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四章
一の一
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「デン国から漏れないでもないかと。潜めるうちに入国されては」
落ち窪んだ虚ろな瞳を赤く開く王女を前に、兵が、王女の臣下へ進言した。
今朝方、ラヒの腕の中で目覚めたイヨーリカは、機に瞼を同じく開いたラヒと、一時見つめあった。
そのラヒをチラと見上げた。
隈も肌に馴染む疲労振りからすれば、深い眠りには入っていなかったのだろう。イヨーリカは、泣きながら寝入ったにしては蟠りも消えるほど深く寝入っていたのに。
でも、ラヒの顔は朗らかだ。
寝起きざまラヒに笑んでいたイヨーリカに、ラヒも屈託なく澄んだ笑みを満面に湛えて言ってのけた。これで昨晩の騒動は払拭されたと。
案の定、ラヒが下穿きに軽くズボンを通すだけで、上着も着込まず退室すれば、入れ替わるよう入室したスリョが、嬉々と頬を上気させて、髪の手入れも身支度も、甲斐甲斐しいまでの労わりぶりであった。
体調を尋ねるスリョにぽかんとしたのも束の間、事態を把握して間誤付いた。
ラヒは、ヒョイドとの繋がりを払拭させたのだ。
皆の前で、感涙にヒョイド王子へ抱きついておいては、ラヒの婚約者がその胸に秘めた愛人を抱えていたとは周知の事実となった。
けれど、王子はラヒに帰され、ラヒは婚約者と夜を共に部屋に居た。
ヒョイド王子は既に感傷の相手であって、ラヒは婚約者の愛を勝ち取ったのだと、皆は納得したようだ。すれ違う使用人の目が、非難でなく、祝福に潤んでいるからして、それは明らかだった。
私には宥める振りをしておいて、以外にも策士だったのかと、苦々しくラヒを見るばかり。
ラヒが怪我を負った際、年上のラヒに対し、子をあやす様なキスを頬に与えた。
が、思えば、あれも策だったか。怪我が意図的かは想像の外だが、怪我で同情を買ったのは策だろう。
怪我をしたラヒを見過ごさないであろう私を予測し、一度要らぬと決めた男を悔いに振り返らぬよう、あっさりとその先を切り捨てた。
私が悩むに迷う暇さえ、すっきりと削いでくれた。お陰で、悩む手間が省けた。
ヒョイド王子との婚姻はできない。例え、国を捨てたとしても。
ラヒは、正に私が望むものを、くれた。
あの別れの衝撃をかき消すなら、この程度の衝撃があって然りだった。
「私も賛成です。亡命したかつてのフィリョンカ女王に連れられての帰還より、ヒルダ王妃の覚えめでたきリヨンド家の嫡男、ラヒ様が、帰郷中に恋に落ちたは、王家末裔の王女であったと、妻と連れ帰ったとなれば、国中が歓声に沸きかえりましょう。後に、孫と暮らしていたフィリョンカ様をお迎えしたとなれば、フィリョンカ様のご入国もすんなりと受け入れられるように思います」
「妻? 私、結婚するの? ラヒと?」
思わず素っ頓狂な声を上げたものの、苦虫をかんで口を噤んだ。これ以上反論すれば、道徳観を疑われかねない。
「あ、女王と立つのが先かと思っていたから」
見据えた先のラヒが、なんと、なまめかしく微笑むものだから、近寄るラヒからも顔を背けたが、頓着しないラヒが手を取り、派手な口づけを指に掛けた。
「私は今にもイヨーリカ様をお迎えしたいのですが」と、皆を振り返った。
「昨晩ご一緒させていただいたのは、あくまで、ヒョイド王子の来訪を印象付けないためだ。皆には、誤解なきよう」
動揺の口調と視線がその場に流れるが、動じない口調のラヒに事態を納得したようだ。
「ヒョイド王子は身を窶してヨーマ国へご遊学中、イヨーリカ様と出会われた。イヨーリカ様にはロシュトーレ侯と身分を偽られておられたままだった故、昨晩までご自分の婚約相手がヒョイド王子とは存知あげなかったのだ。そう、シルヴァ嬢の主はヒョイド王子殿下ということだ」
