わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 好事不如無。

04

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「僕ね、実は、バツイチなんだよ」
「えっ?」
「嫌だな。そんなに驚く? 僕だっていい歳なんだから、何にもなかったらおかしいでしょう?」
「それはそうですけど……なんか意外」

 突如された告白。どんな顔をして聞けばいいのだろう。

「元奥さんとは、大学二年のときに付き合い始めて、卒業と同時に結婚したの。彼女は地方出身で、卒業したら地元に戻る予定だったからね。離れたくなくて、結婚という方法を選んだ。でもそれは、長くは続かなかった……」
「…………」
「僕はね、彼女に家にいて欲しかったんだけど、社会に出たばかりでそんな贅沢言える生活力なんてあるわけないから、当然、彼女も仕事を持って……はじめのうちは楽しかったんだよ。必死で仕事を覚えて、週末はふたりで家のことして。でもそのうち、残業が増えて帰宅時間もバラバラ。週末は家事をするだけで終わる生活に、疲れてしまったんだ」
「でもそれは、仕事をしてたら仕方のないことじゃ……」
「そうだよ。だけどね、あのときは、こんなことしてて何になるんだろうって思った。現実は厳しいよね。彼女を愛してたし、離れたくなくて結婚したはずなのに、それすら忘れてしまった。で、つい刺々しいもの言いをして毎日喧嘩ばかりでさ、終いには家に帰るのも嫌になってた」
「それで、離婚を?」
「まあね。簡単に言えば、性格の不一致? でも、一番の原因は、僕にあると思ってる。僕が彼女のことをちゃんと理解していれば、今も結婚生活が続いていたかも知れないってね。離婚の話し合いを始めて、いや、話し合いというよりは、お互いの感情をぶつけ合ったって感じだったけど、そのとき、初めてわかったんだ。彼女には彼女の、僕とは違う夢があったんだってことが」
「彼女の夢?」
「うん。あの頃僕たちは、結婚することだけに夢中で、その後のことなんて何も考えてなかったんだよ。僕は彼女に相談もせず、自分の希望を押し付けるだけだった。だから、僕と同じように彼女にも夢や希望があるなんて、それこそ夢にも思わなかった。彼女も同じこと言ってたよ。だから駄目だったのねって」
「でも……ちゃんと話し合えたのなら、別れる必要なんてなかったんじゃないですか? それなのに、なぜ?」
「お互い疲れてたんだろうね。疲れて、もう気持ちが結婚生活を続ける方向に向いてなかった。彼女は、判を押した離婚届と自分の荷物を持って、あっさり出ていったよ。終わりは呆気ないものだったな」
「そんな……」
「話し合っても結論は変わらなかったんだから、道はそれしかなかったんだよ。でも、結婚生活は終わったけど、気持ちはそれとは別でさ。だから、彼女を過去にするまでは結構キツかったな」
「山内さん……」

 遠くを見つめ、優しい目をしている山内さんは今、彼女を思い出しているのだろうか。彼の表情からは、少なくとも心の何処かに彼女への想いを残しているように感じる。

「なんてね。これは、自分への教訓。言葉にしなきゃ何も伝わらないし、どんな些細なことでもすれ違いの元になる。相手は所詮別の人間なんだから、疑問があったらちゃんと言葉にしなければわからないでしょう? 言わないでわかって欲しいと思ったら、それはただの甘えだよ」

 その笑顔からは似つかわしくない鋭い瞳に見つめられ、どきりとした。


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