ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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さすがの俺だって、遣られっぱなしは嫌だ。

 ドアを背にした俺の正面、重厚な革張り応接五点セットの上座にどっしりと腰を下ろしているのは西園寺ホールディングス会長である祖父。左側のソファには双子の姉。右側には、父と母が座っている。

 いまにも噛みついてきそうなのは、姉たちだ。母はおっとりと、父は和やかに、祖父は慈愛に満ちた瞳で俺を見つめている。

 ここまできて逃げることは叶わず。仕方なく腰を下ろそうと手前のソファの背に手をかけたところで、早速、姉ふたりの口撃を受けた。

「聞いたわよ! あなた、婚約したんですって?」
「家族に相談もなく、なに勝手に婚約なんてしてるのかしら!」
「婚約の前に、私たちに紹介するのが先じゃなくて?」
「あなたの秘書なのよね? どんな子なの?」
「……兄貴から聞いたんじゃないのかよ?」
「お兄様は詳しいこと教えてくれないもの。あなたに訊くしかないじゃない?」
「そうよ! 秘書なんだったらどうして連れてこないの?」

 ふざけるな。紹介なんてとんでもない。この姉たちの口撃に面食らった相沢に逃げられでもしたら、どうしてくれる、とは、思うだけ。絶対くちには、できない。

「私は一度会ったことがある」
「え? お父様はお会いしたことがあるの?」
「ああ。去年の総会でだったか。控えめで利発そうないい子だったぞ?」
「ええ? お父様だけずるい」
「いや、ずるいと言われてもだな……仕事だし……」
「このお羊羹おいしいわ。大和屋の新作かしら?」

 周囲の喧騒を気にもかけず、母はマイペースに羊羹と茶を嗜む。

「大和屋の? あら本当、見た目も涼やかでお味もいいわ。お土産に買って帰ろうかしら? うちの子たち大和屋のお菓子大好物なのよ」
「こんな時間にまだあるかしら? 大和屋の季節菓子って、たしか、数量限定よ?」
「そうなの? だったらもうないかもしれないわね、残念」

 カオスだ。

 家の連中はどいつもこいつも……頭痛がしてくる。

「ところで、要さん。一緒に暮らしているんですって?」
「……はい?」

 羊羹を食べ終わった母からの爆弾発言。 家で一番の情報通、それは、母だった。優しげに微笑むもその目が、笑っていない。

「なにそれ? 聞いてない!」
「私も聞いてないわ。お母様、それ、誰から聞いたの?」
「誰からって……祐ちゃんに決まっているじゃない? 一緒にお仕事しているんですもの、よく知っているでしょう?」

 くっ。祐司の野郎、いつの間に……。

「要おまえ……よそのお嬢さんに無責任なことをしていないだろうな?」

 眉間に小さく皺を寄せた父の声が厳しくなる。

 無責任……か。結構グサッとくる言葉だ。

 自分の迷いは棚に上げ、社会的な責任も二の次。一方的に婚約者の烙印を押し、騙し討ちのように俺の部屋に住まわせているだけの現状は、無責任と言われたらそのとおり、と、言えなくもないが。

「そうよ、お父様! 私もそれを言いたかったのよ」

 空気が張り詰める。皆に注目される中、俺は膝に手を置き、姿勢を正した。

 生半可な気持ちでここまできたわけじゃない。俺にだって、覚悟は、ある。

「お爺様、お父さん、お母さん、綾乃あやの姉さん、佳乃よしの姉さん、相談もなく勝手なことをして申し訳ありません」

 言葉を句切り、ひとまず深く頭を下げる。一呼吸置いて、よし、と、心を決め、顔を上げた。

「えっ……と、皆さんすでにご存じでしょうが——彼女の名前は、相沢優香。四年ほど前から俺の秘書をしてくれています。これまでお話しできなかったのは、べつに隠していたわけではなくて——じつは、未だ彼女の気持ちをつかみきれていなくて。一緒に暮らしてはいますがまだそれだけ、というか、アプローチしている最中というか、彼女との関係がきちんと確立できていないんです。もちろん彼女にはなんの問題もありません。ただ、俺の覚悟が中途半端だったのが原因だと——そこは自覚しています」

 皆の目を真っ直ぐ順番に見つめながら言葉を繋ぐ。

 佳乃がニヤリと笑い『ヘ・タ・レ』と、声を出さずに言うと、隣の綾乃が気づき、肘鉄を食らわせ面白そうに笑った。

 人が真面目に話をしているというに、なんて姉たちだ、まったく。俺の歯切れが悪いからなのは、わかっているけれど。

「綾乃! 佳乃! 要が話しているんだから真面目に聞いてあげなさい」

 ほらみろ。父に窘められた。

「えっ……と……」

 とはいえ、俺も緊張が緩み、言葉に詰まる。情けない。仕事だったらこんなことはありえないのだが。

「要さん、もういいわ。わかったから」
「……お母さん?」
「相沢さんのご両親にご挨拶はしたの?」
「いえ、あの……それはまだ……」
「失礼のないように早くご挨拶済ませて、家につれていらっしゃい。話はそれからだわ」
「そうだぞ、要。筋はちゃんと通すんだぞ」

 要もついに結婚か、と、皆にニヤニヤと含み笑いをされ、顔が熱くなる。

「よかったな。要。おめでとう」
「お爺様……みんなも、ありがとうございます」

 立ち上がって、再び深々と頭を下げた。反対されないのはわかっていたが、こんなに緊張を強いられるとは思わなかった。だがこれで、気の重い通過儀礼がひとつ、片づいたわけだ。

「ところで……本題なんだが」
「は?」

 ——おいおい、まだなにかあるの?



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