わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ あなたが好き。

04

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 エレベーターの中、ぼーっと夢見心地であの食事の光景を思い返していると、目の前に立っている俊輔が、ポケットから何やら取りだしているのが見えた。なんだろう、と思ったとき、エレベーターが停止した。

「降りるぞ」

 俊輔の後からエレベーターを降りると、そこはロビーではなく、どうやら客室階のエレベーターホールらしい。

 私は何が起きているのかわからず、厚い絨毯が敷き詰められた廊下を、迷いもせずにまっすぐ歩く俊輔の背に声をかけた。

「ねえ、どこ行くの?」
「部屋取ってあるから」
「へっ?!」

 足を止め振り返った俊輔が、私の目の前でカードキーをひらひらと見せびらかせながらニヤリと意地悪く笑って言った。

「さっきの分、ちゃんと回収しないとな」

 どうやらサプライズプレゼントに感動したのは間違いだったらしい。こいつはやはり俊輔だ。

「ちょっとそれって……」
「デートだろ。最後まで付き合えよ」

 そうかデートはまだ終わっていなかったのか。大人の男と女なのだから、ホテルで一晩一緒に過ごすのは、当然の成り行きといえば確かにそのとおりだが、ちょっと待て。

 ちゃんとした服だなんだとそればかりに気を取られすっかり忘れていて、そこまでの準備はしてきていない。今日はどんな下着を着けていたっけ、と、思い巡らせたところで気づく。今はそんなことを考えている場合ではなくて、と。

そう、これは、貞操の危機ではないか。

 私はこのままこいつとどうにかなって、本当にいいと思っているのか。自分のこいつに対する気持ちは、そこまで確かなものになっているのだろうか。ドアの前に立ち、解錠する俊輔の後ろ姿を見ながら自問自答した。

 部屋に入ったら終わりだ。逃げだすなら、今しかない。

 『逃げだす』との言葉を思い浮かべたとき、胸がチクリと痛んだ。今、ここから逃げだせば、こいつとの関係が終わる。俊輔を傷つけるのだ。しかも、敵前逃亡という絶対に許されない方法で。

 こいつはもう二度と、私と恋愛関係と呼べるものになりたいとは思わないだろう。それどころか、今日この場限りで友人関係すら破綻し、私という人間をまるごと拒絶されてしまうかも知れない。それでも、こいつを拒否して逃げだせるのか。その決断が、今この瞬間、私にできるのだろうか。

 受け入れ準備OKと明言はできないが、それでも、その答えはひとつだ。自分の不安な気持ちに目を瞑ってでも、今、俊輔の手を離したくない想いの方が強いのだから。


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