みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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第4部1章 死にキャラは留学します

06 セシルVSレッテリオ

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 ファルファラ王国に来て数日が経ち、そして前日にひったくりの現場を目撃し、今日――始業式を終えた。

 始業式では、学園の歴史を端的に語り、新入生を祝う会の話や、その他もろもろ学園の設備やルールについて話されてた。モントフォーゼンカレッジと違うところはそこまでなかったが、俺はこういう話を聞くのが好きなので、聞いていて飽きることはなかった。それでもやっぱり、こういう式が苦手な人間はどの時代にも、どの学園にもいるようでうとうとと頭が動いている学生は多かった。春の陽気な気温、そりゃそうなる気持ちもわからないでもなかったが。
 そうして、始業式を終え、午前の授業を受け、俺たちは昼食を取りに食堂へ向かう最中だった。


「授業っていっても全部オリエンテーションだったし。どう、セシル? 仲良くやってけそう?」
「ああ、そうだな。この国の……ルミノーソカレッジの学生はみな、気さくだな。モントフォーゼンカレッジの騎士科はもっと、こう……堅い」
「確かに。家柄とか、プライドとかに縛られている感じはするよね。それと比べたら、みんな和気あいあい、切磋琢磨しあえる良きライバルって感じがしてよかった。上手くやってけそう」


 そうだな、ともう一度セシルは言って俺のほうを見た。
 みんな、留学生であるあ俺たちに気を使ってくれたというか、気さくに話しかけてくれたし、教室内で浮くことは避けられた。
 すぐに打ち解けられた感じはしたし、何なら昼食にも誘ってくれたのだが、セシルがもう少し色々見ていたいから、と断って結局二人きりで食堂に向かうことになった。
 セシルも、モントフォーゼンカレッジに入学したころよりかは他の学生と距離が近くなったほうなのだが、やはり人見知りというか、人となれ合うのがあまり好きじゃないみたいだった。

 ――というよりも……


「近い!」
「いいだろ。知り合いは、ニルしかいないんだ。心細い」
「いやいや、みんな一緒に食べようって言ってくれたのに、無視……じゃなかった、断ったのセシルじゃん!」
「……まだ、そう簡単に打ち解けられん」
「それ、言い訳だから……」


 歩くときも、俺にくっついてるし、俺とハイタッチしようとした学生の手も叩くしで、セシルはうまくやってけそう……ではあるが、前途多難なところもあるというか。
 でも、モントフォーゼンカレッジよりも緩いこの学園は、男子校ということもあって、男同士の距離が近いのは確かだった。だから、俺たちがくっついていても違和感ないというか、そういうじゃれあいに見えなくもない。


「……っ!!」
「どうした、ニル……ああ、男子校なんだ。そういうこともあるだろう」
「あのね、セシル。適応力があるのかないのかどっちかにして」


 場所を選ばず、キスしている学生を見て、俺は思わずセシルの腕にしがみついてしまった。怖いものを見たわけじゃないし、俺たちもキスの一つや二つはするので、珍しい光景でも行為でもない。ただ、人のを見るのはやっぱり恥ずかしくて、破廉恥だ、風紀が乱れてる、と思ってしまう。

 自分たちのことは差し置いて。

 それで、その光景をみんなスルーしているというか、見て見ぬふりをしているわけじゃなくて、これが日常なんだっていうふうに触れていないのも驚いた。男子校だし、同性婚もファルファラ王国は認められているし、問題ないんだろうけど。
 場所くらいは選んでほしいというか。

 もちろん、隠れてキスとかそういうことしてそうな雰囲気の学生は見た。けど、モントフォーゼンカレッジでは見慣れない光景なので、慣れるまでに時間がかかりそうだ。
 気さくでいい人たちばかりだといったが、悪く言えば緩い。
 セシルは、それを感じ取ってなれ合わないのかもしれないが、こういう光景を見ても風紀がーとかいうのではなく、スルーしているのでそこは適応能力が高いと思う。俺なんて、他人のキス見ただけで、真っ赤になっちゃったっていうのに。


(違うか……セシルにとっては、どうでもいいんだ)


 他人のこと、セシルの世界には存在しない。だから、誰がどこでキスをしていようがそれに関して突っ込むことも、心を動かされることもないんだ。あくまで他人。
 セシルらしいな、なんてセシルの腕にしがみつきながら食堂へ足を包める。
 その最中、大きな中庭を通るのだが、そこには大きな人だかりができていた。


