上 下
31 / 61
第3章 真夜中の一等星

01 恋煩い

しおりを挟む



「星埜、あっち~」
「熱いなら、くっつくな。バカ」
「星埜ひんやりしてて、気持ちーから。無理♥」
「それは、お前の……って、マジで熱いから」



 仲良いね、何て、楓音に微笑ましいと言わんばかりに見えられて、何か、違う。そうじゃない、と言いたくなった。でも、朔蒔にのしかかられて、重くて声を出す気にもなれない。俺よりも背が高くて、それなりに、体重あって、体重……と言うよりかは、筋肉なんだろうけど。



(此奴って、以外と筋肉あるんだよな……腹筋とか割れてるし)



 どうやって、そのシックスパックなるものを手に入れたのか聞きたいところだった。だって、朔蒔は帰宅部だし、でも、運動神経は抜群に良くて。最近は、落ち着いているのか、体育の授業でも活躍しまくりで、女子にもきゃーきゃー言われていた。ジェンダーを気にする社会だから、男女混合の体育の授業も増えてきて、益々朔蒔が目立つようになった。前までは、あれだけ恐れられていたのに、今じゃ女子の注目の的。それが、別に嫌なわけじゃないけど。



(朔蒔のファンとか、朔蒔を好きな子とか、出てきたら嫌だし……)



 嫌なんて、人の気持ちに圧制かけるようなことしたくないし、思っちゃいけないんだろうけど、俺は、どうにももやっとした気持ちが抜けなかった。
 認めれば、それだって、言葉があるのに、その言葉を言いたくないがあまり、俺は口を閉ざしている。気づかないふりはやめられない。
 そして、そんなこんなで七月の終わり。夏休みまで一週間を切ったくらいから、気温は急上昇。クーラーが効いているとはいえ、暑いものは暑かった。半袖のシャツも役に立たないくらいには。けれど、女子は、暑くても足を開くことないし、ボタンはしっかり閉めて、身なりに気遣って……本当に凄いと思う。男子なんて、ボタンを開けて怒られている奴らをちらほら見かけるし、たまに、ズボンも下がってるし。
 まあ、それは良いとして、この暑さの中、授業を受け続けていると、頭がぼんやりとして、入ってこなくなるのだ。それを理由にしちゃいけないし、夏休み明けは課題テストがあるから、それに向けて勉強もしないといけないし。



「はあ……」
「珍しい、星埜くんがため息なんて」
「恋煩い?」
「はあ? ちげえし。つか、ほんと、お前の語彙は何処から引っ張り出されてくるんだよ」



 珍しい言葉じゃないが、朔蒔がいうと全て可笑しく聞える。ド偏見で申し訳ないと思いつつも、所詮朔蒔だし、何て思っているところは俺には少なからずある。これは、悪いんじゃないか、正さなければと、俺の中の正義がいっているから、直していこうとは思っているのだが。



(恋煩いとかしたことねえし)



 生れてこの方、恋なんて一度もしたことがないから、そんなピュアな恋する乙女みたいな感情抱いたことない。もし、抱いていたとしても、それに気付けないだろう。いったい、朔蒔がそんな言葉を何処から引っ張り出してきたか、気になるところではあるが、もしかして、なんて思いが出て、俺はちょっとの好奇心で聞いてみた。



「そういうお前は、あるのかよ。したこと……恋煩い」
「ん? 俺? 俺はねェけど」
「なら、何で俺にそんなこと聞くんだよ。つか、したことねえなら、わかんないだろ」
「え~星埜は、俺に恋してるっ♥ なんつって」



と、冗談なのか、本気なのか分からない事を言って、茶化すので、俺は思わず、朔蒔の頭にチョップを噛ましてしまう。「ふぶしっ」なんて、何処から出しているのか分からない声を上げて、朔蒔が痛え……なんて、声を漏らす。本当に痛がっているのか、これもまた分からない。

 本当に分からない奴。

 黒い瞳が、俺を見つめるので、俺はまた顔を背けてしまう。夜空……真っ暗な夜空。でも、そこに、ひときわ輝く一番星があるみたいで、なんか、苦手だった。
 楓音は、そんな俺と朔蒔のやりとりを見ながら、ニコニコとしていて、「今日も元気だね」ともう一度口にする。



「うんうん。仲が良いのが一番だよ」
「これ、仲が良いっていうのか?」
「楓音ちゃんがそう言うなら、そうでしょ」



 ねーなんて、朔蒔は楓音を味方につけて、俺を見た。どうだ、みたか。みたいな、どや顔をしてくるのがむかつく。
 まあ、確かに仲が良い……のかも知れないし、楓音とあれ以降朔蒔がもめている様子もなかったし、意気投合しているような場面も見てきたから、それなりに仲はよくなったんじゃ無いかと思う。朔蒔がそういう心の在りか、というか、言語で表せないそういうのを見つけられたのは良いんじゃないかと思った。
 あの、七夕の短冊のことを思い出すと、まだまだ分からない事だらけだが。



(……これは、好奇心なのか、彼奴を知りたいっていう特別な感情なのか、わかんないんだよな)



 特別な感情なんて、父さんへの憧れ以来のことだと思う。けれど、特別といって良いのか、まだ判断材料が少なすぎてどうとも言えない。ただ、俺は、朔蒔から目が離せない。それだけは、ただ一つしっかりとした事実だった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に行ったらオカン属性のイケメンしかいなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:199

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,353pt お気に入り:1,380

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:934

年下の夫は自分のことが嫌いらしい。

BL / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:218

好きになるつもりなんてなかった

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:549

処理中です...