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しおりを挟むウィリエールの入学を祝うパーティーで、マリアが体調不良を理由に立ち去ってからある程度の時間が経ってノルマンだけがパーティー会場に戻った。
せっかくの宴を崩しすまないと軽く挨拶をし、玉座に座ってからというもの一切動く気配を見せなかった。
長老たちは今日この日に言質を取って、確固たる足場を組み立てたかった。
故にノルマンだけが居る状態はある意味の好機だった。
ダンスの時間を越え、舞台でいえば幕間の時間。
長老の一人が「王よ、王子も学院に入り学びを得るこの時に次期王をある程度は据えておいた方が良いと思うのだが、当てはあるのか?」とわざと弱々しくきいてみせた。
知らなかったのだ。デクドーの息子の中でもデクドーに似ている面があまりにも少なかったからこそ、多くのものが舐めて見ていたということ。数パーセントでもデクドーの血を継いでいない場合、王族という地位には着けないということをどこか、その知識が欠けていた。
「……何故、王である俺にお前風情が馴れ馴れしく話し掛けて来ているのか、次期王を決めるのもそれを危惧するのもお前ではないのは明白であろう。甚だ図々しいとは思わないのか」
マリアが居た時とは明らかに違い、冷酷な瞳。
人を見下すように視線だけを向け、つまらなそうに頬杖をつく姿は長老も覚えがあった。会議等でつまらない、進まない時に見せるデクドーとまるで同じ。
瞬間、デクドーを知る全ての者は背中を冷や汗が伝い、知らぬ者もノルマンの豹変に驚きを隠せない。
長老も誰も声を上げられない。デクドーであればここで下手な発言は自身の首を身体から離すことに繋がるからである。
普段のノルマンでは決して感じることの無い、冷たい態度に静まり返る。
「……マリアが嫌うから素は出さないようにしているが、流石に俺を下に見てきた者が多いことも知っている。今更それをとやかく言う気もないが、俺が王であることを忘れるな。
次期王だったな、一つ言えることはウィリエールだけはあり得ない。兄弟で真っ当なものをあてがう予定だ。異論は受け入れぬ。
マリアが居ないこの場に価値は無い、する話があるのならさっさとして下がれ」
…
ウィリエールが次期王候補ではないと宣言がなされた日から数日。
マリアは使命感に燃えた姿で鏡に向き合う。学院に行く事を長老や多くの者の反対を押し退け実行に移すから。
「…内部視察ということだから、もう少し落ち着いた色が良いかしら」
「何を着てても綺麗だよ、本当に何でも似合う」
王族とは思えぬ、呂色の胸元に金の刺繍のワンポイントが入ったワンピース。
ドレスのようなパニエの厚みも、豪華さも無い。
マリアが本来好きな姿はこういったシンプルな単色にワンポイント程度の落ち着いたもの。飾りでごちゃごちゃしたような服ではない。けれどそれを着ることを憚られてきた。
ノルマンは、ノルマンだけが「マリアが着たいものを着たいように、したいことをしたいようにすればいい」と優しく笑ってくれたから出来た何十年ぶりかの好きな姿。
ノルマンは公務があり学院には一緒には行けなかった。その分、ノルマンを守る騎士がマリアについた。
初めての内部視察は、学院に大きな衝撃を与えた。
豪華さが目につく、学舎とは欠け離れた昔とは大きく変わった子供だけの独裁国家。
教員はマリアに媚を売るように頭を下げた。子供にも地位が高いものには腰を低く、地位が自身より低いものには目もくれない。
根底から腐っているのを見てみぬ振りをし続けた結果。
生徒全員を一番広い講堂に呼んでください。とマリアが言えば、誰も逆らうことはしない。
一限の時間を取ってでも、マリアは此処に来た意味を果たさねばという気持ちでいっぱいだった。
集まった生徒たちの顔を見て強く願った。
「この学院で起きたこと、起きていたことを恥ずかしながら私は今更のように知り動いています。
取り返しのつかぬ人がいることも知っています。遅くなり申し訳ございません。
今更だけど、今だからこそ出来ることをしていきます。だから、私と個人面談の時間を取って欲しいのです」
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