皆の視線がイヨーリカへ集まったところで、ラヒがイヨーリカを淡白に眺めた。
「そして、イヨーリカ様は昨夜ご決断なされた。婚約を破棄なされた」
息を詰めていた皆が、安堵の息を漏らしている。
イヨーリカは凛と顎を上げた。皆が次第に、頭を垂れたからだ。その感謝を、投げ返したい気も起きない。
ラヒが事実を短直に述べる。
それで浮き彫りになる、男の身勝手さと、翻弄された女の図。
私は騙されたのだ。別れる正当な理由があったのだと。
「しかし、ラヒ殿。であれば、フィリョンカ様にお戻り頂くのに、ヒョイド王子の遺恨から難しくなるのではないでしょうか」
「私も同感です。先ほどは心逸り、ラヒ殿との結婚を利用すれば、祝賀の盛り上がりに押されて立王が潤等に進み、フィリョンカ様のご入国だけでなく、デン国からの出国も言い訳が立つかと、万事解決かと申し上げた次第ですが」
「出立の件は別として、立王の件は、父も覚悟あって、ヒルダ王妃に重用されて王宮に居る。息子が不穏因子を招いたとあっては、王宮も二分するだろうが、父にはその覚悟を水際まで示していただこうと思う」
「懐柔…するお心ですか、ヒルダ王妃を」
「それができる父だと思っている」
「つまり、何をするの?」
各自物思いに耽る中、イヨーリカは憤慨していきり立った。筋道が見えない。
言い澱む兵に対し、ラヒは軽く笑んで告げる。
「父はヒルダ王妃の寵愛を受けている。本来表舞台に立つべきイヨーリカ様が現れれば、ヒルダ王妃の出る幕はない。下手に国を二分して争わず、その寵愛を餌に適当な官位を与えて引退されるなら、それに越したことはない。残りは愛ある人生を歩まれる事だろう」
「でも! お父様は」言いかけてイヨーリカは目を細めた。
「待って! ヒルダ王妃を憎むものは、あなたのお父様も然り、多く居るのではなくて? それでは、あなたのお父様まで恨まれるわ。あなたの家は、リヨンド家は、ヒルダ王妃を支えた事にはならない? どうして? 王妃一人を罰せばいいわ」
ざわめく兵に、イヨーリカは憮然と周囲を見渡す。
何故だ? 王妃を呪っていたはずだ。
ラヒが、笑みに加えて苦笑した。
「やはり、フィリョンカ様はイヨーリカ様を別格とお育てになったようだ。唯の平民ならこうも王家断罪を口にできようか」と、真摯な面持ちへと笑みを閉じた。
「国には、もう一方の敵がいます。王政断絶を説く集団が。いえ、民の中には少なからずその思いはあるでしょうから、下手をすれば、これは全国民相手が敵に回る事態も起こりえる」
「ですから、悪政を行ったヒルダ王妃に咎がなければ、民に不満は募るわ」
「違います。王家の者に罪を問うを許せば、この一派に肩入れしたも同じ。嫌が上にも助長します。だから王は要らぬと。王家が民同様の捌きを受けるなら、その後の王の御手は、采配を振るう威力を失するのです」
「そういうものなの? 王家は絶対なの? 間違っていても?」
「結果です。王家は国の行く末を担う、重責を担う存在です。振るう前から采配如何で後に制裁を受ける可能性があると分かっていて、信念を押し通せる者などいないでしょう。誰も悪政を敷く積りなどないのです。良かれと思っての采配を皆されている。あくまで、悪政だったとするのは結果です」
混乱に首を何度と振って俯くイヨーリカへ、ラヒの柔らかい声が掛かる。
