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§ あなたは、わたしの何ですか?

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 早々に揃えると言われていた資料が届いたのは、金曜日の昼だった。まだ金曜、しかも半分も残っている。金曜の夜遅くにバイク便がやってきて、分厚い紙の資料を渡され月曜朝一よろしくね、なんて言われるのはよくあること。それから比べれば、十分素晴らしい速さだ。泣きたいが。

 週末は弥生さんと晶ちゃんはお休み。だが所詮、リーフレット二枚だ。二日徹夜すれば、私ひとりでも十分間に合うだろう。ただ、問題は俊輔だ。あいつとの食事は断るしかあるまい。あのメールと電話の様子ではすでに相当怒っている。その上デートも中止とくれば、怒りのメーターが振り切れるかも知れない。それならそれで結構。いっそのことこのまま自然消滅でもしてくれれば、願ったり叶ったりだ。

 晶ちゃんと手分けして紙の資料をデータに起こす作業が終わったのは夜の九時。週末はいつももっと早く帰宅してもらっているのに、結局、こんな時間まで付き合わせてしまった。

 夕飯すらまだ食べていない。彼女が何か買ってきましょうかと気を使って言ってくれたが、これ以上引き止めるわけにもいかず、大丈夫、適当に食べるからと断って帰宅させた。

 ここから先はひとり。何かお腹に入れて作業を開始しようと、ほぼ飲み物しか入っていない冷蔵庫を物色していると、ドアホンが鳴った。晶ちゃんが忘れ物でも取りに戻ってきたのかと、急ぎドアを開けると、不機嫌そうな顔をした俊輔が立っていた。

 反射的に閉めようとしたドアは、その動作より速く挟まれた足に遮られた。肩で私を押し除け、無言のまま勝手に上がり込んだ俊輔は、ソファに仕事鞄とスーツのジャケットを放り出し、どっかりと腰を下ろし長い足を組んだ。

「やっと自分から連絡してきたと思ったら、キャンセルってなんだよ? せっかく人が週末時間作ってやったのに」
「誰も頼んでないし。急ぎの仕事入っちゃったんだから、仕方ないでしょう?」
「飯は? 食ったのか?」
「へ? まだだけど……それがなに?」
「飯作ってやる。おまえは仕事してろ」

 俊輔はそう言うとすくっと立ち上がり、目の前を素通りしてキッチンへ行き、冷蔵庫の中を物色しだした。

 こいつはいったいここへ何をしに来たのだろうと、頭の中は疑問でいっぱいだが、俊輔の思いつくことなんてどうせろくなことではないだろう、考えるだけ時間の無駄と、雑念を振り払い仕事に集中することにした。

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