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第3章 一難去ってまた一難

10 一件落着

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「……心配かけました」
「ほんとだよ、ロイ……私、私……ロイが死んじゃうのかと思って」


 後日、解毒薬の効果もありすっかり良くなったロイは改めて私に頭を下げてきた。死にそうだった顔が嘘のように色を取り戻して、ケロッとしているものだから、彼の生命力というか、執念深さには驚かされる。本当に疑いたくなるほどぴんぴんしてる。


(……まあ、それは良いんだけど。私は被害者と言うよりただ巻き込まれにいっただけで……)


 今回の一番の被害者はどちらかというとロイなのに、わざわざ私が安心するようにと頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
 でも、私からしたらそんな謝罪の言葉よりも彼が生きていてくれるだけで良いのだと伝えると、ロイは泣き出しそうな表情になり私を抱きしめた。
 どうやらロイは、あの仮面パーティーに潜入することをもうろうとする意識の中聞いており慌てて私達の後を追ってきたという。カーディナルの魔法で毒が中和されていたとはいえ、まだ完全に回復したわけではなかったため、伯爵を蹴り飛ばした後倒れてしまったらしい。
 全く無茶をすると私はロイをしかりつけたが、彼はシェリー様だって、とふて腐れたように言い返してきた。そういう表情を見ていると、年下だなあって思うんだけど、いつも大体無表情だから読み取りづらい。


「あんな無茶な真似もうしないで下さい……他の男に襲われたり、触られたり……あの会場にいた男全員の首が飛ぶところでしたよ?」
「怖いこと言わないでよ。だって、それぐらいロイを心配して……」
「あんなのカーディナル一人いれば十分解毒薬を持って帰ってこれた」


と、ロイはかなり怒った口調で言った。

 曰く、カーディナルは恋人に試練はつきもの。と親指を立てていたとか。
 そりゃ、帝国の英雄とも言われる魔女だ。思えば、簡単に解毒薬ぐらい持って帰ってこれそうなものだと私は今更ながらに思った。そのせいで、私は怖い思いをしたわけだし……


(魅力的な女性ではあるし、目標ではあるけど、嘘つきな魔女なのね)


 そう、私は心の中でカーディナルにブーイングを言いつつ改めてロイの顔を見た。
 もうあの時のような死にそうな顔でも、殺意で満ちた恐ろしい理性のない獣の目をしているわけでもない。いつもの、私を愛おしそうに見つめてくるロイだ。私は、そう思うと安心して彼に寄りかかった。


「シェリー様」
「……良かった、本当に」


 彼の心臓の音を聞いているだけでも涙が出そうなほどに私は安心している。
 そんな私をロイは優しく抱きしめると、本当に優しい口調でゆっくりと言葉を紡いだ。


「言ったじゃないですか、生きるときも死ぬときも一緒だって。貴方を一人にしないって」
「ロイ……」
「俺はカーディナルじゃないんで、嘘はつきません。それに、俺が貴方の側にいたいから生きるんです。生きる理由があるんです」


と、ロイは何度も言った。

 私が生きる理由だとか、一緒に生きるだとか。やっぱり、プロポーズなのではないかと思ってしまう。
 何度も愛の言葉を囁かれたが、こう死ぬかも知れないという状況を乗り切ってからの言葉だと重みが違う。
 私はロイの唇に指を当て、その形を確かめるように触れ、彼の唇に自分の唇を優しく押し当てた。それに答えるようロイは私の腰を抱き寄せてキスを深くする。
 ああ、このまま溶けてしまいたい。
 この人ならきっと私を置いていかないし、置いていったとしても追いかけてきそうだし……なんて思いながら私は彼に身をゆだねる。
 だが、ロイの手が私のドレスの中に侵入しそうになったところで私はふと我に返る。


「ま、待って!」
「何でですか? そういう雰囲気だったじゃないですか」
「え、え、でも、だってロイは病み上がりだし!」


 私はそう抗議するが、ロイはきょとんとした顔でダメですか? と私に訴えてくる。
 また、耳がぺたんとなってる……と思いつつ、その可愛いおねだりをするような子犬の顔に私の母性はくすぐられる。が、ここで許してしまったら、彼は私を貪り尽くすだろう。
 そう、まだ彼は病み上がり。またぶり返して身体に何かあったらそれこそたまったものじゃない。


「でも、合計で五日もシェリー様を抱けていないんです」
「それぐらい頻度を開けても良いんじゃない? それこそ、私が死んじゃうよ」


 それは嫌ですけど。と、ロイは呟きながらまだ諦める様子はなく、ドレスに忍ばせた手を徐々に上下に動かしていく。
 その手つきがあまりにもいやらしく、私までそういう気分になってきたためこれはいけないと彼の胸板を押す。だが、勿論びくともしない。


「シェリー様は俺の事欲しくないんですか?」
「そういうこと、じゃなくてっ……!」


 さわさわと私の太ももを撫でるロイ。
 もう、本当に完治しているんだと思うと安心はするが、今は別の意味で安心できない。でも、私だってしたくないわけじゃないし、ロイが欲しくないわけでもない。寧ろ、欲しい……


(って、何考えてるの私ッ……! 欲求不満みたいな!)


 欲求不満……いや、たった五日抱かれていないだけでそんな欲求不満になるものだろうか。でも、ロイを見ていると身体が火照るのは事実で、本当に自分の身体はロイによって作り替えられてしまったんだなあって思ってしまう。
 私はブンブンと首を横に振り、ロイを見上げた。
 ロイはじっと熱の籠もったワインレッドの瞳で私を見つめている。そんな瞳で見つめられるとやはり流されやすい、彼というお酒に酔わされやすい私はこくりと首を縦に振ってしまう。


「よる……夜まで、待って。今はダメ」
「……分かりました。でも、今日は五日分抱かせて下さいね?」


と、ロイは不敵に笑う。

 五日分なんて、矢っ張り私を殺す気なんじゃ!? と私は内心がたがた震えつつ、ほんの少し……いや少しだけ夜が楽しみだなあとか思ってしまうわけで。
 そうして私達は再び口づけを交わし、生きていると実感しながら屋敷に戻るのであった。



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