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ふたりとも秘密がある。
弐 :要
騙し討ちで連れ込まれた先は、姉たちふたりが展開する高級フォーマルファッションブランドの新店舗オープン記念レセプション会場だった。
挨拶もそこそこに、引き離されてしまった相沢を心配しながら、俺と祐司は追い立てられるように会場へ。一歩入るとそこはすでに、大勢の招待客で埋め尽くされていた。
このブランドの客層は、若年富裕層——所謂上流階級の子女たちで、スポンサーである親たちは、せがまれて顔を出しているのだろう、遠巻きに眺めている人々の中には、俺の仕事と直接関わりのある見知った顔もちらほらとある。
つまり俺と祐司は、体のいい接待役として引き摺り出された、というわけだ。
笑顔を張り付け、会う人ごとに当たり障りの無い社交辞令を口にし、会場を泳ぎはするが、肉食系女子の粘り強さには、太刀打ちも叶わず。気がつけば着飾った女性たちに取り囲まれて、最早逃げる術も無くなった。
鼻がもげそうになるほど濃い香水の臭いに咽せながら、必死で愛想を振りまいても振りまいても、子女の群は厚みを増すばかり。何時果てるとも知れぬ苦行に気が遠くなりかけた。
突如、会場が暗転する。
周囲が静まりかえり、集う人々の期待に満ちた視線が、煌々と照らされたステージの中央、姿を現した姉たちに注がれているこの状況——。
逃げるなら今しか無い。
祐司に目で合図をし、会場隅、暗がりへと場所を移しほっと息を吐く。とりあえず、最初の難関は突破できたようだ。
主催者の挨拶もそこそこに、新作のショーが始まった。
大音量で響くBGMの中、ド派手にスパークするライトニング、きらきらと舞う紙吹雪。ライトアップされたランウェイに、色取り取りのドレスが翻れば、魅せられた観客たちは、あれがいいこれが欲しいと、目の色を変え囁き合っている。
作品といい演出といい、いつもながら、姉たちの手腕は見事なものだ。
薄暗い壁際に身を潜めた俺は、内心苛立ちながらも、ショーの様子を眺めていた。
熱狂に包まれたショーは瞬く間にフィナーレを迎え、全てのドレスたちが一堂に会したその中央を、姉ふたりが手を取り合い和やかに進む。拍手を浴び、観客に挨拶をする姉たちも成功を確信したのだろう、モデルたちと和やかに抱擁を交わしている。
この騒ぎが終われば次はパーティだ。いまこのタイミングで逃げ出さなければ、肉食獣たちに食い散らかされ跡形も残らないだろうことは想像に難くない。
俺の秘書であり従兄弟であり親友である祐司は、姉たちの犬。そもそも、有無を言わせず空港から俺たちを連れてきたのは祐司なのだから、協力なんぞ頼めると思う方がおかしい。
到着早々連れ去られた相沢は、どうしているだろう。ここから抜けだした後、無事に合流できればいいけれど。
策を巡らせている間に、勢揃いしていたモデルたちが、観客の拍手に堪えながらステージ裏へと踵を返す。ランウェイ中央に残された姉ふたりは、なにかを待つようにバックステージを振り返った。
姉たちのその様子に、次に出てくるであろうなにかを期待する観客たちのざわめきが止む。水を打ったような静けさの中、静かに響くチェロの調べ。
ひらひらと舞い落ちる淡いピンクの花びら。その向こうに姿を現した純白のウェディングドレスを纏ったモデル、それは、見紛うはずもなく、相沢その人だった。
姿勢を正し、顔を正面に向けた美しい女性が、ランウェイを踏みしめるように一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。
彼女の微笑みの先に待つのは、ブランドの仕掛け人である姉ふたり。観客たちは柔らかなスポットライトが照らし出すあまりに美しい情景に言葉も無く見入っている。
俺は姉たちの待つランウェイ中央へと吸い寄せられた。
相沢の手を取った姉が、俺に言葉をかける。その音は拾っているが、それどころじゃない。頭の中は美しい相沢でいっぱいだ。
姉に渡された相沢の手を取った俺は跪き、相沢を見上げる。まるで機械のように意識とかけ離れたところから、言葉が口から紡がれた。
「相沢……結婚して——どうか俺にあなたと共に一生を過ごす権利をください」
愛してるよ。相沢。あんたは俺のすべてだ。
衆人環視の中にありながらも、心の声が溢れて止まらない。
目を潤ませ、微かに頷いた相沢の瞳をじっと見つめた。
ゆっくりと近づいてくる相沢の笑顔が眩しい。どきどきと高鳴る心臓が口から飛び出しそうになったとき、相沢の吐く息がふーっと俺の耳に触れた。
「せ、こ、い」
へ? なんで?