「民も、多少は王の悪口とて口にするでしょう。では、全ての民がこの一派に組するかと言えば、そうではない。知っているのですよ。自分が代わりを勤められないと。だが、王家の上に制裁権を与えてしまえば別だ。自分は手を下していないながら、手を尽くす者を断罪できるというのだから。信念は、その信念を持つ者にしか真髄は分からないでしょうし、信念を貫くのも本人しかできないことだ。信念がない者が安易に屠れる術を持ってはならないと私は考えますし、その信念が誤信だと分かったなら、敬意を持って退路を用意せねばなりません。次の信念の席を確固たる席と確保する為にも」
「その為の退路が、あなたのお父様の献身? 奥様を死に追いやった女と生涯暮すの?」
「それが勤めならば」
「あなたにも関わることだわ。リヨンドの家名は汚れるわ」
突如、ラヒが含み笑いを始めた。回りの兵も。
やはり、イヨーリカは戸惑うばかりだ。
「イヨーリカ様をお連れしたのは、確かにラヒ・リヨンドですが、フィリョンカ様の足跡を調査していた者は大勢おりますし、私は指揮官と光栄な役を拝命したに過ぎません。イヨーリカ様が我が家名へ御心及ばせとは誇らしい限りですが、一連の献身を理由にリヨンドの家を贔屓しようとお考えならば、おやめください。ヒルダ王妃の前例もございます」
むっとしたイヨーリカを更に笑うものだから、薄い涙の膜でもラヒを睨んでしまう。
が、次第に厳かな空気が場に流れ始め、ラヒに続き、夫々が膝を折っていった。
「リヨンド家はイヨーリカ様の臣下の先立てとなる栄誉に恵まれました。生涯の忠誠をイヨーリカ様に誓いましょう。ですが、あなた様にはこれから先、数多の家臣が、民が、跪きましょう。そこへ私情はご無用に伏してお願い申し上げます。この御手に権力を掌握する日は、再び、目にしたくはないのです」
事態は切迫した。
が、その事態もはなから出任せなのだから、放置しておいても良いのだが。
ラヒが銘家の令嬢を手折ってしまえば、身柄を預かるヤフカ大使も気が気でないのは分かる。ラヒにそれと無く詰め寄る場面も見過ごしてきたが、滞在が長期となれば、関わりたくないとばかりに嫌味も飛び交い、ラヒがヒョイド王子の来訪を遠慮願うに至っては、終に我慢は決壊した模様。花嫁と帰郷に着けと声高に唱え始めた。
落ち窪んだ虚ろな瞳を赤く開く王女を前に、兵が、王女の臣下へ進言した。
今朝方、ラヒの腕の中で目覚めたイヨーリカは、機に瞼を同じく開いたラヒと、一時見つめあった。
そのラヒをチラと見上げた。
隈も肌に馴染む疲労振りからすれば、深い眠りには入っていなかったのだろう。イヨーリカは、泣きながら寝入ったにしては蟠りも消えるほど深く寝入っていたのに。
でも、ラヒの顔は朗らかだ。
寝起きざまラヒに笑んでいたイヨーリカに、ラヒも屈託なく澄んだ笑みを満面に湛えて言ってのけた。これで昨晩の騒動は払拭されたと。
案の定、ラヒが下穿きに軽くズボンを通すだけで、上着も着込まず退室すれば、入れ替わるよう入室したスリョが、嬉々と頬を上気させて、髪の手入れも身支度も、甲斐甲斐しいまでの労わりぶりであった。
体調を尋ねるスリョにぽかんとしたのも束の間、事態を把握して間誤付いた。
ラヒは、ヒョイドとの繋がりを払拭させたのだ。
皆の前で、感涙にヒョイド王子へ抱きついておいては、ラヒの婚約者がその胸に秘めた愛人を抱えていたとは周知の事実となった。
けれど、王子はラヒに帰され、ラヒは婚約者と夜を共に部屋に居た。
ヒョイド王子は既に感傷の相手であって、ラヒは婚約者の愛を勝ち取ったのだと、皆は納得したようだ。すれ違う使用人の目が、非難でなく、祝福に潤んでいるからして、それは明らかだった。
私には宥める振りをしておいて、以外にも策士だったのかと、苦々しくラヒを見るばかり。
ラヒが怪我を負った際、年上のラヒに対し、子をあやす様なキスを頬に与えた。
が、思えば、あれも策だったか。怪我が意図的かは想像の外だが、怪我で同情を買ったのは策だろう。
怪我をしたラヒを見過ごさないであろう私を予測し、一度要らぬと決めた男を悔いに振り返らぬよう、あっさりとその先を切り捨てた。
