずかに揺らぎ、その声はかすれた驚きに満ちていた。

「す、凄い……!」

騎士の声が響く。戦場で見るはずのない救援者を見つけた安堵が、その声に溢れている。
しかし、その“期待”はあまりにも脆く、甘い。

「……」

私は無言のまま騎士のほうへと振り向いた。

「クロード、君は一体……!」

その輝かしい声を聞きながら、私はゆっくりと歩を進めた。

「──丁度いい」

「……え?」

その言葉が場に落ちた瞬間、騎士の表情が一瞬で変わった。
私はもう一歩踏み込み、騎士に向かって右腕を振り抜いた。

風を切る音が鋭く響き、騎士は反射的に身を捩り、その拳をぎりぎりで避けた。

「な……何を……!?」

驚愕と混乱の入り混じった声。

私はゆっくりと視線を合わせ、無表情のまま、ただ一言吐き捨てた。

「まとめて始末します」

騎士と蜘蛛の両者が、同時に絶句した。

「……えぇ……?」

騎士は間の抜けた声を漏らし、蜘蛛もまた、一瞬怯んだように足を引いた。

──やはり、どちらも“甘い”。

騎士は目を泳がせながら、信じられないものを見ているような顔を浮かべている。
蜘蛛の複眼は恐怖に揺れ、まるで出口のない迷路に迷い込んだようだ。

「これが、私の選択です」

私はただ、静かに構えを解かずに彼らを見つめていた。

お嬢様との未来を脅かす存在ならば、騎士であろうと蜘蛛であろうと、例外はない。
それは、私が“元蜘蛛”であろうが“執事”であろうが変わらない結論だ。

──誰一人として、ここから逃しはしないのだから。
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