「何か催しでもやっているのか?」
「うーん、ここからじゃ見え――うわっ!!」
「危ないな。防御結界くらい、張ったらどうだ」


 何やら盛り上がっているようで、円の中心で何が行われているか気になった俺は一歩中庭側へ足を踏み出したが、次の瞬間クルクルと円を描きこちらにものすごい勢いで剣が飛んできた。セシルは、俺の襟をつかんで後ろに下げると、利き手とは逆の手で夜空色の剣を握り、その剣を横へいなした。
 そして、小さく舌打ちをするとリングに剣をしまい、俺の襟をつかんでいた手を離す。
 どうやら剣は練習用のものじゃないようで、かすかに魔力を感じる。きっと、それなりにいい値段のする魔鉱石で作られたものだろう。しかし、セシルが弾く前からその剣は折れていた。だから、円を描いて飛んできたものの、不規則に曲がったりしたのか。


「セシル、ありがとう……ごめん、反応遅れて」
「いや、ニルに怪我がなくてよかった」
「う、うん……かっこよかった」
「……っ、もっと言ってくれ」


 感謝の言葉以外に何か伝えなきゃと口から出たのは「かっこいい」なんていう幼稚な言葉だったのだが、セシルはそれで気をよくしたらしく、目を輝かせて俺にもう一度、とせがんできた。
 変なスイッチ押しちゃったかも、と思いながら、結局何が行われているんだろう、と中庭のほうに目を移す。すると、先ほどの剣の持ち主と思われる人物がこちらに走ってき、折れた剣を拾い上げるとわんわんと泣きだした。どうやら、大切なものだったらしい。
 これはもうどうしようもないな、と折れた剣を見ながら俺はご愁傷様、と心の中でいいながら自分のリングに指をあてる。俺も、あんなふうに、この剣が折られちゃったら泣くかもしれない。
 剣って、騎士にとって命だもんね。
 同情しながら見ていると、中庭の中心から聞きなれた声が響いた。


「今日は後、一人か、二人……他に挑戦者はいない」


 その声を聴き、また周りがざわざわとし始める。
 セシルは、俺の手を引いて輪の中へ入り、人ごみをかき分けて、ちょうどいいスペースを見つけ、そこから輪の中心を見た。輪の中心にいたのは、昨日見たベビーピンクの髪に、夜明け色の不思議な瞳を持つ第二王子、レッテリオ・アルコバレーノだった。
 彼は、白銀に光る美しい剣を片手に、次の挑戦者を探しているようだ。周りにいた人たちは、どうする? というように、ひそひそと話していた。
 俺は結局何が行われているのか、いまいち理解できず、近くの人に何が行われているか尋ねることにした。俺が訪ねた人は、快く答えてくれ、俺はずっとレッテリオ王子を見ているセシルの肩を指でトントンと叩いた。


「それで、何かわかったか? ニル」
「えっと、それが……レッテリオ殿下が、『護衛』を募集してる? って」
「第二王子ともあろう人間が、学生の中から護衛を募集している? なぜだ?」


 セシルの疑問はもっともだと思った。
 俺は、これだけ周りでいろいろ言っているのにもかかわらず、あたりを見渡した後、こそりとセシルに耳打ちする。


「どうやら、今度王宮で開かれるパーティーに、姉君であるレティツィア王女が参加するみたいなんだけど。そのレティツィア王女に殺害予告が届いているらしくて。そのパーティーでの護衛をって……」
「だが、学生の中から募集する理由は?」
「……うーん、それがどうやら、レッテリオ王子が、自分より強い相手じゃなきゃ、レティツィア王女の護衛を任せないって言って。多分、国に仕えている騎士とも同じことをやったんだろうけど、レッテリオ王子が全勝だったんじゃないかな。だから、まだ見ぬ才能を求めて学生の中から……? だと思う。俺の考えも入っているけど」
「まあ、ありえない話ではないな」


