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俺にも俺の考えがある。
捌
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案外簡単に引き下がったな。
ただ単に、昔が懐かしかったとか、ちょっと遊んでやろうとか、そんなつもりではなさそうだった。大方、酔った振りをして色仕掛けで迫り仕事を取ろう、なんて魂胆だったのかも知れない。
それにしては、抱きついてきただけで具体的になにを言うでもなくするでもなく——俺からアクションを起こさせたかったのか、それとも、ちょっと抱きつくだけで簡単に落とせると思われていたか。
それはそれで、心外なのだがいずれにせよ被害を避けられてよかったと、とりあえず胸を撫で下ろしつつ、前室に置かれた古い布製のソファにその身を預け、ため息をついた。
井川結衣がなにを思おうと、どうでもいい。それよりも重要なのは相沢だ。
丸一日離れているにも拘わらず、相沢からは着信のひとつもなければ、ショートメッセージすらない。仕事の連絡ならば俺に直接ではなく、祐司へするのだろうが、祐司はとっくの昔に、奥の座敷に並べて敷かれた布団に入り夢の中。連絡の有無を確かめる術もない。
まったく相沢は。
俺は声を聞きたいのを我慢しているのに、あっさりしたものだ。
やはりこれは気持ちの重さ、いや、有無か。
身体は受け入れられた。無理やりではなく、合意の上でだし、何度か身体を重ねたが、嫌がる素振りも一切ない。
俺に抱かれるのが嫌でないのならばなぜ、心で受け入れてはくれないのか。
ここ数日一緒に過ごした相沢の姿を思い浮かべながら、俺は思う。身体だけじゃ満足できるわけがない。相沢の心も体もすべて己の物にしたい。
「やっぱり電話してみるか……」
十一時過ぎ。相沢の生活習慣からすると、まだ起きているはずだ。祐司は一度寝たらなにがあっても起きないタイプだが、万が一話し声で起きられてはマズいので、奥座敷から離れた内風呂へ移動する。ドアを閉め、相沢にコールした。
着信音を鳴らすこと十回。出ない。
携帯の傍にいないのか、もう寝付いているのか。諦めて切ろうとしたところで電話が繋がった。
『……専務?』
「悪い、寝てた?」
『あ、いえ、まだ起きてましたけど……どうしたんですか? こんな夜遅くに』
「ごめん。べつになにもないんだけど……」
『なにもないんだったら切りますよ』
電話の向こうでなにか小さく、ざわざわと音がしている。テレビでも見ていたのか。相沢の声がなんだか迷惑そうに聞こえるのは、俺の気のせいとばかりはいえなそうだ。
「いや、待って! ちょっとだけ」
『……なんですか?』
携帯を握り締める手が汗ばんできた。
「いや……なにしてた?」
『なにって、テレビ見てましたけど?』
「……そっか、ごめん」
——やはり邪魔だったか。
『いえ、もういいです。それで? やっぱりなにかお話しがあるんじゃないんですか?』
「…………」
『専務?』
「……声が……」
『声? 声がどうかしました?』
「いや、声が聞きたかっただけだから!」
一瞬の沈黙ののち、クスッと小さな笑い声が聞こえた。
『明日も忙しいんでしょう? バカなこと言ってないで早く寝てください』
「……うん」
——声が聞きたかったのは、俺だけだったか。
『あの……専務?』
「なに?」
『早く帰ってきてくださいね』
でも安全運転ですよ、とモゴモゴ付け足す相沢の顔を想像して笑みが零れる。
待っていて相沢。帰るよ。安全運転で、飛んで帰るよ。
ただ単に、昔が懐かしかったとか、ちょっと遊んでやろうとか、そんなつもりではなさそうだった。大方、酔った振りをして色仕掛けで迫り仕事を取ろう、なんて魂胆だったのかも知れない。
それにしては、抱きついてきただけで具体的になにを言うでもなくするでもなく——俺からアクションを起こさせたかったのか、それとも、ちょっと抱きつくだけで簡単に落とせると思われていたか。
それはそれで、心外なのだがいずれにせよ被害を避けられてよかったと、とりあえず胸を撫で下ろしつつ、前室に置かれた古い布製のソファにその身を預け、ため息をついた。
井川結衣がなにを思おうと、どうでもいい。それよりも重要なのは相沢だ。
丸一日離れているにも拘わらず、相沢からは着信のひとつもなければ、ショートメッセージすらない。仕事の連絡ならば俺に直接ではなく、祐司へするのだろうが、祐司はとっくの昔に、奥の座敷に並べて敷かれた布団に入り夢の中。連絡の有無を確かめる術もない。
まったく相沢は。
俺は声を聞きたいのを我慢しているのに、あっさりしたものだ。
やはりこれは気持ちの重さ、いや、有無か。
身体は受け入れられた。無理やりではなく、合意の上でだし、何度か身体を重ねたが、嫌がる素振りも一切ない。
俺に抱かれるのが嫌でないのならばなぜ、心で受け入れてはくれないのか。
ここ数日一緒に過ごした相沢の姿を思い浮かべながら、俺は思う。身体だけじゃ満足できるわけがない。相沢の心も体もすべて己の物にしたい。
「やっぱり電話してみるか……」
十一時過ぎ。相沢の生活習慣からすると、まだ起きているはずだ。祐司は一度寝たらなにがあっても起きないタイプだが、万が一話し声で起きられてはマズいので、奥座敷から離れた内風呂へ移動する。ドアを閉め、相沢にコールした。
着信音を鳴らすこと十回。出ない。
携帯の傍にいないのか、もう寝付いているのか。諦めて切ろうとしたところで電話が繋がった。
『……専務?』
「悪い、寝てた?」
『あ、いえ、まだ起きてましたけど……どうしたんですか? こんな夜遅くに』
「ごめん。べつになにもないんだけど……」
『なにもないんだったら切りますよ』
電話の向こうでなにか小さく、ざわざわと音がしている。テレビでも見ていたのか。相沢の声がなんだか迷惑そうに聞こえるのは、俺の気のせいとばかりはいえなそうだ。
「いや、待って! ちょっとだけ」
『……なんですか?』
携帯を握り締める手が汗ばんできた。
「いや……なにしてた?」
『なにって、テレビ見てましたけど?』
「……そっか、ごめん」
——やはり邪魔だったか。
『いえ、もういいです。それで? やっぱりなにかお話しがあるんじゃないんですか?』
「…………」
『専務?』
「……声が……」
『声? 声がどうかしました?』
「いや、声が聞きたかっただけだから!」
一瞬の沈黙ののち、クスッと小さな笑い声が聞こえた。
『明日も忙しいんでしょう? バカなこと言ってないで早く寝てください』
「……うん」
——声が聞きたかったのは、俺だけだったか。
『あの……専務?』
「なに?」
『早く帰ってきてくださいね』
でも安全運転ですよ、とモゴモゴ付け足す相沢の顔を想像して笑みが零れる。
待っていて相沢。帰るよ。安全運転で、飛んで帰るよ。
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