ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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さすがの俺だって、遣られっぱなしは嫌だ。

 祐司と話をして、ひとつわかったことがある。

 俺が相沢をものにできない理由は、ただひとつ。それは、俺自身。

 普段から相沢が好きだ自分のものにしたい相沢以外の女は生涯考えられないと皆に豪語し、執拗に愛を囁き囲い込むその行動と反する俺の姿勢だ。

 万が一、相沢が俺の思うような女ではなかったら。

 これだけ長い間傍にいて人となりを具に観察し、そんなことはあり得ないとわかっているのにも拘わらず、自身の気持ちが深まれば深まるほど、心の奥底にいるもうひとりの自分が恐れ警告を発する。

 祐司ですら俺の弱腰を批判するくらいだ。女であり当事者である相沢が気づかないわけがない。だから。

 逃げられたくなければ覚悟を決めろ。当たって砕けたら、諦めろ。

 俺に残された道は、きっともう、それしかない。



 長湯をしすぎた。

 バスタオルで髪を拭きながらバスルームを出て、とりあえず冷たい水を飲もうとキッチンへ足を踏み入れたところで、ピピピ、ピッピッと、覚えのない電子音が聞こえた。

「なにやってるの?」
「あ、専務。ちょうどよかった。これの使い方教えてください」
「なに?」
「食洗機です。洗い物はたいしてないんですけど、ちょっと使ってみたくて」

 相沢の指差す先は、備え付けの食器洗浄機。俺には縁もゆかりもないそれは、使ったこともなければ、当然、使い方なんぞ知るはずもない。

「俺が知ってると思う?」
「思いません」

 即答だな。

「吉沢さんに教えてもらえば早いけど」
「いえ、そこまでは……」
「わかった。じゃ、マニュアル探しておくよ」
「すみません」

 ちっとも済まなそうには見えない作り笑顔がそこにある。

「……いや」
「……専務は? なにかご用ですか?」
「あ、俺は、水を飲もうかと」

 相沢が、それならわたしが、と、くるりと身体の向きを変えた。その拍子に揺れた相沢の髪から、俺と同じシャンプーが香る。

 ふと、抱き締めたい衝動に駆られ、冷蔵庫の扉に手をかけた相沢の肩をそっと引き寄せ背後から腕を回した。

 俺の腕の中にすっぽりと収まった相沢は、俺のセクハラ——もとい、愛情表現にはすっかり慣れっこで、身動きもせずされるがまま。

 調子に乗った俺は、相沢のつむじにひとつ、キスを落とした。

「専務?」

 不思議そうに俺を見上げた相沢の顔から邪魔な眼鏡を取り除き、ワークトップへ置いた。片頬に手のひらで触れ、親指で下唇をなぞったあと、首筋に手を当ててゆっくりと顎を上向かせ、背を屈め顔を寄せて。

 初めて触れた相沢の唇は、温かく柔らかかった。

 呆然としているその様子に、思わず笑みが零れる。楽しい。再び唇を寄せ、驚きで半開きになった無反応な唇を一方的に啄み、舌先で舐め、音を立てて吸う。

 状況を理解しつつあるのだろう。相沢の身体が強ばり、眉間に皺が寄っていくが、気にしない。

「……なにしてるんですか?」
「ん? キス……してる」

 隙ありとばかりに、唇で小さな唇を隙間なく覆ってそれを割り、口腔へ舌を滑り込ませた。舌が相沢の熱い体温を直に感じる。

 飽くなき探究心のもと、歯茎をくすぐり、口腔を余すところなく舐めまわし、逃げ惑う小さな舌を深く浅く追いかけは捕まえ、舐め、強く吸い上げ、悦楽に浸った。

 時折唇を離しその表情を観察すれば、荒い呼吸の下、いつの間にか眉間の皺は消えて閉じた瞼を震わせ、小さなふたつの手は、俺の腕に縋り付いている。

 混ざり合う唾液は甘く、身体は素直に反応し熱をもってくる。キスだけでこんなにも気持ちがいいとは。

 複雑怪奇に頭を悩ませていた俺は、いったいなにをしていたのだろう、と、己を笑う。

 行動するのは、こんなに簡単なことだった。

 恐れる必要はない。俺が、相沢を愛している。その心だけで、よかったのだ。

 そっと唇を離し、トロンとした瞳で俺を見つめている相沢を抱き上げベッドへと運ぶ。

 抵抗も拒絶もされなかった。



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