ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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わたしにはわたしの考えがある。

 それからの日々もけっして平和ではなかった。

 先輩秘書である佐伯祐司からは当然の如く、秘書業務を徹底的に仕込まれた。

 畑違い非得意分野の仕事を覚えさせられる地獄。何度怒鳴られ嫌みを言われたか。ファイルの角で叩かれたことも数知れず。

 佐伯という男は、顔面偏差値だけ恐ろしく高いが、サディストに違いないと呪いを吐き涙した日々をわたしは忘れない。

 専務の『女避け』も、初日からわたしの主要業務だった。

 ちんくしゃ眼鏡ブス、と、あることあること暴言を吐かれるのは元から慣れっこだったが、飲み物を浴びせかけられ、足を踏まれ引っかけられ、叩かれ、と、暴力まで受けたのはさすがに閉口した。

 それでも望まれるまま、幼少期より鍛え上げた口撃力と、秘めた特異能力——他人の恋心を読み取る、を、駆使し、専務に好意を寄せて寄くる女性の気配をいち早く察知、纏わり付く女性たちからの防波堤となり、叩き潰し、蹴散らしてきた。

 羨望、嫉妬、etc.

 陰湿な嫌がらせも数知れず受けた。

 雨が降るたび傘を盗まれ、更衣室ではロッカーの鍵を壊され中身をばらまかれ。社食へ行けば、ほんの少し目を離した隙に、飲食物に異物を混入され——等々、大凡女子が思いつきそうな嫌がらせは日常茶飯事だった。

 私物はオフィスへ持ち込み、社食を止めて弁当持ち、と、できうる限り関わりを遮断し自衛手段を講じているおかげで、油断さえしなければいまはまあまあ平和ではあるが、ほんと、群れる女って面倒くさい生き物だと思う。

 けれども。こうしてわたしが戦っている一方で専務は、わたしを恋人扱いしていたわけだ。

 たしかに専務は、人目も憚らずやりたい放題だった気もするが——なるほどだから過激な嫌がらせをされていたのか、と、この期に及んでやっとそこへ思い至る自分も大概ではあるが、気分は複雑だ。

 そして現在。

 わたしの小さなお城、借り上げ社宅だが、も、解約され、専務の豪華マンションでの同居を強いられている。

 男女の関係も——簡単には遣られないぞと決意していたのに、わたしはいとも簡単に流されてしまった。

 しかも、あんなに激しく求められ——と、ちがう! 思い出しちゃダメだ横道に逸れる。

 はぁ。

 婚約、同居、既成事実ときたら、その先に待っているのは——結婚?

 アリエナイネ。

 腹黒いこいつのことだ。絶対になにか企んでいるに決まっている。

 真っ最中に囁かれる男の睦言を信じる愚か者はいない。それがどれほど真に迫る情熱的な言葉であったとしても、だ。

 況してや、恋慕の情の有無を読み取れる自分が、愛されているなんぞという愚かな期待を持つわけもない。

 この世に数多いる女は怖いけれど、わたしなら大丈夫ですと? そんなのアリエナイ。

 あれだけモテるのだ。極度の女性恐怖症だっていつかはきっと、心許せる女性が現れるはず。

 女避けの必要がなくなれば、わたしなんてあっさりお払い箱。こんなちんくしゃ眼鏡ブスなんて、簡単に忘れられてしまうだろう。

 でも、もしも——いや、その先を考えてはいけない。

 ツキンと痛む胸を自嘲する。

 答えの出ない問題を考えるのは時間の無駄。好い加減お腹は空いたし、起きてシャワーを浴びよう。

 鬱陶しく抱きついてひとの身体を好き勝手している輩をなんとかすべく、肘を入れたが。

「ぐぁ……」
 ——し、ぬ。

 容赦のない肘鉄をものともしない専務に力一杯抱き締められ、呻いたのはわたしのほうだった。


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