 と、セシルは理解してくれた。

 レッテリオ王子がそこまで強いのか、と俺は、殺害予告を出されたという話よりも、そっちが気になってしまい、うずうずと前に出たい気持ちが高まっていく。
 これは、この学園に現在籍を置いていれば参加してもいいのだろうか。
 俺は、セシルよりも他国の王族について詳しくない。第二王子でありながら王太子のアルチュールは除外するとして、この国の王太子は別にいることは知っているのだが。王位継承権第二位だろうレッテリオ王子のことはそこまで詳しくない。
 ファルファラ王国の双子の話はたまに耳にするが、それ以上の情報はあまり持っていないのだ。こういうのはセシルのほうが詳しい。
 それと、双子の姉であるレティツィア王女もいるので、もし、生まれた順番で王位継承権が与えられるとなれば、レッテリオ王子は王位継承権第三位かもしれないし。


「どうした、ニル。戦いたいのか?」
「えっ、バレた? うん。昨日の動きを見て、戦いたいかもって思って……ダメかな?」
「ダメじゃないが……」


 セシルの手を見ると、彼も戦いたくてうずうずしているようだった。
 考えていることは一緒らしい。
 強い相手と戦いたい。これに尽きるのだ。


「じゃあ、じゃんけんしよう。あと、一人か二人って言ってたし。順番決めない?」
「なるほど、それだと公平だな。恨みっこなしだぞ」
「じゃんけんで恨みっこって、これは運。よーし、じゃんけん――」


 腕をまくって、いざ勝負と拳を握ったところで「ああ!」と、元気な声に耳を貫かれた。
 レッテリオ王子がこちらを指さし、そしてぶんぶんと手を振りながらこっちに歩いてくるのが見えた。元気はつらつとしたその様子に、素がこれなんだろうなーと人の好さというか、明るさを感じる。
 俺たちは、握っていた拳を開いて、手の横におろし、走ってきたレッテリオ王子のほうを同じタイミングで見た。


「君たちは昨日の。まさか、留学生だったとはね」
「わかるの?」
「午前の授業は、諸事情あって出られなかったけど、途中からね。噂はかねがね。そっちの銀色の髪の君は、サテリート帝国の第一皇子セシル・プログレス皇太子殿下だよね。初めまして、僕はレッテリオ・アルコバレーノ。留学は半年間の間って聞いているから、その間よろしく」
「ああ、よろしく頼む。レッテリオ・アルコバレーノ第二王子」


 差し出された手を、迷うことなく握り返し、セシルは表向きの笑顔で応答する。しかし、何かに気づいたようにハッと顔を上げ、レッテリオ王子を見ていた。
 どうしたんだろう、と見ていると、今度は夜明け色の瞳が俺のほうを見た。


「君は、セシル皇太子殿下の……」
「俺は、セシル・プログレス皇太子殿下の護衛を務めさせていただいてます。ニル・エヴィヘットといいます」
「なるほど、セシル皇太子殿下の護衛騎士でしたか。どおりで、雰囲気が他の人とは違うわけだ」


 嬉しそうにレッテリオ王子は言うと、俺にも握手を求めてきた。本当に気さくな人で、初対面時のアルチュールをほうふつとさせる。アルチュールよりも元気はつらつとしているが、やはり、年の近いもの同士そういう気遣いは不要、ということだろうか。俺は、どちらかというとそっちのほうがいいので、気が楽でいいが。
 握手をすませ、レッテリオ王子は再度俺とセシルを交互に見た。


「話は聞いているかもだけど、一度手合わせ、どうかな? レティツィアの……姉君の護衛を決めようとしてるんだけど、僕より強い人がなかなか見つからなくて」
「そうらしいな。ちょうど、俺も参加するか検討していたところだ。レッテリオ王子さえよければ、一度手合わせを願いたい」
「そういってくれると思ってた。さっきの戦いで、相手の愛剣折っちゃったけど、そういう可能性もあるよっていうのは頭に入れておいてほしいな。剣が折れちゃうのって、まあ、ね」
「気遣ってくれるのは嬉しいが、俺の剣はそう簡単に折れはしない。手加減は不要だ」
「んふふ、痺れるね。楽しみだよ」


 夜明け色の瞳には、ワクワクといった期待が渦巻き、太陽が昇ってきたような輝きを放っている。不思議と、目を惹く瞳をしているな、と俺は見つめていた。
 ゼラフの日の出前に見える一瞬のピンク色とも違い、アルチュールの澄んだ日の入り後の真っ青な色とも違う。
 いろんな空の表情を閉じ込めた瞳たち。それでも、最後にはやっぱりセシルの瞳がいいって行きつくんだけど。


