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§ あなたは、わたしの何ですか?
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あの怒号の一日から早一ヶ月。
俺とちゃんと本気の恋愛しようとか言って無理やりキスまでしたくせに、どうせあいつはそんなこともすっかり忘れて、新しい女にでも夢中になっているのだろう。飲み友だちから恋人に昇格したはずの俊輔からは、何の連絡も無い。
そういう私自身も、連絡が無いのをいいことに、仕事に没頭している。もちろん、こちらから連絡なんてまったくする気も無い。尤も、忙し過ぎてあいつを構っている暇も無いのが、本当のところだが。
さらに本音を言えば、あの日のことは、思い出すだけでも腹が立つ。だから、このまま時間の経過とともに、何も無かった元の状態に戻ってくれたらいいのにと思う。今度こそ、本当の『自然消滅』だ。
「波瑠さん、そろそろ出ないと間に合わなくなりますよ」
「えっ? もうそんな時間?」
掛け時計に目をやると、もう十一時十分前。作業に没頭してすっかり忘れていた。今日は午後一から新規顧客との打ち合わせがあり、その前に広告代理店の担当者と待ち合わせをするのだ。
「おにぎり買ってきましたから、支度しながら食べてください」
「晶ちゃん、ありがとう。助かる。 あ、そうだ、弥生さんは?」
「弥生さん、今日は由奈ちゃんをおばあちゃん家に預けて、午後からって言ってましたよ」
「そっか、了解。じゃあ、後のことは、弥生さんにも言ってあるから、お願いね」
一年ほど前、私は勤めていたデザイン事務所から独立して3LDKのマンションを借り、同じくDTPデザイナーの小柳晶ともうひとりの先輩、坂上弥生との三人で、小さな事務所を構えた。
独立開業と言えば聞こえは良いが、その実態は、はっきり言って悲惨だ。
元の会社の経営悪化により給料未払いが続いた挙句、社長が逃げ会社は崩壊。何も知らされず残された従業員は大慌て。電話が絶え間なく鳴り響く中、事後対応に追われ地獄の日々を過ごした。その間にほとんどの同僚たちは皆、同業他社や異業種への転職を決め、中には故郷へ帰った者もいる。
そんな中、後始末と抱え込んだままの大量仕事に忙殺され転職の機会を失い、最後まで残ってしまった私たち三人は、発注元広告代理店の好意により、そのままフリーランスとして独立し、その会社から発注されていたそれまでの仕事を、すべて引き受けさせてもらえることになった。
また、以前の顧客や周囲の紹介もあり、少しずつではあるが取引先も増え、現在どうにか仕事が回り出してきているところだ。変な話だが、会社にいた頃より収入も安定している。
仕事の忙しさは勤め人の頃と大差は無いのだが、時間がある程度自由になるのはフリーの良いところ。暇さえあれば平日に遊びに出かけることだって可能だ。弥生さんには三歳の女の子がいる。前の会社にいた頃は、体調を崩した子供の預け先を探すのが大変だった。今は、時間のやりくりができるので、融通が利いて良いと、彼女はこの働き方をすっかり気に入っている。
フリーなんてそんないい加減なものは早く辞めて、安定した会社に勤め、良い人を見つけて結婚しなさいと、実家に帰る度に母にお小言を喰らう。しかし、私だって本音を言えば、好き好んでこんな生活をしているわけではない。
確かに今の仕事が好きではある。しかし、今の私のありさまは、いったい誰のおかげなのか。美術の才能があるからそっちの方面に進みなさいと熱心に勧め、中学から受験させ美大にまで入れたのは、他でもない母だ。
小言を言われる度に母を責めたい気持ちは山々だが、いまさら言っても後の祭り。こうなってしまった以上、今できる仕事を精一杯頑張って、責任を果たすしか他に道は無い。
俺とちゃんと本気の恋愛しようとか言って無理やりキスまでしたくせに、どうせあいつはそんなこともすっかり忘れて、新しい女にでも夢中になっているのだろう。飲み友だちから恋人に昇格したはずの俊輔からは、何の連絡も無い。
そういう私自身も、連絡が無いのをいいことに、仕事に没頭している。もちろん、こちらから連絡なんてまったくする気も無い。尤も、忙し過ぎてあいつを構っている暇も無いのが、本当のところだが。
さらに本音を言えば、あの日のことは、思い出すだけでも腹が立つ。だから、このまま時間の経過とともに、何も無かった元の状態に戻ってくれたらいいのにと思う。今度こそ、本当の『自然消滅』だ。
「波瑠さん、そろそろ出ないと間に合わなくなりますよ」
「えっ? もうそんな時間?」
掛け時計に目をやると、もう十一時十分前。作業に没頭してすっかり忘れていた。今日は午後一から新規顧客との打ち合わせがあり、その前に広告代理店の担当者と待ち合わせをするのだ。
「おにぎり買ってきましたから、支度しながら食べてください」
「晶ちゃん、ありがとう。助かる。 あ、そうだ、弥生さんは?」
「弥生さん、今日は由奈ちゃんをおばあちゃん家に預けて、午後からって言ってましたよ」
「そっか、了解。じゃあ、後のことは、弥生さんにも言ってあるから、お願いね」
一年ほど前、私は勤めていたデザイン事務所から独立して3LDKのマンションを借り、同じくDTPデザイナーの小柳晶ともうひとりの先輩、坂上弥生との三人で、小さな事務所を構えた。
独立開業と言えば聞こえは良いが、その実態は、はっきり言って悲惨だ。
元の会社の経営悪化により給料未払いが続いた挙句、社長が逃げ会社は崩壊。何も知らされず残された従業員は大慌て。電話が絶え間なく鳴り響く中、事後対応に追われ地獄の日々を過ごした。その間にほとんどの同僚たちは皆、同業他社や異業種への転職を決め、中には故郷へ帰った者もいる。
そんな中、後始末と抱え込んだままの大量仕事に忙殺され転職の機会を失い、最後まで残ってしまった私たち三人は、発注元広告代理店の好意により、そのままフリーランスとして独立し、その会社から発注されていたそれまでの仕事を、すべて引き受けさせてもらえることになった。
また、以前の顧客や周囲の紹介もあり、少しずつではあるが取引先も増え、現在どうにか仕事が回り出してきているところだ。変な話だが、会社にいた頃より収入も安定している。
仕事の忙しさは勤め人の頃と大差は無いのだが、時間がある程度自由になるのはフリーの良いところ。暇さえあれば平日に遊びに出かけることだって可能だ。弥生さんには三歳の女の子がいる。前の会社にいた頃は、体調を崩した子供の預け先を探すのが大変だった。今は、時間のやりくりができるので、融通が利いて良いと、彼女はこの働き方をすっかり気に入っている。
フリーなんてそんないい加減なものは早く辞めて、安定した会社に勤め、良い人を見つけて結婚しなさいと、実家に帰る度に母にお小言を喰らう。しかし、私だって本音を言えば、好き好んでこんな生活をしているわけではない。
確かに今の仕事が好きではある。しかし、今の私のありさまは、いったい誰のおかげなのか。美術の才能があるからそっちの方面に進みなさいと熱心に勧め、中学から受験させ美大にまで入れたのは、他でもない母だ。
小言を言われる度に母を責めたい気持ちは山々だが、いまさら言っても後の祭り。こうなってしまった以上、今できる仕事を精一杯頑張って、責任を果たすしか他に道は無い。
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