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§ わたしたち、いまさら恋はできません。
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「そ、そんな大昔のこと、覚えてるわけないじゃない! それに、もうとっくに終わったことでしょ? 今まで一度も話にすら出たことなかったのに、いまさらなに言ってるの?」
「終わってもいねえこと、いまさらいまさら言うなよ。そもそも、俺はおまえと別れ話なんてした覚えねえもん」
「別れ話はしてなくても、卒業までお互い避けてたし、卒業したらそれっきりで会ってもいないし、自然消滅してるでしょ?」
「そうだったっけ? 俺は、自然消滅したつもりもねえけどな」
「じゃあ、なに? あんたは私たちが未だに付き合ってるとでも言いたいわけ?」
「違うの?」
「だったら今まであんたが付き合ってきた女の子たちはなによ? あれ全部、浮気ってことになるけど、それでいいわけ?」
「ふん。そんなの。おまえだって男何人もいたんだから一緒だろ? おあいこだよ」
目の前にある半分飲み残したビールを、頬づえをついて、ニヤニヤと得意気に人の顔を斜めに見上げている俊輔の頭からかけて、そのついでにジョッキでぶん殴ってやりたい衝動を、私は必死に抑えた。
「ああーもう! あんたとこれ以上話してたら頭がおかしくなる!」
忍耐力もここまで。もう耐えられないとばかりに頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
俊輔の熱い手が私の頭に乗り、髪を撫でている。それと同時に、そうかそうか、泣くほど嬉しいかと、勝ち誇った声が降ってきた。私は強引に頭を上げてその手を振り払い、横目でキッと奴を睨みつけた。
「どうせ私がOKするまで、この話、延々続ける気なんでしょう?」
「さすが波瑠。よくわかってんな」
「……浮気したらぶっ殺すからね」
「するわけねえ。俺が一途なのは、知ってんだろ?」
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。OKの振りでもして適当にお茶を濁し、この話題を途切れさせられればと思ったのに、このままだと、未来永劫減ることのないこいつの口との戦いが、また始まってしまう。
「あーーーっ! もうやめ! 帰るっ!」
「帰る? 帰るにはまだ時間早いよな。どうする? とりあえずホテルでも行っとく?」
今、何を言われたのかを頭で理解する前に、私の本能が俊輔の顔を目掛けて勢いよく繰り出した拳を、奴が反射的に受け止めた。
「冗談。俺、いくらなんでもそこまでがっついてないって。でも、せっかくだから、とりあえず、キスくらいしとこうかな?」
そう言って迫ってくる奴の顔を、掴まれていない方の手で押し返したが、その手もあえなく掴まれてしまい、もう逃げ場が無い。
「初めてでもないんだから、そんな顔するなよ」
軽い溜め息をつきながら発せられたその一言は、私の遠い記憶を呼び覚ますのには十分だった。
そう、私たちは一度だけ、下校途中の公園で、キスをしたことがある。
小学五年、十一歳の私たちは、身も心もまだ純粋無垢。あのときのキスは、恋愛の何たるかも男と女の秘事も何も知らなかった私たちが、ただ、より深く、心を通わせるためだけの幸せな初めてのキス……。
目の前に迫りくる俊輔の顔を見て、私は半ば諦めの境地で瞼を閉じた。ふたりの熱い吐息と唇が重なり、侵入した彼の舌が、逃げ切れない私の舌を追い詰め絡みついてくる。
遠い過去に取り残され思い出されることもなかった触れるだけの可愛いキスは、こうして今、濃厚な大人のキスに塗り替えられた。
「終わってもいねえこと、いまさらいまさら言うなよ。そもそも、俺はおまえと別れ話なんてした覚えねえもん」
「別れ話はしてなくても、卒業までお互い避けてたし、卒業したらそれっきりで会ってもいないし、自然消滅してるでしょ?」
「そうだったっけ? 俺は、自然消滅したつもりもねえけどな」
「じゃあ、なに? あんたは私たちが未だに付き合ってるとでも言いたいわけ?」
「違うの?」
「だったら今まであんたが付き合ってきた女の子たちはなによ? あれ全部、浮気ってことになるけど、それでいいわけ?」
「ふん。そんなの。おまえだって男何人もいたんだから一緒だろ? おあいこだよ」
目の前にある半分飲み残したビールを、頬づえをついて、ニヤニヤと得意気に人の顔を斜めに見上げている俊輔の頭からかけて、そのついでにジョッキでぶん殴ってやりたい衝動を、私は必死に抑えた。
「ああーもう! あんたとこれ以上話してたら頭がおかしくなる!」
忍耐力もここまで。もう耐えられないとばかりに頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
俊輔の熱い手が私の頭に乗り、髪を撫でている。それと同時に、そうかそうか、泣くほど嬉しいかと、勝ち誇った声が降ってきた。私は強引に頭を上げてその手を振り払い、横目でキッと奴を睨みつけた。
「どうせ私がOKするまで、この話、延々続ける気なんでしょう?」
「さすが波瑠。よくわかってんな」
「……浮気したらぶっ殺すからね」
「するわけねえ。俺が一途なのは、知ってんだろ?」
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。OKの振りでもして適当にお茶を濁し、この話題を途切れさせられればと思ったのに、このままだと、未来永劫減ることのないこいつの口との戦いが、また始まってしまう。
「あーーーっ! もうやめ! 帰るっ!」
「帰る? 帰るにはまだ時間早いよな。どうする? とりあえずホテルでも行っとく?」
今、何を言われたのかを頭で理解する前に、私の本能が俊輔の顔を目掛けて勢いよく繰り出した拳を、奴が反射的に受け止めた。
「冗談。俺、いくらなんでもそこまでがっついてないって。でも、せっかくだから、とりあえず、キスくらいしとこうかな?」
そう言って迫ってくる奴の顔を、掴まれていない方の手で押し返したが、その手もあえなく掴まれてしまい、もう逃げ場が無い。
「初めてでもないんだから、そんな顔するなよ」
軽い溜め息をつきながら発せられたその一言は、私の遠い記憶を呼び覚ますのには十分だった。
そう、私たちは一度だけ、下校途中の公園で、キスをしたことがある。
小学五年、十一歳の私たちは、身も心もまだ純粋無垢。あのときのキスは、恋愛の何たるかも男と女の秘事も何も知らなかった私たちが、ただ、より深く、心を通わせるためだけの幸せな初めてのキス……。
目の前に迫りくる俊輔の顔を見て、私は半ば諦めの境地で瞼を閉じた。ふたりの熱い吐息と唇が重なり、侵入した彼の舌が、逃げ切れない私の舌を追い詰め絡みついてくる。
遠い過去に取り残され思い出されることもなかった触れるだけの可愛いキスは、こうして今、濃厚な大人のキスに塗り替えられた。
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