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俺にも俺の考えがある。
漆
「散歩してたらあなたの姿が見えたから待ってたの」
どうしたものかと戸惑ったその一瞬の隙を突かれ、腕を絡められ取られた。
「い、がわさん?」
「なによ、他人行儀ねぇ。昔みたいに結衣って呼んでくれないの?」
言葉と同時に浴びせられる強烈なアルコール臭を嗅がされただけで、こっちの目が回りそうだ。
「ちょっと……離してください」
——いったいなんのつもりなんだ?
巻き付いた腕がさらにきつくなり胸がぐいぐいと押し付けられる。
「いいじゃないちょっとくらい」
ちょっとって、なにがちょっとなんだよ?
「井川さん!」
「きゃっ」
うっかり腕を振り払う力が強すぎたのか、結衣はふらふらと後退り、壁際の縁台へへたり込む。酔っ払い相手に力加減を間違えてしまったようだ。
「あの……すみません。大丈夫ですか?」
返事もなく俯いたままの酔っ払いを放置して部屋へ戻るわけにもいかない。
数分か、それ以上か。困り果て無言で様子を見ている俺に、結衣がボソボソと小声で話し始めた。
「ごめんなさい。私、こんなつもりじゃなかったの……」
こんなつもりがどんなつもりなのか知らないが、明日も朝が早いのだ。無駄な時間はさっさと終わらせて俺は寝たい。
「要くん!」
叫ぶなり立ち上がった結衣が、全体重をぶつける勢いで飛びついてきた。
危うく廊下で押し倒されるところだった。俺の代わりに犠牲になったスーツと下着がバラバラと床で伸びている。
抱きついている結衣が、完全な酔っ払いと化しているのか、それとも演技なのかはわからないが、俺ではなくて他の男なら、結衣のような見た目のいい熟女に抱きつかれれば、その先を期待するのだろう。
けれども、こいつ、絶対になにか企んでいるよな、と、半ば焦りつつも、妙に冷静に観察している俺がいる。
祐司に言わせればいまこの状態はたぶん、立派な据え膳。焼けぼっくいに火が付くか、と、面白がられるだろうが、万が一喰ったら、笑いものにされること請け合いだ。
たしかに、結衣を抱けば、その企みは聞き取れる。だが、その気はまったくないし、俺が相沢以外の女を抱けるわけがない。それに。
たとえ俺が色ぼけしたエロ親父だったとしても、ぞうさんとニャンコを飼っている時点で、そんな恐ろしいことはできません絶対に。
相沢の芸術大作は、身体中に残されたキスマーク以上。なるほど浮気防止に持ってこいだな、と、妙なところに感心をしてしまう。それにしても。
どうするよこれ?
まったく離れる気配のない結衣の後頭部を見下ろし、途方に暮れた。
「ねえ……私の部屋へ来て?」
部屋に連れ込まれ、万が一、酒でも飲まされたら万事休す。
お願いいいでしょう? と、潤んだ瞳で上目遣いに見つめられても、恐怖でしかない。
もちろん、いまここに相沢がいてくれたら簡単に蹴散らしてくれるのに、と、思ってしまう自分が、どうしようもないヘタレであるとの自覚は、ちゃんとある。
あるが——どうしたらいいんだよ、助けて、あ、い、ざ、わぁ。
心の中で叫んでも、相沢は答えてくれない。
冷静になれ。相沢の勇姿を思い出せ。ゆっくりと、冷淡に突き放す、相沢の真似をすればいいのだ。
「井川さん、離してください」
「いやっ」
一層きつくしがみつく結衣の腕を、俺は力尽くで引き剥がした。
呆然と寂しそうに見つめられても、俺はなにも感じない。結衣から目を逸らし、スーツと下着を拾い上げた。
「おやすみなさい」
——誘惑してくる女を部屋まで送るほど、俺は親切じゃないからな。
結衣をひとり廊下に残し、俺と祐司が泊まる部屋へと足を進めた。
どうしたものかと戸惑ったその一瞬の隙を突かれ、腕を絡められ取られた。
「い、がわさん?」
「なによ、他人行儀ねぇ。昔みたいに結衣って呼んでくれないの?」
言葉と同時に浴びせられる強烈なアルコール臭を嗅がされただけで、こっちの目が回りそうだ。
「ちょっと……離してください」
——いったいなんのつもりなんだ?
