レースの意匠

quesera

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二章

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 夜が明けて夕方になった。強張った身を柔らかな寝具へ埋もれさせるか、一時が永遠にも思える苦痛を忍ぶ、馬上の途かであったのに、疲労に任せて眠りに落ち、幾たびも様相が変化する風景に気を紛らわせていただけに、時を浪費していたようだ。
 ドムトルの空に見られた、色取り取りに華やぐ、夕暮れの空模様。あれは門出を祝ってだったのか、と、曇る夕空を眺めた。
 どんよりと重い雲の濃淡がすっかり光の饗宴を隠してしまい、闇色を待つだけの空に吸い込まれるよう、同色に暗い岩の城壁が鬱蒼と構えていた。

 賑わう町を後にしてからは、散飛していた兵も列に終結し、畑に走る道を横目に、森を進んだ。
 枝木が撓り、蹄が下生えを踏みしだき、根を抉る生々しい音に、兵たちの息遣い、馬具の軋みが、飽きもせず延々と繰り返された。飛び立つ音だけ残して姿見せぬまま囀る鳥を、目で追って気を紛らわさなければ、吐いていただろう。
 しかし、光景に時を無駄にすべきではなかった。

 森の端の近くで一行が止まる。
 森の中からは一層に明るい野谷が眩しい。道が野を横に裂き、それに石壁が沿う。石壁の先は、やはり森だが、今いる森とは成りが異なる。手入れのある森だ。あちらは敷地内らしい。石壁は門へと繋がり、道も門へと消えていく。
 一行は道へ抜け出ず、道を横目に森の中を進んで行く。
 と、川に出た。波を感じないが、何やら浮いて流れるなら、水は流れているよう。川の下流の方角には、大層な壁面が川をまたぐ。城壁の一部だった。
 ぱっくり開いたアーチが、柵を通して川を飲み込んでいる。人の声に川上を見れば、荷を積んだ小船が川を下り、一行が隠れる鼻先を、漕いで、アーチの暗闇へと消えた。
 とうに馬から降ろされていたイヨーリカは、服地の上から足を揉み、歩けと言われる先を見越して身を解していた。その瞬間まで、思いも寄せなかった。時間はあったのだろうに。
「イヨーリカ様、あちらより城内へ入ります。先ずは私と二人で」
「何故隠れるの? まさか、押し入るの?」
「いえ。こちらに我らが結集したと知れば、城主に面倒が及びます故。数名に別れての入城とします」
 川べりにある、船寄せを見た。船は何艘も残っている。先ほどの小船に乗り換えた者の荷馬車なのか、少年が手持ち無沙汰げに、荷台に寝そべっていた。
「あの者を、正門で待たせるように」
 兵の一人が馬に乗り、少年へ話しかけに出た。少年は肩を竦めて、荷馬車を御し、道を戻っていく。兵はそのまま少年と連れ立っていった。
「では、イヨーリカ様、こちらへ」
 ラヒが先導する。が、イヨーリカは城壁を見上げたまま動けなかった。

 考えもなしに来た。意味も分からず、連れられてここまで来てしまった。イア…フィリョンカの意思は、私をここへ向かわした。私は同意した。だがその結末まで同意してはいない。

「イヨーリカ様?」
 ラヒに遅れた娘へ、兵が後押しする。ラヒが周囲を見渡し、イヨーリカを森へ振り返った。そのラヒを遠く、目を細め見た。
 結集…そう言わなかったか、ラヒは。即位を阻止する、そうは話さなかったか。
 訝しげに見守る兵たちを見回した。この結集は、女王の即位を阻むためだ。ここに集う者は皆、フィリョンカ女王を残し、私を先に連れ出した。
 阻む要因は、私だ…。
 何故、従ったのか。何故、従うことを迷わなかったのか。
 望んだのはフィリョンカだが、結集の元凶の私が、結集で齎される結末に頷いていなくて、加担などできようか。
「私は知らない。私は、あなたたちの計画を知らない」
「イヨーリカ様、後でラヒ殿が申し上げるでしょう。お急ぎください」
 険悪な気配が押し寄せる。兵が周囲を詰めて来た。イヨーリカの記憶は途絶えた。
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