番の拷

安馬川 隠

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番の拷

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 原は壁に背中を合わせ、その言葉を必死にスマホの録画で録っていた。

 加賀見と廣立はモテる。
そうなると、障壁として現れるのは運命の番でもなんでもないのに二人の特別である伊野瀬 鳴の存在だろう。

 アイツさえいなければ、

そう言われるのは鳴自身も慣れている。
だからこそ、原にも慣れているからと笑っていられた。
 ただ、今壁の向こうで話をしている女子の会話はそんな愚痴程度のものではない。


 「伊野瀬ってどうにかして消せないの?」
 「βなのにαの番って…あり得ないよね、もしかしてホントに抱かれてるのかな」
 「…じゃあさαけしかけてさ、二度と学校来れないようにしちゃえば良いんだよ」


 チラと見た、話をしている女子たちは二人はΩ、一人はβの子であることは共通授業で見た。
後ろに居る聞くだけで話をしない人は見たことがないから先輩だろう。

 原は絶対に音がでないように制服の袖を押し付けてカメラの録画機能を押して、録画を開始する。
 女子たちは一人として気づくことなく、話をする。
αの誰某が廣立くんに嫉妬してるからけしかけやすいだの、βの伊野瀬が二人のことにたいして我が物顔でいることの不服さだの、やるとしたらいつがいいか。なんてベラベラと、要らない情報まで付け加えて。

 話の内容から、Ωの一人は加賀見くんが好きなのだろう。
どうやったらヒート時に加賀見くんの傍に居られるだろうか、襲ってくれたら無理矢理でも番にするのに。なんて恋ばなをするように言っていることすらも原からしたらあり得ないことであったし、それに賛同しいけるよ~なんて笑いながら言う周りの子達もあり得なかった。


 ある程度の話が終わったのを見計らい、原は録画を止めて小走りで話が出来そうな方はどちらだろうと考えながら、まずは廣立くんか。と体育館へと向かった。

 体育館では統たちのグループは勝ち進み、他の試合を見ながら誰と対戦するのかなどと笑っていた。
統はグループから少し離れた所で一人、水分補給をしていて他者を寄せ付けないオーラを纏っていたが、緊急事態になってからでは遅いと意を決して原は話し掛けた。


 相手が相手だっただけに不機嫌そうに話を聞いていた統も話の内容に、額の青筋を立て明らかに笑っていない笑顔を作り出す。
 恐怖に腰が抜けそうになったが、流石に怯む訳にはいかないと自身の携帯を取り出し、会話を録音してあります。加賀見くんにもお渡しください、お役に立てないかも知れないけれど…、と頭を下げ渡した。

 統は心底不思議な顔をして原に問い掛けた。
俺は君が嫌いで、君は俺を怖がっているのにどうして声をかけたの?と。


 「……伊野瀬くんは凄くいい人です。私もβ性だったら告白していたくらいには好きです。
でも、Ωは人種的にも蔑まれる側で、運命のαがいてもΩというだけで性被害も多く弱者と言われる。
 伊野瀬くんはβなのに自分をΩ以下だと言うんです。
……、私にはその考えも、伊野瀬くんに何か危険が迫っても助けてあげられるどころか足を引っ張ってしまう可能性が高い、です。うまく言えないんですけど…
廣立くんと加賀見くんなら、救えると強く思うので教えるだけです。伊野瀬くんが助かり笑えるのなら私は苦手なんて克服出来る。

 αとβの番、応援しています、伊野瀬くんを幸せにしてあげてください」
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