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第2章 真昼の一等星

08 複雑な心境

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「おはよう、星埜くん……って、大丈夫? 声がさがさだけど」
「あ”……うん、大丈夫、うん。大丈夫」



 あはは……と、笑い流して、俺は、明後日の方向を向く。
 昨日、カラオケにて、楓音が席を外した数分の間に、俺は朔蒔にまた犯された。本当に、彼奴の性欲というか、スイッチが何処ではいるのか分からないから、注意しても、しきれない。もうなるようになれ、といいたいところだが、自分の身体のことでもあるし、こう毎度、毎度貪られていたら、いつかなくなってしまうんじゃないかとすら思っている。
 楓音には心配かけている、心配されている自覚はあったが、公に出来る話しでもないし、何より、夢見る男の娘である楓音にこんな淫らな話は出来ないと思った。
 まあ、そんな普通黙っているような話を大声で言う男がいるのだが……



「おっはよ~星埜、楓音ちゃん」
「おはよう、朔蒔くん」
「……はよ」
「何だよォ、星埜元気ないなァ。あっ、もしかして昨日俺が散々――」
「だ――ッ! だから、いうな、朝から。お前は、TPOを考えろ!」



 もごもごと、俺の手のひらの下で暴れる朔蒔。だが、此奴が、酸欠になって倒れようが、この秘密だけは、昨日のことだけは、楓音の前で言わせてたまるかと、口を塞ぐ。そんな俺と、朔蒔の様子を見て、クスリと笑う楓音。ああ、ここに天使がいるのに、何で俺は此奴に抱かれるんだろう。
 そう思っていると、朔蒔が俺を無理矢理剥がし、楓音の方に歩いて行く。もしかして、楓音に何かする気なんじゃ、と俺は待て、と声をかけたが、なんてことない、心配する必要は無かったようだ。
 だって、以外にも、朔蒔が楓音に珍しいことがいうから。



「楓音ちゃん」
「なあに、朔蒔くん」
「昨日、ちょー楽しかった。俺、ああいうの初めてで、ドキドキっていうか、わくわくわー! っていうか? めっちゃ、楽しかった。あんがとな」



と、朔蒔が楓音に、あの朔蒔が楓音に感謝の言葉を述べたのだ。


 これには、俺も楓音も驚いて、目を合わせ、朔蒔を見る。
 滅茶苦茶イイ笑顔で、朔蒔は楓音を見ていて、今日はやりでも振るのではないかと、そう思えるほどだった。



(は? 此奴が、楓音にありがとうって? どういう風の吹き回しだよ)



 そんな風に、食ってかかれるような勇気も何もなかったが、楓音は違うようで「何で?」と正直に、言葉を漏らした。



「え、朔蒔くんどうして?」
「どーしてって。楽しかったから、楽しかったっていってるだけだけど?」
「え……いや、でも、朔蒔くんって僕のこと、嫌いじゃなかった……け」



と、自分が嫌われている前提で話す楓音は、綺麗な心の持ち主だなあって思ったし、何より、一歩ひいているところが、何というか守ってあげたくなるような子! と言う風な感じだった。まあ、それも、実際口にはしないけれど。

 楓音が、目をぱちくりとさせていれば、朔蒔はまた、珍しく頬をかいて、視線を逸らしながらいう。



「俺、これまで、ともだち? いなかったからさァ。こういうの初めてで。誘ってくれる奴とかもいなくて。だから、楓音ちゃんと、星埜が初めてだったんだよ。俺のはじめて」



 言い方は、何処か卑猥な感じもしたが、そう思っている俺の方が卑猥なのではないかと考え始め、素直にその言葉を受け取ることにした。



(つか、矢っ張り、友達いなかったのかよ。でも、素直に喜べるというか、楽しめるところは、此奴の良いところかも……)



 頭のねじはハズレてるが、まあ素直で、感情的でそこもたまにはいいわけで。矢っ張り、琥珀朔蒔を知れば知るほど、分からなくなってくる。



(俺は、此奴のこと、知りたいって思ってるのか?)



 強烈な引力を持った此奴に、惹かれつつあるって、認めたくなくて、でも、何処にいても見つけられるような、それこそ、運命みたいなものなのかも知れないとか思い始めてきた。
 そんなもの、存在しないだろうに。

 琥珀朔蒔という、異分子は、途轍もない引力を持っている男だ。だが、時折、子供っぽくて、感情的で……こんな当たり前の事に感動できるような男だったのかと、俺は思ってしまった。
 なんというか、子供の頃に出来なかったこと、子供の頃に止ってしまった感情のままぶつけているというか、まだまだ青春だが、今ようやくその位置に立ったというか。言い表せないけれど、琥珀朔蒔っていう人間は、本能的、と言う言葉ではなくて、幼稚、と言う言葉が似合うのではないかとすら思った。彼の言動から見るに。



(……どうでもいい、はずなのに)



「つーことで、嬉しかった。あんがと。で、俺とこれからもともだちでいてくれよな?」
「……っ、うん、こちらこそだよ。朔蒔くん」



と、楓音は朔蒔の手を握った。

 楓音も、凄く嬉しそうで、何だか俺だけ除け者にされているような感じがした。気のせい……だとは思うけれど。



(……友達が嫌な奴と仲良くしてるって、何か、複雑だよな)



 でも、この複雑な気持ちは、そこからきているわけじゃない気がして、俺はこのモヤモヤを抱えたまま、二人と一緒に教室に向かうことになった。



「せーの」
「……何だよ。朔蒔」
「楓音ちゃんのことは、ともだちって思ってるけど。星埜は違うからな」
「違うって……」



 チクリと刺す胸。

 フッと不敵に笑ったかと思えば、満面の笑みを次の瞬間には浮べるのだから、本当に訳が分からない。



「俺と、星埜は運命。赤い糸で繋がってんだよ。切れないぶっとい糸で」



 バカみたいに笑うから、俺は、そんな朔蒔から顔を背けるしかなくなってしまった。



(意味分かんねえし……クソ)


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