和やかに俺を見つめるその瞳は『あんた、ばか?』と言っている。 なにかまずかったのだろうか。どうやら本気で相沢を怒らせてしまったようだ。。
満面の笑みを浮かべた相沢が手を引き俺を立ち上がらせた。姉たちを両脇に従え、四人揃ってギャラリーへ深々と一礼する。
ショーのラストを飾るに相応しい素晴らしい演出に感動した観客たちから、祝福や悲鳴を受けながら俺たちはランウェイをあとにした。
挨拶もそこそこに、引き離されてしまった相沢を心配しながら、俺と祐司は追い立てられるように会場へ。一歩入るとそこはすでに、大勢の招待客で埋め尽くされていた。
このブランドの客層は、若年富裕層——所謂上流階級の子女たちで、スポンサーである親たちは、せがまれて顔を出しているのだろう、遠巻きに眺めている人々の中には、俺の仕事と直接関わりのある見知った顔もちらほらとある。
つまり俺と祐司は、体のいい接待役として引き摺り出された、というわけだ。
笑顔を張り付け、会う人ごとに当たり障りの無い社交辞令を口にし、会場を泳ぎはするが、肉食系女子の粘り強さには、太刀打ちも叶わず。気がつけば着飾った女性たちに取り囲まれて、最早逃げる術も無くなった。
鼻がもげそうになるほど濃い香水の臭いに咽せながら、必死で愛想を振りまいても振りまいても、子女の群は厚みを増すばかり。何時果てるとも知れぬ苦行に気が遠くなりかけた。
突如、会場が暗転する。
周囲が静まりかえり、集う人々の期待に満ちた視線が、煌々と照らされたステージの中央、姿を現した姉たちに注がれているこの状況——。
逃げるなら今しか無い。
祐司に目で合図をし、会場隅、暗がりへと場所を移しほっと息を吐く。とりあえず、最初の難関は突破できたようだ。
主催者の挨拶もそこそこに、新作のショーが始まった。
大音量で響くBGMの中、ド派手にスパークするライトニング、きらきらと舞う紙吹雪。ライトアップされたランウェイに、色取り取りのドレスが翻れば、魅せられた観客たちは、あれがいいこれが欲しいと、目の色を変え囁き合っている。
作品といい演出といい、いつもながら、姉たちの手腕は見事なものだ。
薄暗い壁際に身を潜めた俺は、内心苛立ちながらも、ショーの様子を眺めていた。
熱狂に包まれたショーは瞬く間にフィナーレを迎え、全てのドレスたちが一堂に会したその中央を、姉ふたりが手を取り合い和やかに進む。拍手を浴び、観客に挨拶をする姉たちも成功を確信したのだろう、モデルたちと和やかに抱擁を交わしている。
この騒ぎが終われば次はパーティだ。いまこのタイミングで逃げ出さなければ、肉食獣たちに食い散らかされ跡形も残らないだろうことは想像に難くない。
俺の秘書であり従兄弟であり親友である祐司は、姉たちの犬。そもそも、有無を言わせず空港から俺たちを連れてきたのは祐司なのだから、協力なんぞ頼めると思う方がおかしい。
到着早々連れ去られた相沢は、どうしているだろう。ここから抜けだした後、無事に合流できればいいけれど。
策を巡らせている間に、勢揃いしていたモデルたちが、観客の拍手に堪えながらステージ裏へと踵を返す。ランウェイ中央に残された姉ふたりは、なにかを待つようにバックステージを振り返った。
姉たちのその様子に、次に出てくるであろうなにかを期待する観客たちのざわめきが止む。水を打ったような静けさの中、静かに響くチェロの調べ。
ひらひらと舞い落ちる淡いピンクの花びら。その向こうに姿を現した純白のウェディングドレスを纏ったモデル、それは、見紛うはずもなく、相沢その人だった。
姿勢を正し、顔を正面に向けた美しい女性が、ランウェイを踏みしめるように一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。
彼女の微笑みの先に待つのは、ブランドの仕掛け人である姉ふたり。観客たちは柔らかなスポットライトが照らし出すあまりに美しい情景に言葉も無く見入っている。
俺は姉たちの待つランウェイ中央へと吸い寄せられた。
相沢の手を取った姉が、俺に言葉をかける。その音は拾っているが、それどころじゃない。頭の中は美しい相沢でいっぱいだ。
姉に渡された相沢の手を取った俺は跪き、相沢を見上げる。まるで機械のように意識とかけ離れたところから、言葉が口から紡がれた。
「相沢……結婚して——どうか俺にあなたと共に一生を過ごす権利をください」
愛してるよ。相沢。あんたは俺のすべてだ。
衆人環視の中にありながらも、心の声が溢れて止まらない。
目を潤ませ、微かに頷いた相沢の瞳をじっと見つめた。
ゆっくりと近づいてくる相沢の笑顔が眩しい。どきどきと高鳴る心臓が口から飛び出しそうになったとき、相沢の吐く息がふーっと俺の耳に触れた。
「せ、こ、い」
へ? なんで?
和やかに俺を見つめるその瞳は『あんた、ばか?』と言っている。 なにかまずかったのだろうか。どうやら本気で相沢を怒らせてしまったようだ。。
満面の笑みを浮かべた相沢が手を引き俺を立ち上がらせた。姉たちを両脇に従え、四人揃ってギャラリーへ深々と一礼する。
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