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静かな決意──『守るべきもののために』
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──決意は静かに訪れる。
それは大抵、誰も見ていない時に。誰にも褒められず、ただ自分自身との約束として胸に刻まれる。
犯人は既に明らかだった。
しかし、その人物が証拠を残しているとは到底思えない。おそらく完璧に処分済みだろう。私は深くため息をつき、自分の中で静かに葛藤していた。
どうするべきか。このままではアポロは無実の罪で処刑され、真の犯人は闇に紛れてしまう。それだけは許してはいけないと思いながらも、具体的な手がかりが見つからないまま、思考は堂々巡りを続けていた。
その時、柔らかな足音が近づいてきた。
顔を上げると、最愛の妻アトラが穏やかな笑みを浮かべて私を見つめている。
「そんなに難しく考えなくていいんじゃない? 思いっきりやってしまえばいいわ。あなたならきっと大丈夫」
彼女の微笑みには不思議な力があった。どんな不安も悩みも、その笑顔を見ると自然に和らいでしまう。
「……非常事態ですし、確かに仕方ありませんね」
私も微笑み返した。アトラの言葉で、肩の力が少し抜けた気がする。
その時、廊下から慌ただしい足音と共に、イワンが勢いよく飛び込んできた。
「やばいです、クロード先輩!うちのお嬢様がどこにもいません!」
イワンは顔を真っ赤にし、息を切らせている。彼の緊迫した表情に、瞬時にして広間の空気が変わった。
「馬車の音がしなかったので部屋にいるものと思っていたのですが、確認したら部屋はもぬけの殻でした!」
その報告を聞き、アトラはため息交じりに小さく微笑んだ。
「やはり、こっそり抜け出してしまったのね。おそらくアポロのために何かしようとしているのでしょう」
私は思わず苦笑した。何だか懐かしい展開だ。あの頃のことが脳裏に鮮明に蘇る。
私達がまだお嬢様と執事の関係だった頃、私の告白を引き出そうと、化け蜘蛛退治に出かけたウィルを追って、彼女が一人で蜘蛛の森に向かってしまったことがあった。
「……ああ、似たようなことが昔ありましたね。あの時のあなたを思い出します」
私の言葉にアトラは優しく微笑み返した。
「昔のことを言われると何も言えないけれど、今回はあなたが頼りよ。ティタをお願いね」
「分かっています。必ず見つけて戻ります」
アトラの言葉に静かに頷いたその時、ドアが静かに開いてサンゼールが入ってきた。彼はいつもの冷静な態度を崩さず、小さく一礼すると私を真っ直ぐに見据えた。
「クロード様、私にも同行をお許しください。……お嬢様をお守りするのが、私の役目なのです!」
その言葉には彼なりの深い覚悟が込められていた。私は迷わず頷く。
「もちろんです、サンゼール。力を貸してください」
その会話が終わるよりも早く、イワンが私の袖を引いた。
「先輩たち、僕も行きますよ!こう見えて結構強いんですから!」
「おやおや、頼もしいですね」
私はサンゼールとイワンを伴い、迷いのない足取りで部屋を後にした。この夜を無事に終えるためには、今すぐにでも行動に移すしかない。その覚悟だけが、私を支えていた。
これはただの人探しではない。もしティタ嬢が事件に巻き込まれれば、事態はさらに複雑化するだろう。
しかし、私は恐れなかった。かつてアトラを探した時のように、今度はティタ嬢を必ず無事に連れ戻す。
「では、行ってまいります」
私は静かに告げ、広間を後にした。背後からアトラの視線が優しく、強く私を支えているのを感じた。
──答えはまだ遠い。だが、足を止める理由にはならない。
歩き続けること自体が、時として真実に触れる唯一の手段だ。信じた道を進むのに、確証など要らない。
それは大抵、誰も見ていない時に。誰にも褒められず、ただ自分自身との約束として胸に刻まれる。
犯人は既に明らかだった。
しかし、その人物が証拠を残しているとは到底思えない。おそらく完璧に処分済みだろう。私は深くため息をつき、自分の中で静かに葛藤していた。
どうするべきか。このままではアポロは無実の罪で処刑され、真の犯人は闇に紛れてしまう。それだけは許してはいけないと思いながらも、具体的な手がかりが見つからないまま、思考は堂々巡りを続けていた。
その時、柔らかな足音が近づいてきた。
顔を上げると、最愛の妻アトラが穏やかな笑みを浮かべて私を見つめている。
「そんなに難しく考えなくていいんじゃない? 思いっきりやってしまえばいいわ。あなたならきっと大丈夫」
彼女の微笑みには不思議な力があった。どんな不安も悩みも、その笑顔を見ると自然に和らいでしまう。
「……非常事態ですし、確かに仕方ありませんね」
私も微笑み返した。アトラの言葉で、肩の力が少し抜けた気がする。
その時、廊下から慌ただしい足音と共に、イワンが勢いよく飛び込んできた。
「やばいです、クロード先輩!うちのお嬢様がどこにもいません!」
イワンは顔を真っ赤にし、息を切らせている。彼の緊迫した表情に、瞬時にして広間の空気が変わった。
「馬車の音がしなかったので部屋にいるものと思っていたのですが、確認したら部屋はもぬけの殻でした!」
その報告を聞き、アトラはため息交じりに小さく微笑んだ。
「やはり、こっそり抜け出してしまったのね。おそらくアポロのために何かしようとしているのでしょう」
私は思わず苦笑した。何だか懐かしい展開だ。あの頃のことが脳裏に鮮明に蘇る。
私達がまだお嬢様と執事の関係だった頃、私の告白を引き出そうと、化け蜘蛛退治に出かけたウィルを追って、彼女が一人で蜘蛛の森に向かってしまったことがあった。
「……ああ、似たようなことが昔ありましたね。あの時のあなたを思い出します」
私の言葉にアトラは優しく微笑み返した。
「昔のことを言われると何も言えないけれど、今回はあなたが頼りよ。ティタをお願いね」
「分かっています。必ず見つけて戻ります」
アトラの言葉に静かに頷いたその時、ドアが静かに開いてサンゼールが入ってきた。彼はいつもの冷静な態度を崩さず、小さく一礼すると私を真っ直ぐに見据えた。
「クロード様、私にも同行をお許しください。……お嬢様をお守りするのが、私の役目なのです!」
その言葉には彼なりの深い覚悟が込められていた。私は迷わず頷く。
「もちろんです、サンゼール。力を貸してください」
その会話が終わるよりも早く、イワンが私の袖を引いた。
「先輩たち、僕も行きますよ!こう見えて結構強いんですから!」
「おやおや、頼もしいですね」
私はサンゼールとイワンを伴い、迷いのない足取りで部屋を後にした。この夜を無事に終えるためには、今すぐにでも行動に移すしかない。その覚悟だけが、私を支えていた。
これはただの人探しではない。もしティタ嬢が事件に巻き込まれれば、事態はさらに複雑化するだろう。
しかし、私は恐れなかった。かつてアトラを探した時のように、今度はティタ嬢を必ず無事に連れ戻す。
「では、行ってまいります」
私は静かに告げ、広間を後にした。背後からアトラの視線が優しく、強く私を支えているのを感じた。
──答えはまだ遠い。だが、足を止める理由にはならない。
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