(キレイ、だな……)


 とんとん拍子に話が進んでいき、俺は置いてけぼりを食らった感じだった。
 やっぱり、レッテリオ王子も皇太子であるセシルに興味があるのか、とちょっと寂しい気持ちにもなる。セシルが強いのはもちろんなんだけど、俺に見向きもしないっていうね。


(いいけどさー、ここは主人の顔を立てなきゃだし……)


 俺よりも、セシルのほうが何倍も強者と戦いたいって血が疼く人間だし。セシルが楽しそうにしているのを見るのは、俺も嬉しいし。
 でも、俺だって強そうなレッテリオ王子と戦ってみたかったなって気持ちはあるわけで。
 第二皇子と、他国の皇太子の試合とのことでさらに人が集まってきて、輪の密度がぎゅっとなる。俺は、人の波に押されながら、この目でしっかりと試合を見届けようと、輪の中心にいるセシルを見た。
 銀色のリングから夜空色の剣を取り出し、レッテリオ王子を見据える。レッテリオ王子の剣はその華奢な身体に似合わないくらい重そうな白銀の剣だった。柄の部分は黄金で、炎が漏れ出るようなそんな熱を感じる。
 周りも熱気に包まれ、今か今かと二人のぶつかりを期待し、一点に視線が注がれる。


「いつでもどうぞ」
「そうか、なら……こちらからいかせてもらう――!!」


 ジリッと、にじり寄り、そして次の瞬間セシルが地面を蹴った。その一歩が大きくて、彼が踏ん張ったところは地面がへこんでいる。
 相変わらず、身体能力が高いんだよなーと、いつも一気に距離を詰められて、こちらが不利になったのを思い出した。今では、対策仕様があるが、それでも初見でこれに反応するのはなかなか至難の業だ。
 しかし、レッテリオ王子は驚くことなく剣を構えており、どこか余裕が感じられた。


「はあああっ!」


 セシルは剣を振りかぶる。それだけでも周りに突風が巻き起こり、周りにいた人たちの前髪が裏返る。いきなり飛ばしているが、それはレッテリオ王子が強者であるとセシルが見極めているからである。でなければ、あちらの出を窺って耐久戦に持ち込むだろうから。それをしないということは、最初から本気でぶつからなければとセシルが思っているということ。
 だが、セシルの一撃目を、レッテリオ王子は涼しい顔で受け止めていた。
 レッテリオ王子もさるもので、すぐに反応し剣を横に薙ぎ払うと、セシルの剣とぶつかり合う。金属同士が激しく擦れ合い火花を散らしたかと思うと、二人は一度離れ、またぶつかった。常人では目で追えないスピードだ。
 動きがゆっくりに見える、といった声が上がるが、あれは早すぎてゆっくりに見えるだけで、彼らはそれはもうすさまじいスピードでうちあっている。音がそれに追いつかず、後からカキン、キン、と響く。
 俺は耳をふさぎながらも、二人を見守っていた。セシルが一方的におしているのでも、レッテリオ王子が一方的に押しているわけでもない。ほぼ互角。


(セシルの攻撃にあれだけついていけるのって、珍しい。体格からじゃ、想像がつかないくらい怪力で……)


 鍔迫り合いになり、二人の力が拮抗して押し合う。しかし、すぐにセシルが剣に力を込め、押し返すとレッテリオ王子の体勢が崩れる。だが、次の攻撃をひらりとかわし、セシルの攻撃を受け止めた。


「クッ、これを受け止めるか」
「ふはっ! なかなかやるね……これまでに食らった攻撃の中で、一番かも! でも、まだまだ!! 」


 ガキンッとまた激しい金属音が鳴り響き、レッテリオ王子の剣が弾かれる。レッテリオ王子はその反動を利用して後ろに飛び退く。だが、それを読んでいたようにセシルの追撃の餌食になった。そして、そのまま剣を振りかぶり、レッテリオ王子に振り下ろした――が、しかし、レッテリオ王子は美しい身のこなしでそれを避け、カウンターを仕掛ける。


