ふたりとも秘密がある〜御曹司はS系秘書に首ったけ〜

樹沙都

文字の大きさ
50 / 65
わたしだって恋をする。

 綾乃と佳乃の本拠地は、閑静な高級住宅街の一角に建つ歴史ある風情の洋館だった。

 淡いベージュのバーチカルブラインドを通して柔らかな光が差し込む広いオフィスは、デザイナーの個性が光るグレーを基調にしたシンプルモダンな落ち着いた趣のインテリア。

 中央に配置されているのは、柔らかく、それでいてゆったりと腰を支えてくれる座り心地の良いグレーのソファ。そこへ腰掛けたわたしの目の前で、西園寺綾乃自ら淹れてくれたご自慢のコーヒーが芳醇な香りを漂わせている。

 わたしはといえば、その素晴らしいインテリアと香りを堪能するどころか、自らが置かれているこの状況を憂うことすら忘れ、ただ一点、壁に飾られたほぼ等身大ともいえるほど大きなモノクロ写真に目を奪われていた。

 膝立ちで背を晒している少年の大人になりきれていない白く美しい肢体。巻き付けられた幾重にも重なるシフォンのドレープが柔らかな陰影を作り、引き締まったヒップラインの先から長く伸びた裾が風に巻き上げられている。

 仄かに筋肉質な細く長い腕を後ろに組んだ彼は顎を上げて白い喉を晒し、愁いを帯びたその瞳はなにを捕らえているのか、いまにも睫毛を震わせ唇からは甘やかな吐息を漏らしそうなほどに妖艶だ。

「…………」

 なんて——尊い。

 この写真一枚でおかわり三杯いける——ではなくて、飽きることなくいつまでも眺めていたいその美しさに心が震える。ほう、と、ため息が溢れた。

「コーヒー、冷めないうちにどうぞ」
「あ……すみません……えっ、と、あの」

 我に返ったわたしの隣に、栗色巻き毛の美女、西園寺綾乃が静かに腰を下ろした。

「綾乃お姉様って呼んでくれたら嬉しいわ」
「……はぁ」

 なーにがお姉様、だよ、あなたの義妹になった覚えはないのだが、と、言えないところが小心者の証。こんな目に遭うのもすべてはあいつ、専務のせいだ。しかし、早く早くと期待に目を輝かせ待っている綾乃に逆らう術は無く——。

「綾乃お姉様……」

 囁くようにその名を呼べば、きゃあとかわいらしい叫びを上げる。だが、仰け反ったのも一瞬、綾乃はすかさず体勢を戻した。

「これはね、非売品なの。優香ちゃんだから、特別に見せてあげるわ。ね? 要には内緒よ?」

 ウキウキと満面の笑みで綾乃お姉様がわたしに手渡してくれたのは、壁に飾られた写真と同時期に撮られたと思われる写真集。

「これは……」

 手に取り、徐に一ページずつ捲り穴が開くほど眺めては、言葉にならないほどに美しい少年の裸体に息を呑む。次々と現れる伸びやかな肢体。道化の如く目の下に水色の涙がペインティングされた頬と潤んだ瞳に心を奪われた。だが。

 これは——まさか。

「……専務?」

 写真の彼は、危ういばかりに幼い。しかし、その目鼻立ちには、専務の面影がある。

 こんなのだめ——好き。

 絹のように滑らかな肌理の細かい肌の艶めかしさにため息が出る。初対面の専務の姉の前で、若い色気を撒き散らす彼の肢体に頬が熱くなった。

「さすが優香ちゃんねー、気づくのが早いわ」
「え? やっぱりこれ、専務なんですか?」
「そうよー、素敵でしょう? これはね、要が十六のときに撮ったのよ」

 綾乃は詳しく語りはしなかったが、なにがしか専務の弱みを握り、全裸の写真撮影を強要したらしい。さすが姉弟。ふふふ、と、思い出し笑いをする綾乃の顔は御多分に洩れず黒かった。

 十六歳といえば、立派な思春期。複雑なお年頃の男子が、しかもあの専務が、自らの裸体を晒し撮影させるなんてことを望むはずもないわけで。

 金に飽かせて設えられたスタジオセット。スタッフの犇めく中、らんらんと目を輝かせた姉の目の前で、全裸になり、あれやこれやとポーズを決めさせられてその裸体を撮影される気持ちは如何ばかりであったのか。

 もしも、わたしであったなら。想像するに恐ろしい。

 専務——お気の毒に。南無——。

 正直なところ、いいものを見せていただいたと喜んだのも本当ではあるが、専務の女性恐怖症の源を垣間見たような気がした。

 と、頭の片隅で思いつつ貪り尽くしたのは、ここだけの秘密だ。


感想 1

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

恋は秘密のその先に

葉月 まい
恋愛
秘書課の皆が逃げ出すほど冷血な副社長 仕方なく穴埋めを命じられ 副社長の秘書につくことになった 入社3年目の人事部のOL やがて互いの秘密を知り ますます相手と距離を置く 果たして秘密の真相は? 互いのピンチを救えるのか? そして行き着く二人の関係は…?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ
恋愛
あらすじ 青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。 しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。 次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。 そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。 その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。 しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。 お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?  社長×秘書×お仕事も頑張る✨ 溺愛じれじれ物語りです!

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始