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二章

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「これがダンテオーリオ様の?」
 カウカウと飛び交う鳥が、大海の空で声を響かせている。新鮮な潮の香りに、魚臭さも、油の饐えた臭いも混じった波止場で、ラトヤは大型船の一つを見上げた。
 何隻も連なる中、一際丸みを帯びて光る船体。空を突かんとするマストに、ごちゃごちゃと綱が絡み合っている。ラトヤには見当もつかないが、船員が綱を巻いているのは、何をどうしてかを、把握した作業なのだろう。
「乗ってみる?」
「いいえ、みなさん、お仕事中ですし」
「構わないさ。荷を降ろした所だから、邪見にはされないと思うよ」
 横棒を打ち付けただけの板を軽々上り下りする船員に、ダンテオーリオが合図をする。と、艶やかに磨き上げられた手すりを配する、乗降用の階段が運ばれてきた。船体の端に引っ掛けたものの、僅かに足らず、波止場の敷板より浮いている。
 ダンテオーリオに手を引かれ、そのふわふわと浮く一段目に足を乗せようとした時だ。
遠く、聞きなれた声に瞬きし、その声が喧騒の中近寄っていることに気づいて、ラトヤは波止場を見渡した。
 波止場の敷板と船体との間でちゃぷちゃぷと揺れる波音。鳥の旋回も一層激しく、裸体を晒す荷運びの群集が上げる、掛け声の騒々しさ。なのに、澄んで一声、耳慣れた声が真っ直ぐにラトヤの耳に飛び込んでくる。
 主の声だ。傍らの使用人と話しているサンドスを見つけ、サンドスも、一段高い場所に居るラトヤを目ざとく見つけたようだ。ラトヤに沿う手に力が籠る。登り切ったものか、思案してラトヤはその手の先を見上げた。
「ダンテオーリオ殿、今日はラトヤをこちらへお連れでしたか」
 微かに不快な面持ちのサンドスへ、ダンテオーリオも不本意な会釈を送った。
「我が家の事業は見聞してもらう約束でね」
「それはそれは。しかし、この船は、ルテナイ家の船でしたか」
「いや」
「では、ああ、マテロ家の?」
「そうだ」
 見知らぬ名に、ダンテオーリオの不機嫌さが増したとも口調に察して、ラトヤは更に困惑気味にダンテオーリオを伺った。それを、サンドスがせせら笑った。
「ラトヤ、知らぬ船には乗らないようにな」
 ダンテオーリオの手が、腕より腰へ回った。引き寄せられるのだと知って、ラトヤも身を寄せた。階段の揺れに見せかけて。主が余りの言い様で、何を示唆してか不明だが、ダンテオーリオが口ごもる何かを揶揄したのだと、半ば庇う気も起きてしまう。
「サンドス様、時刻には戻りますので」
 やや強引なダンテオーリオの腕に抱えられ、妻転ぶように段を昇る。歪んだサンドスの面持ちを盗みみつつ。
 甲板へ下りれば、波止場の喧騒は蚊帳の外へと虚ろい、ひたひたと船体へ寄る波頭の音に、けたたましく耳をつんざく鳥の鳴き声に占領された世界が待っていた。
 薄い空色に千切れた雲が靡き、帆と綱の競演が空を遠のけんと犇めく。潮の香は既になく、真新しい木材と香油の香りをうっとりと吸い込んでいた。
「この船、出来て間もないのね?」
 ふと話しかければ、相手は僅かな苦笑を交えた。
「処女航海を終えたばかりだ」
「そう。どこまで?」
「ロペス、シッタリア国の」
「知っているわ! 前に習ったから。でも、それは凄いことですよね? 私が習った時は、シッタリアまでこのプテリャイからは何艘も行ってなかったと。やはり、ルテナイ家は規模が桁違いです。大した差はないなんて、後から知った方は惨めです」
 先ほどから沈んだ風のダンテオーリオに、ラトヤは軽くふくれっ面で突いた。
「違う」
「違わないです。気兼ねさせない積りなのでしょうけど、見てしまえば気付くのに」
「違う!」声高に一声放つダンテオーリオは、海を見ていた視線を、ラトヤに向けた。
「ルテナイ家ではない。マテロ家だ」
 またも聞き覚えのない名に、ラトヤも瞬きを返した。ラトヤが純粋に分からないだけの無邪気な問いかけを忍ばせていたからか、面食らった風のダンテオーリオが、再び海へと視線を戻して告げた。今度は海面を見下ろしている。
「知らない、か。まあ、そうだろうね。うちの事業の主は海運だ。プテリャイではそう名家ではない部類だろうから」
 尚も合点が行かず眉を顰めれば、たっぷりと溜息を出したダンテオーリオが空を見つめなおし、言い放つ。
「私は、父の四男だ」
 暫しの時が流れる。ラトヤも共に空を見つめるままだ。何故浮かぶのか、目の前に鳥が浮遊している。餌を催促してか、円らな瞳でこちらを見ている。飛んでいるだろうに進まず、定位置でカウと鳴いた。その間、ラトヤは思考を巡らせ、そして、黙った。
 では、ダンテオーリオは法の外の子だ。ルテナイ家に彼の籍はない。ではマテロ家に?