私が悩むに迷う暇さえ、すっきりと削いでくれた。お陰で、悩む手間が省けた。
ヒョイド王子との婚姻はできない。例え、国を捨てたとしても。
ラヒは、正に私が望むものを、くれた。
あの別れの衝撃をかき消すなら、この程度の衝撃があって然りだった。
「私も賛成です。亡命したかつてのフィリョンカ女王に連れられての帰還より、ヒルダ王妃の覚えめでたきリヨンド家の嫡男、ラヒ様が、帰郷中に恋に落ちたは、王家末裔の王女であったと、妻と連れ帰ったとなれば、国中が歓声に沸きかえりましょう。後に、孫と暮らしていたフィリョンカ様をお迎えしたとなれば、フィリョンカ様のご入国もすんなりと受け入れられるように思います」
「妻? 私、結婚するの? ラヒと?」
思わず素っ頓狂な声を上げたものの、苦虫をかんで口を噤んだ。これ以上反論すれば、道徳観を疑われかねない。
「あ、女王と立つのが先かと思っていたから」
見据えた先のラヒが、なんと、なまめかしく微笑むものだから、近寄るラヒからも顔を背けたが、頓着しないラヒが手を取り、派手な口づけを指に掛けた。
「私は今にもイヨーリカ様をお迎えしたいのですが」と、皆を振り返った。
「昨晩ご一緒させていただいたのは、あくまで、ヒョイド王子の来訪を印象付けないためだ。皆には、誤解なきよう」
動揺の口調と視線がその場に流れるが、動じない口調のラヒに事態を納得したようだ。
「ヒョイド王子は身を窶してヨーマ国へご遊学中、イヨーリカ様と出会われた。イヨーリカ様にはロシュトーレ侯と身分を偽られておられたままだった故、昨晩までご自分の婚約相手がヒョイド王子とは存知あげなかったのだ。そう、シルヴァ嬢の主はヒョイド王子殿下ということだ」
皆の視線がイヨーリカへ集まったところで、ラヒがイヨーリカを淡白に眺めた。
「そして、イヨーリカ様は昨夜ご決断なされた。婚約を破棄なされた」
息を詰めていた皆が、安堵の息を漏らしている。
イヨーリカは凛と顎を上げた。皆が次第に、頭を垂れたからだ。その感謝を、投げ返したい気も起きない。
ラヒが事実を短直に述べる。
それで浮き彫りになる、男の身勝手さと、翻弄された女の図。
私は騙されたのだ。別れる正当な理由があったのだと。
「しかし、ラヒ殿。であれば、フィリョンカ様にお戻り頂くのに、ヒョイド王子の遺恨から難しくなるのではないでしょうか」
「私も同感です。先ほどは心逸り、ラヒ殿との結婚を利用すれば、祝賀の盛り上がりに押されて立王が潤等に進み、フィリョンカ様のご入国だけでなく、デン国からの出国も言い訳が立つかと、万事解決かと申し上げた次第ですが」
「出立の件は別として、立王の件は、父も覚悟あって、ヒルダ王妃に重用されて王宮に居る。息子が不穏因子を招いたとあっては、王宮も二分するだろうが、父にはその覚悟を水際まで示していただこうと思う」
「懐柔…するお心ですか、ヒルダ王妃を」
「それができる父だと思っている」
「つまり、何をするの?」
各自物思いに耽る中、イヨーリカは憤慨していきり立った。筋道が見えない。
言い澱む兵に対し、ラヒは軽く笑んで告げる。
「父はヒルダ王妃の寵愛を受けている。本来表舞台に立つべきイヨーリカ様が現れれば、ヒルダ王妃の出る幕はない。下手に国を二分して争わず、その寵愛を餌に適当な官位を与えて引退されるなら、それに越したことはない。残りは愛ある人生を歩まれる事だろう」
「でも! お父様は」言いかけてイヨーリカは目を細めた。
「待って! ヒルダ王妃を憎むものは、あなたのお父様も然り、多く居るのではなくて? それでは、あなたのお父様まで恨まれるわ。あなたの家は、リヨンド家は、ヒルダ王妃を支えた事にはならない? どうして? 王妃一人を罰せばいいわ」
