ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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わたしにはわたしの考えがある。

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 常備してある普通サイズの絆創膏ではとてもじゃないが隠しきれない鬱血痕を処理すべく、専務に命じ大判の絆創膏を買いに走らせた。

 絆創膏を貼っているだけでも目立ちはするがないよりマシ。外を歩く赤の他人が事情を知る由もなし、知人に会いさえしなければいい、と、わたしは外出の予定を敢行したのだった。

 しかし、六月の声も聞こえるこの時期、最高気温は連日二十五度を超える夏日。移動の車内も店内もエアコンが効き涼しく快適ではあるが、襟のボタンを一番上まで留めて長袖シャツを着ているわたしには、やはり暑いものは暑かった。駐車場から店内へと出入りするたびに汗が噴き出し、背中にシャツが張り付いて気持ちが悪い。

 その上、浮かれ専務の相手をしつつのショッピングだなんて。

 ご機嫌でカートを押しながら、すっかり疲れ果てているわたしの隣を歩く専務をチラ見しては、置き去りにしたい衝動に駆られる。とはいえ、ここでこいつを置き去りにしたら、車と徒歩、どう考えても置き去りにされるのはわたしのほうだ。

 ああ、もう。面倒くさい。

 面倒くさい、が、すっかり口癖になってしまった気がする。

「あ、あった! これこれ! ねえ相沢、これ食ってみたかったやつ」

 カップラーメンを嬉しそうに手に取る専務の横顔を眺め、ため息をつく。

「カップ麺は買いませんよ?」
「なんで?」
「袋麺のほうが安いですから」
「えぇえ——そんなぁほんのちょっとの……」

 下がり気味の眉をさらに下げ、切なそうにカップ麺とわたしを交互に見るその目に哀愁が漂う。たかが、カップ麺。されど、カップ麺。

「わかりました。でも、それひとつだけですよ」

 やった! と、嬉しそうに破顔して、カップ麺をカートに収めるその様子は、子どものようでもあり、嬉しげに尻尾を振る大型犬のようでもある。

 思わず、ふっ、と、笑いがこみ上げた。

「やっと笑ったな」
「いつも笑ってますよ?」
「いつもは笑っても目が笑ってなくて恐い」
「え?」
 ——そうでしたっけ?

「相沢が笑ってくれて嬉しい」

 ニコニコと見つめられて、つい顔が熱くなる。

 この人は、わたしが自分でも気づかないほんの些細なところまで、ちゃんと見ているのだ。なぜか涙がでそうになって、顔を背けた。

「バカなこと言ってないで。行きますよ!」


 なにかと話しかけてくる専務に適当な相槌を打ちつつ、売り場を巡る。塩、砂糖、醤油、味噌、油、米、等々、必要な調味料と食材を次々カートに放り込みながら、朝は、昼食は、夕飯は、と、一週間分の献立を考えていく。弁当や小鉢用に常備菜の作り置きも必要だ。

「ねえ、相沢って料理できるの?」

 カートの中の食材を覗き込む専務に訊ねられた。

「ひとり暮らしを始めてから基本、自炊です」
「へぇ……すごいね。あ、そういえば、相沢って昼も弁当持参だったっけ」

 そうです。社食で昼食を取れないのも、あなたのせいだし、引っ越して以降、昼食が毎日コンビニの調理パンなのもあなたのせいです、と、言いたい。

「外食は栄養のバランスが偏りますし、なにより高く付きますからね」

 専務のような高給取りではありませんから、とは、さすがに言えない。

「じゃあさ、今日の夕飯……」
「作ります」
「え? ホントに? じゃあさ、リクエストしていいかな?」
「いいですよ。凝ったものは作れませんが」

 お世話になっているのはそのとおりだし、ちょっと甘い顔を見せるのも、たまにはいいだろう。

「うーん。だったら……そうだ! オムライス! オムライスがいいな」
「オムライス、ですか?」
 ——これはまた、意外なものを。

「うん。オムライス。チキンライスの上に生クリームたっぷりのオムレツが乗ってて、フォークを入れるととろーっと流れて花が咲いたみたいになるいま風のじゃなくてさ、薄い卵焼きで包んでケチャップかけたふつうのやつ」

 目をキラキラさせて一生懸命説明する専務の笑顔が、かわいい、と思ってしまうわたしの頭はきっと、どうかしてる。

「わかりました。では、ケチャップと鶏肉と野菜……サラダ用のものもいりますね」

 そう、フライパンも。ひとつはわたしのがあるけれど古いし、あのキッチンにあるピカピカステンレスを焦げ付かせずに使う自信はないから、小さめのものがもうひとつ欲しい。

 誰かと一緒に買い物をするなんて、子どもの頃以来かもしれない。

 二言目には小言を捲し立て、相手をするのが面倒だと文句を唱えつつも、大量の買い物を前に、付いてきてくれた専務の気持ちが嬉しかった。



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