わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ あなたは、わたしの何ですか?

06

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 食欲を唆る出汁の香りに誘われて食卓代りにしているローテーブルの方に顔を向けると、両肘をついて座っている俊輔がこちらに向かって微笑んでいた。

「冷めないうちに食っちゃえよ」

 ローテーブルの上には、美味しそうに湯気を立てているうどんの丼がひとつ。どこから引っ張り出してきたのか、ランチョンマットに箸置きまで使い、綺麗にセッティングされている。感心しながら床に放り出してあるクッションをひとつお尻の下に敷いて座り込んだ。

「あんたのは?」
「俺はいい。食ってきた」

 促されるままに出汁をひと口啜ると、芳醇な香りが口いっぱいに広がり鼻腔を駆け抜けていく。麺の茹で具合もバッチリ。不思議だ。どこが違うのかわからないが、自分で作るより美味しい。

「美味いだろ?」
「うん。あんたが料理できるなんてびっくり」
「冷凍うどんだぞ、誰が作っても一緒」
「まあそうだけど……」

 出汁を飲みうどんを啜っているだけで、悔しいけれどほっこりとして疲れが癒される。でも、誰が面と向かって賛辞を口に出したりするものか。そんなことをしたら図に乗るだけなのだからと、笑顔になりそうな自分を抑え、素知らぬ顔をしてうどんを啜った。

 そんな私の態度を見て、俊輔は不満そうにぷっと頬を膨らませている。

「ここん家の冷蔵庫、ドリンク剤と水と酒と冷凍うどん以外、なんにも入ってねえのな。いつも飯、どうしてんだよ? ちゃんと食ってるのか?」
「食べてるよー。普段はコンビニとかスーパーの惣菜とかインスタントとか色々かな。うどんは緊急用」
「ろくなもん食ってねえな。早死にするぞ」
「大丈夫よ。外で食べるときは栄養のバランスとかちゃんと考えてるし、忙しくないときはちゃんと家に帰ってお母さんの作るご飯食べてるもん」
「ほとんど毎日、ここに籠もりきりのくせによく言うよ」
「そんなことないよ」
「それに……なんだよ。その格好は。いくら外へ出ないからって、気ぃ抜き過ぎじゃねえの?」
「……ほっといて」

 上から下まで嫌らしい笑いを浮かべた目でジロジロと眺められ、私は咄嗟に箸を放り出し、腕を抱いた。

 スッピンで髪はボサボサのまま邪魔な前髪だけピンで止め、着ている服は何年着ているかわからないよれよれのTシャツにジャージパンツ。裸足にスリッパを引っ掛けただけのこのスタイルは、完全に女を捨てていると言われたとしても仕方がない。

「この部屋だって見てみろよ? 荒れ放題じゃね?」
「煩いわね。忙しいときは仕方ないのよ。時間があるときはちゃんと片付けてるんだから放っといて。だいたい勝手に入ってきたのはあんたでしょう? 気に入らないなら帰ればいいじゃない」

 帰れと言われたのが不愉快だったのか、私を無視ししれっと立ち上がった俊輔は、部屋を見回している。

「ちょっと! やだ! 勝手にうろつかないでよ!」

 制止なんてどこ吹く風。俊輔は仕事場にしているリビングから出て行った。

 本当なら追いかけて一戦交えたいところだが、月曜朝イチ期限の仕事を目の前にした今は、一分一秒でも惜しい。こちらが構い建しなければそのうちに帰るだろうと高を括り、うどんを慌ただしく胃袋に流し込んで仕事を再開した。

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