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さすがの俺だって、遣られっぱなしは嫌だ。
参
「仕事に決まっているだろう。そもそもおまえを今日呼び出したのは、仕事の話だからな」
「……?……」
「その顔は、だったらどうしてみんな揃っていたのか? って顔ね」
「ホント。要ったら頭に疑問符生えてるわよ?」
「あのね、私たちは用事があって本社に寄ったついで。お母様は、観劇のあとにお父様とお食事の約束をしてるの。お爺様は……知らないわ。みんなあなたが来るって聞いて待ってただけ」
「そうそう。こんな面白い話、逃す手はないものねぇ」
まったく。なんて連中だ。しかし、こういうところ俺は、この家族に頭が上がらないんだよな。
「ねえ、お父様。そのお仕事の話って、私たちも聞いていて大丈夫なの?」
「ああ、身内の話だから構わないぞ」
まさか、本当に仕事の話だったとは。ソファに座り直し、まだ手を付けていなかった冷えた茶で喉の渇きを癒やした。
「新規プロジェクトとだけしか聞いていませんが、いったい……」
「そうなんだ。まあ、プロジェクト自体については、おまえの仕事と直接関わりはないんだが。じつは、そのプロジェクトを祐司に担当させようかと相談していてな」
「祐司に、ですか……」
「つまり、祐司を本社へ引き抜こうって話だ。もちろん、それなりの役を付けてのことだが……あれに直接話を持っていってもうんとは言わんだろう? おまえが話をしてくれたらと考えたんだが、どうだ? できるか?」
断られるのがわかりきっている話を、俺に持ちかけないで欲しいのが——。
祐司と俺は、幼い頃からいつも一緒だった。幼稚園から小学校、中学校、高校、大学に至るまでクラスが同じ。帰宅後も、俺の叔母である祐司の母の夭折、父親の再婚後、継母と折り合いが悪かった等の家庭事情もあり、祐司の伯父宅である俺の家でほとんどの日々を過ごしていた。
幼少期の俺にとって祐司は、兄弟であり親友であり、姉たちの魔の手から救い出してくれるヒーロー。
本家の息子ではないが正しく西園寺家のもうひとりの男子であり、正直なところ実の息子の俺以上に優秀で、そつなく誰からにでも好感を持たれる祐司に、ゆくゆくは西園寺ホールディングスの中核を担う人材になって欲しいと周囲のおとなたちが期待するのは、当然のことだと思う。
だが、あいつ自身は、それを望んでいないのを、俺は知っている。
祐司が求めているのは、金や地位、権力、仕事のやりがいではなく、家庭人としての温もりのある人生だ。そのわりには、遊ぶばかりで落ち着きがないような気もしないでもないが——無理強いすれば間違いなく、あいつは西園寺の家を捨てるだろう。
父の言いたいことは理解できるし正論だとも思う。けれども俺はあいつの理解者でありたいし、周囲の考えるそれを押しつけたいと思っていない。
この難題を、如何に処理するか。頭の痛いことだ。
「……?……」
「その顔は、だったらどうしてみんな揃っていたのか? って顔ね」
「ホント。要ったら頭に疑問符生えてるわよ?」
「あのね、私たちは用事があって本社に寄ったついで。お母様は、観劇のあとにお父様とお食事の約束をしてるの。お爺様は……知らないわ。みんなあなたが来るって聞いて待ってただけ」
「そうそう。こんな面白い話、逃す手はないものねぇ」
まったく。なんて連中だ。しかし、こういうところ俺は、この家族に頭が上がらないんだよな。
「ねえ、お父様。そのお仕事の話って、私たちも聞いていて大丈夫なの?」
「ああ、身内の話だから構わないぞ」
まさか、本当に仕事の話だったとは。ソファに座り直し、まだ手を付けていなかった冷えた茶で喉の渇きを癒やした。
「新規プロジェクトとだけしか聞いていませんが、いったい……」
「そうなんだ。まあ、プロジェクト自体については、おまえの仕事と直接関わりはないんだが。じつは、そのプロジェクトを祐司に担当させようかと相談していてな」
「祐司に、ですか……」
「つまり、祐司を本社へ引き抜こうって話だ。もちろん、それなりの役を付けてのことだが……あれに直接話を持っていってもうんとは言わんだろう? おまえが話をしてくれたらと考えたんだが、どうだ? できるか?」
断られるのがわかりきっている話を、俺に持ちかけないで欲しいのが——。
祐司と俺は、幼い頃からいつも一緒だった。幼稚園から小学校、中学校、高校、大学に至るまでクラスが同じ。帰宅後も、俺の叔母である祐司の母の夭折、父親の再婚後、継母と折り合いが悪かった等の家庭事情もあり、祐司の伯父宅である俺の家でほとんどの日々を過ごしていた。
幼少期の俺にとって祐司は、兄弟であり親友であり、姉たちの魔の手から救い出してくれるヒーロー。
本家の息子ではないが正しく西園寺家のもうひとりの男子であり、正直なところ実の息子の俺以上に優秀で、そつなく誰からにでも好感を持たれる祐司に、ゆくゆくは西園寺ホールディングスの中核を担う人材になって欲しいと周囲のおとなたちが期待するのは、当然のことだと思う。
だが、あいつ自身は、それを望んでいないのを、俺は知っている。
祐司が求めているのは、金や地位、権力、仕事のやりがいではなく、家庭人としての温もりのある人生だ。そのわりには、遊ぶばかりで落ち着きがないような気もしないでもないが——無理強いすれば間違いなく、あいつは西園寺の家を捨てるだろう。
父の言いたいことは理解できるし正論だとも思う。けれども俺はあいつの理解者でありたいし、周囲の考えるそれを押しつけたいと思っていない。
この難題を、如何に処理するか。頭の痛いことだ。
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