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プロローグ
お前だけは
しおりを挟む「なあ、お前は死なないよな」
「ん?」
思わず零してしまった一言に、幼馴染みは俺の方を見た。
澄んだ青色の瞳は快晴の空を思わせる。その瞳は俺を心配するようにじっと俺だけを捉えていた。
「いや、悪ぃ……変なこと聞いちまった、つか言っちまった」
「泣きたいときは、泣けばいいと思うけどなあ」
そういって幼馴染みは、今は亡き友人の墓に手を合わせた。長いまつげは影を落とし、友の死を悼むその横顔はどこか神秘的だった。
ああ、そうだ。こいつはこういう奴だ。
普段は能天気で馬鹿丸出しなのに、時折こうして大人びた表情をするから。
するから――――
伸ばした手を俺はすぐに下ろしてグッと拳を握る。
青黒い髪は首の辺りで全部外に跳ねており、どれだけアイロンで直そうが直らないほどの癖ッ毛だ。そよそよと吹く風にその跳ねた髪が少しだけ揺れる。
俺の隣にいる幼馴染み、 颯佐空は「今度はミオミオの番じゃない?」といつも通り変なあだ名で俺の事を呼ぶ。
俺は、空に促されて友人の墓の前で手を合わせる。
数週間前に死んでしまった警察学校時代の同期の墓。優秀だった彼奴は、会わないうちに警察を辞め探偵になっていた。そして、知らぬ間に恋人を作っていた。その恋人が死んだ仇討ちを半年奮闘し、そうしてその相手に殺された。
最後見た彼の死に顔はとても幸せそうで、何だか悔しい気持ちになった。
仇は取れていないのに、恋人の元にいけるから幸せだ、みたいなそんな顔をしていた。凄くずるくて、許せなかった。
俺はここ数年の間にそいつとそいつの恋人――――2人の友人を失った。
「ミオミオ大丈夫そう?」
「……ああ」
「泣かないの?」
俺の顔をのぞき込んで、空は言う。
俺よりも泣きそうなくせに、俺の事ばかり心配してくるのは本当にずるいと思った。まるで、俺だけが弱いみたいに。
空だって、死んじまったそいつ「 明智春」に懐いていたくせに、明智春の恋人の「 神津恭」とも仲が良かったくせに。悲しんでいないわけじゃないだろう。けれど、彼は俺の前では泣かなかった。本当は彼が目を腫らしているところを見たのに、いつ泣いたのかすら分からなかった。
だからか、俺は泣かないと決めた。決めたのに……
「そろいもそろって、お前らってほんと酷い奴らだよな」
死人に何を言っても帰ってこない。墓に話し掛けても尚更だ。
明智がここにいれば「酷いって何だよ」と睨みを利かせてきただろうがいないわけで。
ただ、酷く胸が痛かった。
俺が泣かないのは、俺よりも悲しんでいる奴がいるからだ。とくに空は。
「じゃあ、ミオミオ帰ろっか。今日は非番だったけど明日は普通に仕事あるし。同居してるって言っても、部署が違うしね」
と、空は笑う。先ほどの雰囲気とは一変して、いつもの無邪気な笑顔を俺に向けてくれていた。強がりか、それとも切り替えが早いだけか。
俺は、引きずりまくっているのに。現実を受け止められずにいるのに。
先を行く空を目で追いながら、俺は明智の墓を振返る。
「お前は死なないと思ってたんだけどな」
ほんと人生何が起るか分からない。
親しかった友人は2人とも死んでしまった。残る1人は俺の横にずっといてくれるだろうか。
ああ、きっとずっとも永遠もないのだろう。
「お前は何処にも行かないでくれよ」
大切な幼馴染みで親友。
そして、俺の初恋で今も恋い焦がれている相手――――
「空……」
俺、 高嶺澪は遠くなっていく親友の背中をおって1歩を踏み出した。
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