幸福奇譚

安馬川 隠

文字の大きさ
8 / 30
本編

8

しおりを挟む

 ファイルに入っていた女の子達の情報には、通常面接の際に集めることなど無い全裸の画像もあった。廃棄されたであろう女の子には『処理』と赤ペンで書かれていて、今となっては生きているかもわからない。


「今此処にいるのは黒服くんが一人、サチさん、エリカさんと……ハルカさんでしょ…あった、リカコさんにリノさん、ユカさん……マナミさん、ユイさん、イチカさん……いた、最後がサクラさんだね。まだ処理されてないこの『ワカナ』と『アイコ』の二人はどこにいる?」


 学校の出席のように重東は眼前の女の子たちの名前を呼んで確認し、まだ処理と書かれていない二人の安否を確認する。
他に残っている子達には『井原』『串田』『本川』と名前がありその中には飯島と繋がっているのならばあり得るであろう繋がる人物の名前もあった。要は身請け、という名の人身売買だろう。


「…ワカナちゃんは今日、オーナーが昼間に電話で生理だから休むって連絡が来たって……」

「アイコちゃんは……今病院で入院中です……その、自ら命を絶とうとして…」


 ポソポソとではあったが情報をくれる女の子たちに重東は優しくありがとう、と再度告げた。
そして向き直るように、君たちの今後だけどと言えば全員がまるで拷問を待つ囚人のように顔を青くして震え出す。
重東は優しく言い聞かせるように、全員に明言した。


「俺は君達をどうにかするつもりはないよ。ただクラブロンティルを継続するにも君達にオーナーの資格は無い、知識も経験も無い。そもそも君達が夜職を続けたいかどうかも解らないし。
だから、借金は無い状態にし希望を聞いて継続の意思があるのなら俺の管轄に入るけどそこでも良いなら紹介をする。ロンティルは一時組の所有にして取っておくから」


 呆気に取られるとはこの事をいうのだろう。きっと売られるんだろうと考えていた者たちの脳内では希望を聞いて反映させてくれるなんて微塵も想像もしていなかった。
重東のさも当たり前のような立ち位置といい、話し方といい誤解が生まれるのは当然のような気がしたが今井の体制になってからいつ無くなるかもわからなくなっていた命を救って貰ったも同然の彼女達は一概に重東を悪とは言えなかった。

 ユイ、ユカ、マナミはエリカや他の人たちが残るならと言ったが、そのエリカ達に若いのだからこんな仕事してちゃダメなの、私たちは守ってあげられなかった。と残ることに反対し新たに頑張るべきだと言った。
 イチカ、リカコ、ハルカ、サチ、エリカの五人は残ることを断言し、同様にリノ、サクラは辞めると断言した。


 どのみち、止める権限も進んで煽る権限もない重東からしたらどちらの選択をしようと構わないのだが、女の子達は真面目に昼職でも行ける者とそうはなれない者とをはっきり分けた。
エリカを含む数人が止めたユイ、ユカ、マナミは確かに十代後半から二十代前半の若い者で今からということは確かであろう。
稼ぎが多くなければならない借金や病院での高額な治療費を稼ぐ者は残らねば実質やっていけなくなる。理解はできる、ただその感情は重東には全く生み出せないものだった。


 全員の意見を聞き終えた辺りで、叶真がとても楽しそうに店に戻ってきて『いつもの場所に』と重東に耳打ちした。わかったと言えば、叶真としても次のステップに移行する。
この方々の処分は?と不穏な単語で叶真が煽れば、重東はけひひっと悪い笑い方をして其々の行き先を告げる。


「エリカさん、イチカさん、サチさんの三人は『ティモーラ』に。リカコさんとハルカさんは『雪華』に送って差し上げて。俺の紹介だと。
ユイさん、ユカさん、マナミさん、リノさん、サクラさんは病院での検査後各々の家まで必ず送り届けるように」


 重東の言葉に、わかりましたと答えた叶真は携帯を取り出し何処かへ電話をかけ「若からの指示だ」と先ほどの言葉を復唱するように言った。
数分後には叶真を兄貴と呼ぶもの達が現れ、各々言われた場所に運ばれていった。
 closeの札が掛けられた店内に、重東と叶真の二人だけが残る。
黒服が持ってきたであろう、裏に向かって歩く革靴の音が静かな店内に響く。


「……若にしては、とても優しい対応なことで」

「利用価値がある、それだけの話。ヒロの元へ早く帰りたいから今井の処分を決めなきゃだ」


 裏で黒服が選ばなかった、というよりは選べなかった鍵のかかった引き出しを壊すように開けた中身を持ちながら重東は今井の元へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

処理中です...