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傾城茶宴──『思わせぶりは礼儀のうちでございます』
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──味とは一つの言葉にも似ている。
正確に、丁寧に、伝えたい思いを運ぶものだ。
私が侯爵夫人の前に置いたのは、花を思わせるガラスの器に盛られたヴェリーヌ。ジャスミンと金木犀の香りがそっと立ちのぼると、夫人は自然と微笑み、スプーンを手に取った。
一口。唇が器に触れ、舌先にひんやりとした感触が落ちる。ふわりと広がる花の香りと繊細な甘さに、夫人の眉がわずかに緩む。
「これは……とても上品。香りがまるで余韻として口の中に咲いていくよう」
その反応に、私は安堵の念を抱く。繊細な香りと甘さのバランスが、きちんと受け取られた証拠だ。努力が報われる瞬間とは、こうした一瞬の表情にすべてが宿る。
続いてお出ししたのは、鹹天心の海老焼売。蒸篭を開けた瞬間、湯気とともに立ちのぼる香ばしさ。薄皮の中に閉じ込められた海老の旨味が、口の中で弾けるように広がる。
「……あら、この塩気が、さっきの甘さを引き立てるわね。交互に食べたくなるわ」
さらに揚げたての胡麻団子。薄く香ばしい衣に包まれた黒胡麻餡が、ほんのりと舌の上でとろける。温かさと甘さの余韻に、侯爵夫人は目を細めて笑んだ。
「これもまた……温かくて、ほっとするような甘さね。まるで懐かしい恋の記憶のよう」
最後に運ばれたのは、オーギョーチ。金木犀の花びらを浮かべた透明なゼリーに、ライチの果肉が添えられている。甘さ控えめの中に潜む果実の瑞々しさに、夫人はまたひとつ、感嘆の息を漏らした。
「これは……まるで朝露のよう。さらりとしているのに、舌の上に優しさが残ります」
すべての皿に対する感想は、過不足なく美しい言葉で彩られ、私はただ一礼して受け止めるのみであった。
「最近、王都のお茶会では東洋風が流行っておりますゆえ、少々趣向を凝らしてご用意いたしました。お楽しみいただけて、何よりでございます」
私がそう言うと、侯爵夫人はふと器の端に指を添えて問いかけた。
「このヴェリーヌの隠し味は何かしら?他とは違う深い味があるのだけれど……」
好奇心に満ちた夫人の視線に、私は軽やかに笑みを浮かべて首を傾げる。
「それは──秘密でございます」
私がそう答えると、夫人は一瞬きょとんとした表情を見せ、すぐに楽しそうな笑い声を上げた。
「まあ、クロードったら意地悪ね!」
「ええ、侯爵夫人。しかしこれで、この味を知っているのは、私と夫人だけということになります」
私は微笑みを浮かべつつ、声をわずかに落として続けた。
「恋というものは、時に気を持たせたり、思わせぶりな振る舞いを楽しむもの。二人だけの秘密──それもまた、恋に欠かせないスパイスかと存じます」
そう囁くように告げると、侯爵夫人の頬に薄紅が差したのが見えた。扇子でさりげなく口元を隠しつつ、夫人が恥じらうように微笑む。
一方、先ほどまで得意気だった少年執事はすっかりぽかんと口を開けてしまった。横では伯爵が悔しげな表情を隠しきれず、ぎゅっと拳を握っているのが目に入った。
我が男爵様はというと、安堵したように頷きながらも、驚きを隠せない様子だった。
「……クロード、君には毎回驚かされるよ」
「恐縮です、男爵様。お客様に満足していただけることが、私の何よりの喜びでございます」
私は丁寧に一礼した。
これで、この場の勝負はほぼ決まっただろう。少なくとも、夫人の心に残る一杯と一皿を提供できたのは間違いない。
──香りと甘味、そしてほんの少しの秘密が、すべてを静かに終わらせたのだ。
正確に、丁寧に、伝えたい思いを運ぶものだ。
私が侯爵夫人の前に置いたのは、花を思わせるガラスの器に盛られたヴェリーヌ。ジャスミンと金木犀の香りがそっと立ちのぼると、夫人は自然と微笑み、スプーンを手に取った。
一口。唇が器に触れ、舌先にひんやりとした感触が落ちる。ふわりと広がる花の香りと繊細な甘さに、夫人の眉がわずかに緩む。
「これは……とても上品。香りがまるで余韻として口の中に咲いていくよう」
その反応に、私は安堵の念を抱く。繊細な香りと甘さのバランスが、きちんと受け取られた証拠だ。努力が報われる瞬間とは、こうした一瞬の表情にすべてが宿る。
続いてお出ししたのは、鹹天心の海老焼売。蒸篭を開けた瞬間、湯気とともに立ちのぼる香ばしさ。薄皮の中に閉じ込められた海老の旨味が、口の中で弾けるように広がる。
「……あら、この塩気が、さっきの甘さを引き立てるわね。交互に食べたくなるわ」
さらに揚げたての胡麻団子。薄く香ばしい衣に包まれた黒胡麻餡が、ほんのりと舌の上でとろける。温かさと甘さの余韻に、侯爵夫人は目を細めて笑んだ。
「これもまた……温かくて、ほっとするような甘さね。まるで懐かしい恋の記憶のよう」
最後に運ばれたのは、オーギョーチ。金木犀の花びらを浮かべた透明なゼリーに、ライチの果肉が添えられている。甘さ控えめの中に潜む果実の瑞々しさに、夫人はまたひとつ、感嘆の息を漏らした。
「これは……まるで朝露のよう。さらりとしているのに、舌の上に優しさが残ります」
すべての皿に対する感想は、過不足なく美しい言葉で彩られ、私はただ一礼して受け止めるのみであった。
「最近、王都のお茶会では東洋風が流行っておりますゆえ、少々趣向を凝らしてご用意いたしました。お楽しみいただけて、何よりでございます」
私がそう言うと、侯爵夫人はふと器の端に指を添えて問いかけた。
「このヴェリーヌの隠し味は何かしら?他とは違う深い味があるのだけれど……」
好奇心に満ちた夫人の視線に、私は軽やかに笑みを浮かべて首を傾げる。
「それは──秘密でございます」
私がそう答えると、夫人は一瞬きょとんとした表情を見せ、すぐに楽しそうな笑い声を上げた。
「まあ、クロードったら意地悪ね!」
「ええ、侯爵夫人。しかしこれで、この味を知っているのは、私と夫人だけということになります」
私は微笑みを浮かべつつ、声をわずかに落として続けた。
「恋というものは、時に気を持たせたり、思わせぶりな振る舞いを楽しむもの。二人だけの秘密──それもまた、恋に欠かせないスパイスかと存じます」
そう囁くように告げると、侯爵夫人の頬に薄紅が差したのが見えた。扇子でさりげなく口元を隠しつつ、夫人が恥じらうように微笑む。
一方、先ほどまで得意気だった少年執事はすっかりぽかんと口を開けてしまった。横では伯爵が悔しげな表情を隠しきれず、ぎゅっと拳を握っているのが目に入った。
我が男爵様はというと、安堵したように頷きながらも、驚きを隠せない様子だった。
「……クロード、君には毎回驚かされるよ」
「恐縮です、男爵様。お客様に満足していただけることが、私の何よりの喜びでございます」
私は丁寧に一礼した。
これで、この場の勝負はほぼ決まっただろう。少なくとも、夫人の心に残る一杯と一皿を提供できたのは間違いない。
──香りと甘味、そしてほんの少しの秘密が、すべてを静かに終わらせたのだ。
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