 そうか。サンドス様が笑ったのは、それを私が知らなかったからだ。それを知らせないダンテオーリオを馬鹿にしたのだ。
 何故かと疑いを抱きそうなところで、ダンテオーリオが静寂を破った。
「先を越されて残念だ」心痛を満面に浮かべてラトヤへ面を上げた。「今日、この船で話そうと思っていた。多分、誤解しているのだろうと。隠してはいない」
「はい」
「本当に? 信じてくれている?」
「はい」
 どちらにしろ、ラトヤからすれば想像を超える身分の差がある。ダンテオーリオの話は本当だった。どちらも大して差はない。奴隷が嫁げる家ではないだろう。
「だから、とは理由にあげたくないが、父は私に寛容でね。出した負い目があるのだろう。父の妹は子ができなかったから」
「それがマテロ家ですか?」
「そうだ。少し、がっかりしたかな?」
「そんなこと。ダンテオーリオ様はダンテオーリオ様です」
「ありがとう、ラトヤ」
 そこで、ラトヤは回顧に胸を抉られた。ダンテオーリオは、だから母を、私を、私の境遇に介助しようと働いたのは、自身も陥る可能性のあった事例だからだ。

 母に初めて会った晩、サンドスは、馬車の迎え先を逢引の家かと勘ぐり、帰るなりラトヤに詰め寄った。ラトヤは、追及への半目から、ダンテオーリオが図ってくれた事を明かし、厚意を受け取りたいと泣いて彼を庇った。
 その結果、ラトヤも目を丸くしたが、仕事が早く終わる時、或いは午後から務める日には、ラトヤに外出を許すと主は約束をくれた。
 が、した方も受けた方も、ハタと固まった。
 ダンテオーリオと会う時は、ルテナイ家との関わりもあり、名目上、主は馬車を迎えに出した。だが、母に会う外出は下仕えの個人的な用事であり、ラトヤは徒歩で往復することになる。
 馬車をと言い出しかけた主。その口が遂に開くことはないと、そして開かせてはならないと思ったラトヤは、裏道で徒歩しか行き方を知らないから、と先に断りを入れた。不承不承頷いた主も、これ以上は手を貸す名目がないと分かって引いてくれたのだろう。馬車を出されていたら、それこそラトヤは更に職場で疎まれる存在になっただろうから。
 その後、二回、母に会いに行った。道を選んで進めば、後ろから、野菜を収めに来る店の荷馬車が追い越していき、十字路手前まで便乗させて貰えば、その先は魚屋の荷馬車に拾って貰えた。
 顔見知りなのも、ラトヤによくしてくれるのも、パンカロッレ家の影響だ。
 が、その道を教えたのはダンテオーリオだった。

「私、謝らなければ」
「何を? 謝るのは私だ」
 ダンテオーリオの顔を見れば、バツの悪さを匂わせている。同情は無用だともその瞳に浮かんでいる。ラトヤは 首を振った。
「ありがとうございます。私、素直でなかったみたいです」
「今は、素直?」
「はい」
「なら、良かった」
 雰囲気が和んだところで、船員達が甲板に溢れた。一人はたいそうな日傘を設置していき、卓上と見立てた荷の上へ食べ物を配膳していく。見れば、どれも手で摘めるよう、一口大に作り分けられた物ばかりだ。
 甲板の段差にダンテオーリオが敷き布を置く。笑みに破顔して座れば、海上での食事を堪能した。
 ダンテオーリオは話し相手に申し分なく、食事も潮の傍で食べる旨さに、頬も綻んでしまう。ついと浮かびよってきた鳥に、残り物を放るダンテオーリオ。その姿を微笑ましく眺めていた。
「料理人に怒られないかしら?」
「彼に詫びる? でも、もう帰っただろうけど」
「ここで?」ラトヤは食卓を見下ろした。
 船内で調理したとは信じられぬ繊細な準備だったから。
「海上では不思議な病にかかる。気もそうさせるのかもしれないが、人は地に足を付けていないと罰が下るのだと、迷信深い輩は言うね。栄養が足りないだけなのに。だから、船員の食事は、専ら私より豪華なのだよ」
 そう笑うダンテオーリオに釣られ、ラトヤも笑みに和んで、次の問いにも興味をそそられ頷いていた。
「下に降りて調理場を覗いてみる?」
「はい」

