ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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わたしにはわたしの考えがある。

「あいざわっ!」

 バタンと大きな音を立ててドアが開き、裸体にガウン一枚引っかけた——生意気にパンツは装着済みの専務が飛び込んできた。

 素っ裸のわたしは、驚いた顔の専務と対峙し固まること三秒。咄嗟にバスタオルで前を隠す。

「どうした? どこか……」

 伸ばした専務の手がバスタオルをむしり取り、頭のてっぺんからつま先まで、表が終われば裏返しと、わたしの全身を無遠慮に撫で繰り回す。

 何処にも異変のなきことを確認して安心したのか、ホッと息を吐いて「よかった。なにもなくて」と、わたしを抱き締めた。

 薄いガウンを通して直に伝わる肌の温度。まるで恋人同士の抱擁のよう——じゃなくて!

 昨夜から、すっかりこいつのペースに嵌められてなんだか調子が狂っている。

「離してください」

 冷ややかに声を発すれば、抱き締める腕の筋肉がピクリと反応する。条件反射か。

「あ、いざわ?」
「離れて。もっと」

 身体を離した専務が一歩、また一歩と後退り、腕の長さまで下がったところで「そこまで」と、足を止めさせた。

「ねえ専務、これはなんですか?」

 わたしはいま、自分がすっぽんぽんなのを知っている。知っているが、全身隈なく見られまくったこの期に及んで、恥ずかしがる意味が果たしてあるのだろうか、と、開き直る。

「え? これ?」
「わかりませんか? これもこれもこれもこれもこれも、ですよ!」

 赤いポツポツがあるだろう箇所を次々指で指し示した。

「それは……俺たちが情熱的に愛し合った愛の証だね」

 なあんて甘い科白を吐きつつも、うろうろする視線から怯えが見て取れる。

「愛の証ですかそうですか。ひとの身体にこんなものを付けるのは変態の所業です専務は変態だったんですね」
「へ、変態って……そんな……相沢だって悦んで……た……」
「わたしがなんですか?」
「はっ! いえ、なんでもありません!」

 地獄の底から湧き出るような冷たい声音と睨みに恐れをなした専務が顔色を変え、その場でビシッと正座をする。お馴染みの説教を受けるポーズだ。

 仁王立ちで専務を見下ろし、冷徹な微笑みを片側の口角にのみ乗せる。素っ裸で迫力不足なのは諦めよう。

「なるほど。専務の一方的な思いの丈をわたしの身体に押し付けた、と。しかしですね、だからって身体中こんなにたくさん付けるのはいくらなんでもやり過ぎではありませんか?」
「やり過ぎってことは、ない……ふつう?」
「普通? 男性が行為の最中、女性の身体中に鬱血痕を残すのはふつう・・・であるとおっしゃる? 専務は世の男性方の性癖に随分とお詳しいのですねぇ」
「詳しい……くはありませんが」
「では、専務のご経験に基づく見解、ということでしょうか? 専務ほどの方でしたらたくさんのご経験がおありでしょうしお相手の方々からのお話もきっとたくさん……」
「ちがう!」
「なにが違うんですか?」
「ちがう、おれは。だから、ちがうんだ、おれは……」

 言いかけた言葉を飲み込み、必死の形相でブンブンとちぎれんばかりに首を左右に振る専務を突き放す。

「わたしには専務がなにをおっしゃりたいのかさっぱりわかりませんが?」
「お、おれは……俺は、相沢だけだ! 他の女なんて知らない! 相沢しか知らない! 相沢が俺の全部なんだ!」

 叫んだ専務が押し倒しそうな勢いでわたしの腰にしがみついた。グリグリと顔を下腹部に押し付けながら、相沢だけだ、相沢だけしか知らない、と、譫言のように繰り返す。

 ちょっと待て。わたしだけしか・・・・知らないってどういう意味? 

 それは、まさかの——

「どーてい?」

 うっかり呟いた言葉に、専務の動きがピタリと止まる。

 なんと! びっくり仰天大当たりかよ。

 最上ランクの優良物件が、三十二歳なんていい大人になるまで、初めてを後生大事に守っていたなんて、そんな——天然記念物並みの希少さだ。

 目を丸くするわたしに縋るような瞳を向けたまま、弱々しく専務が口を開く。

「いや、あの……童貞じゃ、ない、というか童貞なんだけど一度も遣ったことがないわけじゃなくて、いややっぱりそうだよな、童貞……なんだよな」

 いったいなにが言いたいのでしょうかこの人は。

 そりゃあかなり驚きはするけれど、そもそも、こいつが童貞だろうと童貞じゃなかろうと、わたしには関係のない話。


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