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§ 墨に近づけば黒くなる。

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「基本の機能と追加分はこれで良しとして、問題はデザインだよなぁ」
「うん。上がってきたデザイン見た? 酷いよね?」

 企業向けの展開を主としているSKTにおいて、個人向けのアプリ開発は始まったばかり。社内ではまだ枝葉の扱いだ。ゆえに、それを得意とするデザイナーも居なければ、いまのところ外注を頼むほどの規模でもない。

「だよな。二案のうち、ひとつは完全にいつものビジネス系、もうひとつはこれだよ。ほら、見ろよ? 完璧に趣味の世界だ」

 宗田が画面をコチコチとポインタで弄りながらため息をついた。

「うわぁ、なにこの潤んだ上目遣い少女イラスト! マジカよ!ロリロリじゃん? あいつ、こんな趣味あったんだ?」

 私の反対側から宗田の背後に回り、首を伸ばしてモニタを覗き込む三池が青ざめた。私もヒョイとその脇からモニタを覗いてみる。

 なるほど、ロリロリとはこういうものか。これなら、さすがの私でもわかる。

「二案ともボツだな。でも、どうするのよ?」
「だから、歩夢が居るんだろう?」

 腕組みをして椅子の上でふんぞり返っている尊が、顎で私を指す。

「そうだね、ウチには出目金の歩夢ちゃんが居る!」

 キラキラと輝く六つの瞳が私を見つめ、そうそうと頷く様子を眺める尊は満足そう。

「私ですか?」
「うん、そう。期待してるから頼むよ」

 宗田に見上げられ、はぁ……と小さくため息をつく。UIはまだしも、デザインは専門じゃないんだけどな。

「そうだ、歩夢。企画書は?」
「は?」
「おまえの新作のアプリだよ。企画書と基本設計はできたのか?」
「あ、あれはまだ……」

 そもそも誰のおかげでいまだ基本設計ができあがらないと思っているのだ。気まぐれに機能追加しやがってこの野郎、と、言いたいが、相手は上司。

「期限は切らないが、そっちもさっさとやれよ」
「……わかりました」

 家に帰ったら、一発殴っていいですかね。

「なになに? 歩夢ちゃんの新作?」
「どんなヤツ? ゲーム? それとも実用系?」
「あー、実用系です。ノートアプリみたいなもんなんですが……」
「ねえ? 電話鳴ってない?」

 どこかでくぐもったバイブらしき音が聞こえる。

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