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 忌々しい記憶、焼かれた皮膚の痛みと熱さは皮膚が引っ張られるような感覚で思い出す。
奴隷であったことを悔やまない日はない、いつこの生活に終止符を打つかそれだけを考えて無駄に生きてしまっては日の落ちた空の下、水溜まりに心をぶつけて思考を止める。


 明日、また新しい人が入ってくるんだ。何日持つかな。ずっと虚無の世界に生きていた。



 デフィーネが呼んだユルはすぐに室内の窓際に座り窓越しに顔を会わせる。
「アウス様にお伝え願える?」と言えばわかったと冷たく淡々とした口調で言われる。

 ユルとしてもあるまじき失態。ラウリーが居なくなったのは瞬間であった。
目線をずらした瞬間、居たはずの者が消えるなど神隠し以外にあり得はしない。


「……ねぇユル。私ねお嬢様が虐げられるのやっぱり許せないわ。守るためなら私は出せる」

「気持ちはわかるがやめた方がいい。俺達が今の恩恵を受けていられることも奇跡に近いんだ、また誰かが傷つき消えることなど望んでいない」


 聞いた時、とてもではないが信じられなかった。奴隷が奴隷を守るなんていうことがあるなんて。
奴隷の日常は想像よりも遥かに厳しい。食事は残飯が出ればいい方で、大体は家畜達に与える餌でダメになった廃棄を寄せ集めたもの、穀物や草が主流で買われた家によっては残飯や趣味が悪い家なんかだと更に酷い食事になる。
暴力は日常茶飯事、買った人間の気が済むまで殴れる人形のサンドバッグだ。
どんな用途で買ったかによって扱いは更に変わるが他人に目を向けることなど出来やしない。

 そんな中でも守りその分の罰則を与えられ続けるなど馬鹿にしか出来ないことだと思ってきた。

「…当主には現状見つかる手懸かり無しと伝える」

 フワッと流れる風のようにユルはその場から消えるように去った。デフィーネはとても悲しい顔をしたが、すぐに前を向き再度ラウリーを探すことを始めた。









 アウスの元に話が行ったのはそれから三時間後。
王国と公国を隔てる大きな森の中にある少数の集落内。
族長であるアナナイは精霊士と呼ばれる森に棲む妖精になる前の実態の無いもの達と意志疎通がとれる。
 王国への復讐の旨伝え、力を貸して貰えるよう願えば「我々は中立を保たねばこの境界線燃やされてしまう」と断言され悩ましくも交渉を続けている所であった。

 この森も徐々に蝕む瘴気によって危険に晒されることになると言えども、森と共に朽ちれば何も文句はあるまいと言われては何も言えない。

 アウスは多くの奴隷だったもの達を訪ねては王国のありとあらゆる視点からウィリエールの即位を失くす為の証拠を集めようと動いていた。皆、ウィリエールが即位した後の世界がある程度わかってはいても王国という強大すぎる国を敵にすることは現実的ではないと後ろ向きであった。

 『やっとの事で逃げられたというのにまた戻る気か』という者や『家族を奴隷という世界から切り離して育てたい』という者。
全員の意見をアウスも理解できるからこそ強くは出ることが出来なかった。


「……御当主、お話し中失礼致します。お嬢様の行方が邸より消失、手懸かりもなく発見の目処は立っておりません」


 ユルからの連絡が入った瞬間、アウスの記憶は曖昧でただまだどうしてもやることが残っていてすぐには帰宅出来ない事実に怒りと焦燥感が募る一方。
「近衛ノ衆ヲ出セ、十日デ戻ル、見ツケ出セ」
龍の声を隠すこと無く森の民達を怯えさせながら十日の刻限を出した。
この刻限を戻ったユルから聞いた使用人達は見つけ出せなかった場合を考え恐怖に戦き死に物狂いで探したが、結果として見つけ出すことは出来なかった。
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