ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

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俺にも俺の考えがある。

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 案外簡単に引き下がったな。

 ただ単に、昔が懐かしかったとか、ちょっと遊んでやろうとか、そんなつもりではなさそうだった。大方、酔った振りをして色仕掛けで迫り仕事を取ろう、なんて魂胆だったのかも知れない。

 それにしては、抱きついてきただけで具体的になにを言うでもなくするでもなく——俺からアクションを起こさせたかったのか、それとも、ちょっと抱きつくだけで簡単に落とせると思われていたか。

 それはそれで、心外なのだがいずれにせよ被害を避けられてよかったと、とりあえず胸を撫で下ろしつつ、前室に置かれた古い布製のソファにその身を預け、ため息をついた。

 井川結衣がなにを思おうと、どうでもいい。それよりも重要なのは相沢だ。

 丸一日離れているにも拘わらず、相沢からは着信のひとつもなければ、ショートメッセージすらない。仕事の連絡ならば俺に直接ではなく、祐司へするのだろうが、祐司はとっくの昔に、奥の座敷に並べて敷かれた布団に入り夢の中。連絡の有無を確かめる術もない。

 まったく相沢は。

 俺は声を聞きたいのを我慢しているのに、あっさりしたものだ。

 やはりこれは気持ちの重さ、いや、有無か。

 身体は受け入れられた。無理やりではなく、合意の上でだし、何度か身体を重ねたが、嫌がる素振りも一切ない。

 俺に抱かれるのが嫌でないのならばなぜ、心で受け入れてはくれないのか。

 ここ数日一緒に過ごした相沢の姿を思い浮かべながら、俺は思う。身体だけじゃ満足できるわけがない。相沢の心も体もすべて己の物にしたい。

「やっぱり電話してみるか……」

 十一時過ぎ。相沢の生活習慣からすると、まだ起きているはずだ。祐司は一度寝たらなにがあっても起きないタイプだが、万が一話し声で起きられてはマズいので、奥座敷から離れた内風呂へ移動する。ドアを閉め、相沢にコールした。

 着信音を鳴らすこと十回。出ない。

 携帯の傍にいないのか、もう寝付いているのか。諦めて切ろうとしたところで電話が繋がった。

『……専務?』
「悪い、寝てた?」
『あ、いえ、まだ起きてましたけど……どうしたんですか? こんな夜遅くに』
「ごめん。べつになにもないんだけど……」
『なにもないんだったら切りますよ』

 電話の向こうでなにか小さく、ざわざわと音がしている。テレビでも見ていたのか。相沢の声がなんだか迷惑そうに聞こえるのは、俺の気のせいとばかりはいえなそうだ。

「いや、待って! ちょっとだけ」
『……なんですか?』

 携帯を握り締める手が汗ばんできた。

「いや……なにしてた?」
『なにって、テレビ見てましたけど?』
「……そっか、ごめん」
 ——やはり邪魔だったか。

『いえ、もういいです。それで? やっぱりなにかお話しがあるんじゃないんですか?』
「…………」
『専務?』
「……声が……」
『声? 声がどうかしました?』
「いや、声が聞きたかっただけだから!」

 一瞬の沈黙ののち、クスッと小さな笑い声が聞こえた。

『明日も忙しいんでしょう? バカなこと言ってないで早く寝てください』
「……うん」
 ——声が聞きたかったのは、俺だけだったか。

『あの……専務?』
「なに?」
『早く帰ってきてくださいね』

 でも安全運転ですよ、とモゴモゴ付け足す相沢の顔を想像して笑みが零れる。

 待っていて相沢。帰るよ。安全運転で、飛んで帰るよ。



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