ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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さすがの俺だって、遣られっぱなしは嫌だ。

「そんなことよりもさ、相沢のほうはどうなってんだよ? うまくやってるんだろうな?」

 さんが焼きに伸ばした箸が宙に浮く。

「…………」

 目を泳がせる俺にすべてを悟ったのか、祐司が目を丸くした。

「嘘だろ? 同棲同衾してんのに、まさか未だに清い関係って、いくらなんでもそりゃ……」
「同衾はしてない」
「はぁ? してない? マジかよ?」

 俺のマンションに寝室はひとつ。相沢にベッドを譲り、俺はソファで寝るよと持ちかければ、相沢は遠慮し、自分がソファで寝ると言いだすはず。

 俺が、いや、わたしが、と、譲り合いに発展したところで、キングサイズのベッドだからふたりで十分寝られるよと持ちかけ、相沢の同意を得てめでたく同衾となる。そして——と、これが、元来、祐司の立てた計略だった。

 ところがだ。

 予定どおり俺がベッドを譲ると、相沢は「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」と、あっさり了承。そうじゃなくて、と、話を蒸し返すわけにもいかず、あの夜から俺は毎晩、ソファでひとり寂しく夜を過ごしている。

「ワハハハハ——なんだそれ? ワハハハハ——ダメだ、腹痛ぇ」

 腹を抱えて笑い転げる祐司を憮然と見つめながら、その後に引き続くはずの計略——相沢を酔わせてなし崩しにアレコレする——が、逆に俺が酔い潰れている間に股間を弄ばれてしまったなんて恥曝しな一件だけは、なにがなんでも墓場まで持っていこうと決意を新たにした。

 悶々とした気持ちを鎮めるべく烏龍茶を啜る。こんなとき、酒が飲める奴が、羨ましい、と心底思う。

「……笑いすぎだぞ」
「わりぃ」

 目尻を拭い、口を付けたビールで噎せ、さらに涙目になった祐司がゴホゴホと咳き込みながらテーブルに肘を突いて、はぁーっと大きくため息をついた。

 それだけ笑えば、疲れもするだろう。

 腹筋を摩りつつ呼吸を整えている祐司に呆れた目を向けた。

「いやさ。相沢らしいっつーか、やっぱ、一筋縄じゃいかないっつーか」
「相沢らしい?」

 目を合わせ、言葉の続きを促す。祐司はまたまたグラスにビールを注ぎながら、思考を纏めているのだろう。並んだ空き瓶は三本。飲み過ぎじゃないのか?

「要、おまえ、相沢に好きだって告白したことあるか?」
「告白? ああ、それならいつもしてるぞ? 自慢じゃないが百回はくだらないね。デートも山ほど申し込んでプレゼントもしたし、手ぇ握って肩抱いて抱き締めて縋り付い……」
「それ……セクハラ」
「は?」
「口説いてベタベタベタベタ触りまくるのが日常って、いくらなんでもやり過ぎだろ? それはセクハラっつーんだ覚えとけ! 俺が相沢だったら好き嫌い以前にそんな上司はごめんだね。よくもまあ文句も言わず辞めないでいてくれるもんだって感心するよまったく」
「……そこまで言わなくても」

 ガックリと肩を落とす俺の目の前で、ぐぐっとビールを煽られる。酒を浴びたいのはこっちのほうだ。

「あーあー冗談だってば落ち込むなよ面倒くさい」
「もしかして俺、相沢に嫌われてるのかな?」
「いや、それはない。相沢は嫌いな相手にやられっぱなしでいるようなタマじゃないだろ? 俺はむしろ……あいつもおまえを意識してるんじゃないか、と思う」
「そ、そう、なのか?」

 希望の光が!

「おいおい、早まるな。相沢に直接聞いたわけじゃないし、俺が思うってだけだからな。ただ……」
「ただ?」
「ただ、俺が思うに……あいつはおかしい」
「……おかしい? 相沢のなにがどうおかしいんだ?」
「うん。反応が……俺には相沢が恋愛そのものを拒絶してるように見える」

 俺の主観だから本当のところはわからないぞ、と、前置きをして、祐司が語り出したそれは、言われてみれば俺にも思い当たることが多々あった。

 ハウスメイドだった相沢を口説き落とし、俺の秘書として採用してから俺は、暇を見つけては相沢を食事に誘った。出張のたび、土産と称したプレゼントをし、俺との親密な関係に慣れさせるため仕事の合間にスキンシップも欠かさず——祐司にはセクハラといわれたが気にしていない——愛の言葉も散々囁いた。

 婚約者に仕立て上げ、同棲に持ち込んだいまも文句ひとつ言わず、相も変わらず飄々とマイペースだ。

 だが、それらに対する相沢の反応は、実際どうだっただろう。

 拒絶はされなかった。嫌われてもいないと思う。

 ときには躱され、ときには軽くいなされ、また、ときには優しく包まれ——それはまるで母の愛……っと、これじゃあまったく恋愛対象と見做されてないじゃないか。

 いや、でも、ちょっとまてよ? そんなわけ——

 違う。母親は俺の股間にあんなことやこんなことしないぞ。

「おい! ひとの話聞いてんのかよ?」
「……あ? ゴメン」
 ——しまった。相沢自身の話だった。うっかり身勝手な思考の海に沈んでしまった。

「だからさ、これは単なる俺の憶測だけど、相沢は、なにかしらコンプレックスみたいなのがあって自分に向けられた恋愛感情だけを拒絶してるか、じゃなければ、まったくの鈍感かのどちらかじゃないかと思うんだよね」
「鈍感……は、ないだろうな。あそこまで明確にアプローチされて気づかないなんて、いくらなんでもありえない」
「ってことは、やっぱり相沢自身に男を受け入れられないなにかがあるってことになる」
「うん……だとしたら、俺はどうすれば……」

 コトンとグラスを置いた祐司がにやぁっと黒い笑みを浮かべて胸を張る。

「正々堂々正面突破に決まってるだろうが」
「ああ?」
「つまりだな、外堀を埋めたり計略を仕掛けたり酔わせてどうこうしようとか姑息な手段を使うなってことだよ」
「姑息な手段ってそれ、おまえだろう?」

 自分で計略練ってひとにやらせたくせにそれはないだろうが。

「そんなこと、いまはどうでもいいんだよ。とにかく実力行使だ。力業で押して押して押し倒せ。それっきゃない」

 ダメだこいつ、飲み過ぎて完璧にできあがっている。

 『押し倒す』に始まって結局『押し倒す』に終わるって、これでは振り出し。相談した意味がまったくないじゃないか。

 決めた。今日の飲み代は、こいつ持ちだ。


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