巻き付いた腕がさらにきつくなり胸がぐいぐいと押し付けられる。
「いいじゃないちょっとくらい」
ちょっとって、なにがちょっとなんだよ?
「井川さん!」
「きゃっ」
うっかり腕を振り払う力が強すぎたのか、結衣はふらふらと後退り、壁際の縁台へへたり込む。酔っ払い相手に力加減を間違えてしまったようだ。
「あの……すみません。大丈夫ですか?」
返事もなく俯いたままの酔っ払いを放置して部屋へ戻るわけにもいかない。
数分か、それ以上か。困り果て無言で様子を見ている俺に、結衣がボソボソと小声で話し始めた。
「ごめんなさい。私、こんなつもりじゃなかったの……」
こんなつもりがどんなつもりなのか知らないが、明日も朝が早いのだ。無駄な時間はさっさと終わらせて俺は寝たい。
「要くん!」
叫ぶなり立ち上がった結衣が、全体重をぶつける勢いで飛びついてきた。
危うく廊下で押し倒されるところだった。俺の代わりに犠牲になったスーツと下着がバラバラと床で伸びている。
抱きついている結衣が、完全な酔っ払いと化しているのか、それとも演技なのかはわからないが、俺ではなくて他の男なら、結衣のような見た目のいい熟女に抱きつかれれば、その先を期待するのだろう。
けれども、こいつ、絶対になにか企んでいるよな、と、半ば焦りつつも、妙に冷静に観察している俺がいる。
祐司に言わせればいまこの状態はたぶん、立派な据え膳。焼けぼっくいに火が付くか、と、面白がられるだろうが、万が一喰ったら、笑いものにされること請け合いだ。
たしかに、結衣を抱けば、その企みは聞き取れる。だが、その気はまったくないし、俺が相沢以外の女を抱けるわけがない。それに。
たとえ俺が色ぼけしたエロ親父だったとしても、ぞうさんとニャンコを飼っている時点で、そんな恐ろしいことはできません絶対に。
相沢の芸術大作は、身体中に残されたキスマーク以上。なるほど浮気防止に持ってこいだな、と、妙なところに感心をしてしまう。それにしても。
どうするよこれ?
まったく離れる気配のない結衣の後頭部を見下ろし、途方に暮れた。
「ねえ……私の部屋へ来て?」
部屋に連れ込まれ、万が一、酒でも飲まされたら万事休す。
お願いいいでしょう? と、潤んだ瞳で上目遣いに見つめられても、恐怖でしかない。
もちろん、いまここに相沢がいてくれたら簡単に蹴散らしてくれるのに、と、思ってしまう自分が、どうしようもないヘタレであるとの自覚は、ちゃんとある。
あるが——どうしたらいいんだよ、助けて、あ、い、ざ、わぁ。
心の中で叫んでも、相沢は答えてくれない。
冷静になれ。相沢の勇姿を思い出せ。ゆっくりと、冷淡に突き放す、相沢の真似をすればいいのだ。
「井川さん、離してください」
「いやっ」
一層きつくしがみつく結衣の腕を、俺は力尽くで引き剥がした。
呆然と寂しそうに見つめられても、俺はなにも感じない。結衣から目を逸らし、スーツと下着を拾い上げた。
「おやすみなさい」
——誘惑してくる女を部屋まで送るほど、俺は親切じゃないからな。
結衣をひとり廊下に残し、俺と祐司が泊まる部屋へと足を進めた。
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