 調理場は、輝かんばかりに磨き上げられていた。床は甲板同様、高価な油で艶々だ。そこへ水を撒いて汚れを流し切った跡がある。鍋や調理器具も丁寧に保管され、男所帯とダンテオーリオが言うが、ラトヤが知る台所よりこじんまりしてか、余計に手入れが行き届いて見える。
 見るもの目新しく、次々と船内を回る。貯蔵庫に、船員の寝部屋を兼ねた船底。今はがらんと空くが、出航ともなれば荷と寝台で埋め尽くされるそう。
 そうこうして、小奇麗な室内の戸を開いていた。中はほぼ寝台が室内を占領している。今まで覗いた寝間では、寝台は撤去可能な造りだったが、ここは。
「ここの寝心地は最高だそうだ」
「では、船長の?」
「いいや、それは甲板にある」
 ラトヤの察した答えに頷き、ダンテオーリオが中へ勧めた。
「私の寝室だ。残念ながら今回は乗らなかったから、私も座り心地は初めて知るよ」
 軽く隣を促され、ラトヤも座って、室内を見回した。
「窓があるわ。水が入らないの?」
「次回も乗るのはやめておこうかな」
 ふざけた物言いのダンテオーリオに、ラトヤも心晴れて笑い合える。いつもの彼だ。
「そうだな、確かめてみる?」
「え?」
 話の行く先が怪しくなる。これも彼自前の雰囲気であったと冷や汗を掻く間も無く、指が肩へ伸びてきていた。
「いつか、君と航海に出てみたいな」
 久しぶりのこの感覚。唇が一度離れれば、甘い溜息が漏れてしまう。繰り返せば、室内に二人の息遣いが籠っていく。
「ラトヤ?」
 何かの返事を促しているのかと、ラトヤはコトンと首を振った。が、思いもよらず、ダンテオーリオは次の会話を口にしない。一先ず口づけは終息に向かうと、気持ちを落ち着かせたラトヤだったのに。
「ダンテオーリオ様?」軽く、迫る顎を押してみる。「ダンテオーリオ様」
「サンドスは他に君に何をした?」
 瞬時固まる身を、強引に引き寄せるダンテオーリオ。抗おうにも、既に腰には腕が巻きつき、反って抱擁から抜けようにも、胸を押す隙間も二人にはない。
「私の素性を明かして、君を諭すもできたのに、しなかった。代わりに、何で君を説得した?」
「何も」
「それを信じて良いのか?」
「はい」
「なら! 何故、びくつく?」僅かに顔を持ち上げたダンテオーリオが、涙を呑む口で追及してくる。「サンドスの前で、君は委縮していた。今も、サンドスの名を聞けば、こうして心を閉ざそうとするだろ」
 嫉妬に喘ぐダンテオーリオに見上げられれば、ラトヤも視線が泳いでしまう。が、その視線の先の視野も不意に揺れた。
「すまない」
 詰め寄った態度を謝るのかと思えば、視界に捉えるは天井と気付いて、虚脱した。ダンテオーリオの手が服を剥いでいく。今日は自分の手持ちでは上等の装いで来た。なのに、こうも男手で糸も簡単に剥ぎ取られる服だったのか、微かな惨めさが胸を覆う。
「ダンテオーリオ様」
「ラトヤ、必ず、私が幸せにする」
『責めは神に預ける』と、宙に放った一言の後、ダンテオーリオから漏れる言葉は聞き取れない。耳に入るのは、息遣いと布の擦れとの忙しない逢瀬の音。
 意識はとうに手放し、朦朧と横たわっているだけ。自分の上を甲斐甲斐しく男が這うのだと、冷めた心地で現状を傍観している。
 涙が瞼の淵を瓦解して滴る。なのに、泣く自分をも自覚はない。寝具に滴る音を聞いて初めて、自分の喉を開く声を耳に捉える。
 衝撃に、急激な息を吸い込んでいた。
「ラトヤ、大丈夫だ。もう終わる」
 そう宥めるダンテオーリオを、恨んで突き飛ばしそうだ。漸く手に感覚が戻る。全身に神経を巡らせ、各所が各所の所在を訴えかけてくる。こんなにも痛い。
 息を吸えば、一時痛みが和らぐよう。その安息を蹴散らすよう更なる痛みに、歯噛みする。キュウと呻き声を絞り出し、再び深く息を取り込む。空気で体を膨らませないと、激痛に神経も体も押し潰されそう。一呼吸一呼吸、これが最後だと宥めても、次に待つ試練。涙が確実に鳴き声に変わりそうに、そこで、突如、鈍痛に様変わりした。