「まだ、ま……っ!!」
「少し、遅かったな――!」


 レッテリオ王子の目の前には剣が迫っている。その剣に反射する照り付ける太陽の光。レッテリオ王子は目を瞑りそうになるも、すぐにカッと目を見開く。そして、剣を振り下ろしたセシルの剣が地面に刺さると同時に、彼は飛び上がり、そのまま空中で一回転すると地面に着地し、すぐに距離を詰めた。
 今のも避けるか、と俺はレッテリオ王子の動きを分析していた。
 力はセシルと互角。しかし、セシルとの打ち合いで互角なんて人間がこれまでいただろうか。セシルでも未だ勝てない俺の父ですら、セシルの秘めているフィジカルには目を見張るものがあるらしいし。

 それと互角。

 そして、女性のようなしなやかな動き。セシルが苦戦するのもよくわかるというか。
 かといって、押され気味でもなく、互いに力では互角か、時々互いに上回り、それに呼応するかのように、また互角になって。
 地面は二人の打ち合いによって抉れているし、俺たちの服は二人がぶつかり合うその衝撃波によってしわが寄っている。髪の毛なんて巻き起こった突風によってあおられ飛んできた葉っぱが絡まっているし。
 耐久戦となっても、レッテリオ王子はついていけていた。セシルは、すごく楽しいだろうな、と俺は周りが、ひーひー言っている中、後方彼氏面で見ていた。
 だったが、次の打ち合いで一瞬だけセシルの動きが止まったのだ。


「……レッテリオ王子まさか」
「……っ!! たああああっ!! 隙あり!!」


 セシルの一瞬の隙をつき、レッテリオ王子が攻撃に出る。セシルは、反応におくれ、その攻撃をもろに受けそうになったが、何とか受け流した。だが、追撃が飛んでき、今度こそ――となったところで、俺は無意識に体が反応した。


「……っ、ニル!?」
「あ……ぶな」


 銀色のリングから飛び出た空色の剣を握り、滑り込むように二人の間に割って入り、全く別方向から飛んできた折れた剣を俺は弾いた。
 背中に汗が一筋流れる。額からもたらりと流れ、顎を伝って落ちていった。
 肩で息をしながら、俺は俺の前上で交差している二つの剣を見上げた。本当にすれすれのところで止まっている。動いたら、斬られてしまいそうだ。
 先ほどの熱気は一気に潮が引くように、あたりは静寂に包まれた。
 二人の間に割って入った俺にブーイングでも起きるんじゃないかと思うくらい、嵐の前の静けさ。
 俺は、弾き飛ばした見慣れた折れた剣を見て、そこに宿った憎しみに気が付いた。いや、所有者の感情を勝手に食い漁って、力に変えた魔剣というべきか。

 すみません! と、静寂を破るように先ほどの男がこちらに走ってきた。彼は慌てた様子で、俺やセシル、レッテリオ王子を見て、それから剣のほうを見た。信じられないものを見るように「剣が、勝手に……」とその男子学生はつぶやいて、頭を下げる。土下座する勢いだったため、俺はそこまでしなくとも、と動こうとしたが「大丈夫だった?」と、レッテリオ王子が剣を下ろし、男子学生に近づいた。


「れ、レッテリオ殿下……」
「怪我はない? って、君が僕に聞きたいみたいだね。大丈夫だよ」


 レッテリオ王子は、その学生を責めることなく、にこりと笑うと、彼の頭を撫でた。それまでせき止めていたものが流れるように、その学生は涙を流し「すみません」と壊れたように連呼した。
 何が起こったのか、だいたい理解できた俺は立ち上がって折れた剣の一番脆い部分に剣を突き立てた。すると、その剣から黒みがかった紫の煙が立ち、次の瞬間パキと音を立てて剣が粉々になった。


「――ニル」
「セシル……あ、ごめん。割って入っちゃった」
「かまわない。だが、それは」


 セシルは、粉々になった剣を見て、眉間にしわを寄せていた。
 まあ、そうなるのも仕方ないか。
 誰かが、あの男子学生にこの剣を渡した……この剣の本当の力を知らなかった感じだし、その線は濃い、か。
 同じことをセシルも考えていたらしく、難しそうな顔をして、それから俺のほうを見た。


「ニル、また面倒なことに巻き込まれて――」
「決めた」


 と、セシルの声を遮るように、また凛とした声が響く。

 セシルは、さらに眉間にしわを寄せ遮った男に目を向ける。
 男子学生を慰め終わった、レッテリオ王子はゆらりと立ち上がり、俺に向かって真っすぐ指をさした。


「護衛は、君に決めた。ニル・エヴィヘット君!!」


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