上 下
10 / 61
第1章 夜明けの一等星

10 癒やしの友人と嫌な奴

しおりを挟む



「何か飲む?」
「ううん、大丈夫。いきなり押しかけちゃったのに、そこまでして貰うのが申し訳ない気がして」
「いいよ、楓音だし。オレンジジュースとお茶ぐらいしかないけど……あと、水道水か」
「えーじゃあ、オレンジジュース」
「オッケー」



 そうして俺はコップを2つ用意して、オレンジジュースを注ぐ。
 そうして、それをテーブルに置いて、俺は椅子に座ると、楓音も俺の対面に座って、いただきますと言ってから、コップを手に取った。
 そして、それを口に含んでから、ふぅと息を吐く。少し汗で濡れた頬が妙に色っぽかった。どことなく、昨日の自分と重なって、少しだけもやっとしたのは顔に出さないでおこうと、俺はグッとオレンジジュースを飲む。



「星埜くん何かあった?」
「ふぇ?」



 俺の心中察したのか、そんなことを言われて、思わず声が裏返った。楓音は方を一瞬上下させつつも「どうしたの、おかっし~」と流してくれた。俺は、あはは……と笑い流しながら、コップを握る。何か知っているのではないかと思ったのだ。現に、朔蒔は俺が何処にいるか楓音に聞いたらしいから。でも、いくら楓音とは言え、あの後事に及んだ……見たいな事想像しないだろう。普通は想像しない。というか、何でああなるのか、それが不思議なぐらいなのに。



(朔蒔マジで、許さねえから……)



 沸き上がるのは朔蒔への怒り。
 だが、彼奴を今日から無視したところで、機嫌悪くした彼奴がクラスメイトを殴りでもしたら……そう考えると恐ろしくて無視なんて出来ない。俺が犠牲になれば良いだけの話。彼奴は、気分屋だし、俺に飽きるのを待つしか無いと……



(彼奴が俺に飽きるのか?)



 自意識過剰。いいや、何でそんな考えにいたるのかと、自分でも不思議だった。だが、朔蒔の場合は、あれが正常なんだろう。



「……はあ」
「どうしたの、星埜くん。元気ないけど。何かあった?」



と、先ほどよりも心配そうな声色で楓音が尋ねてきた。

 本当の事なんて口に出来ないし、かといって楓音に嘘をつきたくもない。どう言えば良いか迷っていれば、楓音が先手を打つ。



「昨日、朔蒔くんと何かあった?」
「え……」
「いや、あのね……朔蒔くんが星埜くん何処にいるかなあーって探してたから。もしかして、朔蒔くんにまた……」
「って、ないない。あーえっと、でも朔蒔にはあった。うん、だが、何もなかった」



 俺は、勢いのまま押し切った。
 嘘をついたことに良心が痛みつつも、保身に走った。別に、楓音が俺と朔蒔がセックスした? みたいなこと聞いてきたわけじゃないのにもかかわらず、兎に角それだけは、その事実だけはバレないようにしたかった。もし知られたら、楓音にどう思われるか分からない。楓音との友情は大切にしたい。それに、楓音の純粋な心は何としても守りたかったのだ。



「そ、そう。何もなかったらよかったけど」
「因みに、何を想像したと?」
「え? 変なことじゃないよ。さすがにな……いこともないかもしれないけど、朔蒔くんだし。でも、僕が一番心配したのは、また殴られたんじゃないかって事で……」
「あーそれ。大丈夫だろ。彼奴、俺の事好きみたいだし。暴力で俺を支配できないのは、彼奴がよく知ってるだろう」
「星埜くんって強いね」



と、楓音はいつも通りに笑っていた。

 何とか貫き通せたかと、内心胸をなで下ろした。嘘をついてしまったのは仕方ないとしても、安心している自分がいる。
 そして、楓音の言葉が妙に嬉しかった。
 強いというのはどういう意味で言ったのかは知らないけれど、そんな風に強いと言って貰えるのは嬉しかった。弱いよりも……そりゃあいいし、楓音を守ってあげられるぐらいは……



(でも、強いって……俺絶対朔蒔より弱いよなあ……)



 何て想像が頭の中をよぎった。
 どう考えても、暴力……力では朔蒔に敵わない。そのせいで昨日組み敷かれた訳だし。ランニングは日課にしているが、筋トレも追加した方が良いんじゃないかと思った。ただ、筋肉はつきにくい体質なのが問題だ。一見弱そうに見えるのが何とも……



「星埜くん?」
「あ、どうかした?」
「ううん、何だか、ぼーっとしてたから。この間殴られたとき頭ぶつけたんじゃないかって心配になって。大丈夫そう? 身体の方」
「ああ、うん。まあ……腰が」
「腰?」
「あ、いや、ただ打っただけで!」



と、見苦しい言い訳をしたところで、楓音がふふふと笑ってくれた。そして、俺は思う。やっぱり、楓音には笑顔が似合うと。

 俺も笑った。出来るだけ明るく、なるべく楓音に心配をかけないように。
 まあ、問題というか、楓音の笑顔は置いておいてはいけないけれど、ひとまず置いておいて。



(バカみたいに、朔蒔のことが頭にちらつく。ほんと、彼奴の引力って言うか、脅迫感、圧迫感というか……俺の中に嫌でも残る強烈な……)



 身体にもたたき込まれて、脳にもたたき込まれた感じで嫌だった。忘れようにも忘れられない。最悪だ。
 俺は、自分の中に何かがはいってくるこの感覚が嫌だった。
 それから、少しの間楓音と談笑し、楓音は着替えてくるといって先に家を出、俺も準備ができ次第学校に向かった。今日は朔蒔が来てませんようにと祈って、呪って学校に行ったが、俺の後ろの席には彼奴が座っていた。



「おはよ、星埜」
「死ねよ」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に行ったらオカン属性のイケメンしかいなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:199

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,353pt お気に入り:1,378

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:934

年下の夫は自分のことが嫌いらしい。

BL / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:218

好きになるつもりなんてなかった

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:549

処理中です...