 どくどくと流れる血流が、痛みをここだと知らせている。
「ラトヤ」
 興奮に上がる息を、意思で抑え込んだ風に、ダンテオーリオが声低く声を注ぐ。
 今まで瞳は閉じていたようだ。呼ばれて不意に視界に飛び込む、男の肌に、怯んだ。
 自分も裸でいる。そこへ、ダンテオーリオの肌が合わさり、じっとりとした汗を間に、肌が擦れ合っている。
 怯えきって頭を振る。抱きしめられれば尚のこと。唇で宥めすかされても、混乱が収まるまではかなりの時を要した。気付けば、ダンテオーリオの唇が、甘い。
 唇が腫れぼったいダンテオーリオ。いつもの彼の風貌と重ならず、ラトヤは口元を綻ばせてみせた。その腫れは、自分を労わって疲弊したのだと分かって。
 今は愛も口にしない。これを許すラトヤの頷きではなかったと、ダンテオーリオも、強行した本人が痛恨しているだろうに、謝りもしない。彼の仕草、視線が、全てを物語る。
 愛ゆえに、早まってしまったのだと。

 丸く頑丈に縁どられる小窓から、青く光が差し込んでくる。室内は暗がりが落ち、もはや外の光は陽ではない、人工の灯りだ。
 寄り添っていた抱擁から、物憂げに光を眺めたラトヤは、唾を呑んだ。夜に近い。
 だが、起きようにも、服を探そうにも、震える手は何も掴めず、混乱するばかり。躊躇する間に、ダンテオーリオに抱き起こされた。体には寝具が掛かっている。
「あの」
「水が要るだろうから」
「あの、では、私が」
「自分で付けた傷だから。無事を確認させて」
 有無を言わせない男に、閉口して蹴り飛ばしもしたいが、通路は狭く、暗い。水がどこにあるのかも、どこで使えばよいかも分からないのだから。
 浴場に似た場があるのかと期待していたが、連れられたのは調理場だ。不安げな顔に気付いたか、ダンテオーリオがすまなそうに話した。
「海の男みたいに、甲板で水浴びはさせられないよ。それに、蒸留水の方がいい」
 流し台の近くで降ろされれば、思わず、顔を背けた。彼も裸のままだった。腰かけろと目で促されても、どうしろと言うのか。清潔に整えられた流しに乗るかと思えば、更には男の目線の先に裸体を晒すと思えば、従いようもない。
 が、迷う横で、ダンテオーリオが水に浸した布で自身を拭い始めた。堂々たる振る舞いに、頭がいかれそうだ。 何が普通で、節制か、もう思いも出せない。観念して、腰を上げた。
 足を流しに入れれば、タイルの冷たさに指が竦む。そこへ、チロチロと水が流れ落ちてきた。
 ダンテオーリオが樽から汲んだ水を掛ける。水もひんやりとしているのに、次第に生暖かさが加わった。暗がりの中、水が黒い。が、次第に水は元の透明度を取戻し、残すは、肌を濯いでいるだけに掛け流す。
「これ」ダンテオーリオが差し出した。
 月の物に使う布だ。困惑して、赤面してダンテオーリオを直視できない。
「用意していたわけでは。いや、ラトヤと会えば、いつかこうなるとは。だから、言い訳は無しだ」
 これまでの進行も、配慮も、全てはダンテオーリオの手慣れた行為だと、過去をその布に悟ってしまい、不意に手を払ってしまう。それでも彼は、優しく唇を添えて、傷に水が沁みないか尋ねるだけで、謝罪に口は開かない。
 寝室へ戻れば、戸を開け放っていたのに、残気に行為の気配が漂っている。流石に、ラトヤも、ダンテオーリオの服を掻き集めると、彼に押し付け、戸を閉めた。
 拾った服の皺を伸ばし伸ばし、悴む手で着衣を整える。瞼が涙を叩く瞬きを止められないようだ。幾度も痕跡を拭き取って戸を開けたのに、赤い眼に悟ったか、戸を出た身をダンテオーリオがきつく抱いた。
「今日は、送っていく。話を通さないと」
 ラトヤは頷いた。
「ラトヤ? 結婚を承諾してくれるね?」
「はい」
 言って、ラトヤは塩辛い唇を合わせた。ダンテオーリオも泣いていたのだ。応えて、ラトヤも唇も柔らかく解けていった。
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