ざわめく兵に、イヨーリカは憮然と周囲を見渡す。
何故だ? 王妃を呪っていたはずだ。
ラヒが、笑みに加えて苦笑した。
「やはり、フィリョンカ様はイヨーリカ様を別格とお育てになったようだ。唯の平民ならこうも王家断罪を口にできようか」と、真摯な面持ちへと笑みを閉じた。
「国には、もう一方の敵がいます。王政断絶を説く集団が。いえ、民の中には少なからずその思いはあるでしょうから、下手をすれば、これは全国民相手が敵に回る事態も起こりえる」
「ですから、悪政を行ったヒルダ王妃に咎がなければ、民に不満は募るわ」
「違います。王家の者に罪を問うを許せば、この一派に肩入れしたも同じ。嫌が上にも助長します。だから王は要らぬと。王家が民同様の捌きを受けるなら、その後の王の御手は、采配を振るう威力を失するのです」
「そういうものなの? 王家は絶対なの? 間違っていても?」
「結果です。王家は国の行く末を担う、重責を担う存在です。振るう前から采配如何で後に制裁を受ける可能性があると分かっていて、信念を押し通せる者などいないでしょう。誰も悪政を敷く積りなどないのです。良かれと思っての采配を皆されている。あくまで、悪政だったとするのは結果です」
混乱に首を何度と振って俯くイヨーリカへ、ラヒの柔らかい声が掛かる。
「民も、多少は王の悪口とて口にするでしょう。では、全ての民がこの一派に組するかと言えば、そうではない。知っているのですよ。自分が代わりを勤められないと。だが、王家の上に制裁権を与えてしまえば別だ。自分は手を下していないながら、手を尽くす者を断罪できるというのだから。信念は、その信念を持つ者にしか真髄は分からないでしょうし、信念を貫くのも本人しかできないことだ。信念がない者が安易に屠れる術を持ってはならないと私は考えますし、その信念が誤信だと分かったなら、敬意を持って退路を用意せねばなりません。次の信念の席を確固たる席と確保する為にも」
「その為の退路が、あなたのお父様の献身? 奥様を死に追いやった女と生涯暮すの?」
「それが勤めならば」
「あなたにも関わることだわ。リヨンドの家名は汚れるわ」
突如、ラヒが含み笑いを始めた。回りの兵も。
やはり、イヨーリカは戸惑うばかりだ。
「イヨーリカ様をお連れしたのは、確かにラヒ・リヨンドですが、フィリョンカ様の足跡を調査していた者は大勢おりますし、私は指揮官と光栄な役を拝命したに過ぎません。イヨーリカ様が我が家名へ御心及ばせとは誇らしい限りですが、一連の献身を理由にリヨンドの家を贔屓しようとお考えならば、おやめください。ヒルダ王妃の前例もございます」
むっとしたイヨーリカを更に笑うものだから、薄い涙の膜でもラヒを睨んでしまう。
が、次第に厳かな空気が場に流れ始め、ラヒに続き、夫々が膝を折っていった。
「リヨンド家はイヨーリカ様の臣下の先立てとなる栄誉に恵まれました。生涯の忠誠をイヨーリカ様に誓いましょう。ですが、あなた様にはこれから先、数多の家臣が、民が、跪きましょう。そこへ私情はご無用に伏してお願い申し上げます。この御手に権力を掌握する日は、再び、目にしたくはないのです」
事態は切迫した。
が、その事態もはなから出任せなのだから、放置しておいても良いのだが。
ラヒが銘家の令嬢を手折ってしまえば、身柄を預かるヤフカ大使も気が気でないのは分かる。ラヒにそれと無く詰め寄る場面も見過ごしてきたが、滞在が長期となれば、関わりたくないとばかりに嫌味も飛び交い、ラヒがヒョイド王子の来訪を遠慮願うに至っては、終に我慢は決壊した模様。花嫁と帰郷に着けと声高に唱え始めた。
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