わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

文字の大きさ
72 / 83
§ 好事不如無。

05

しおりを挟む
 言わないでわかって欲しいと思ったら、それは甘え。これは正に、自分の勝手な考えだけですべてを結論づけようとしている、今の私そのものではないか。

「……すみません」
「僕に謝る必要は無いよ? 藤本さんはまったく……そうやって何でも自己完結しちゃ駄目。言葉にしなきゃ伝わらないって今言ったでしょう?」
「……すみません」
「ほらまたそうやって……」

 口ではそう咎めながらも、山内さんの瞳には、さっきまでの鋭さはもうなかった。優しい目。目尻を少し下げ口元を緩めて微笑んでいるその表情には、彼特有の甘さが漂っている。

「僕は、藤本さんが好きだよ。仕事仲間としても、友だちとしても、正直に言えば……ひとりの女性としても」
「山内さん?」
「だから、間違って欲しくない。そんなふうにひとりで悩んでないで、ちゃんと言葉にしよう? 彼に藤本さんの想いをぶつければいい。後のことは、その答えを聞いてから考えればいいんだよ」

 あれだけ痛い思いしたのに、今度は慎重になり過ぎてタイミングを逃し失敗したと、おどけたふうを装いつつ、ぶつぶつと嘆く山内さんの気持ちが温かくて、目頭が熱くなった。

 あのとき、冗談だと言った私への言葉は、本当だったのだ。

 でも、この人の想いに応えられない自分には、この人の想いを受け止める度量もなければ、気の利いた言葉を紡ぐこともできない。だから、ただただ心の中で、ありがとうとごめんなさいを言った。

::

 人の出会いも関係も、ほんの少しすれ違っただけで、結果はまったく違ってしまう。これはもう、タイミングという名前の運としか言いようがない。

 小五のあの日、ほんの一瞬交わった俊輔と私の想いは、呆気なく押し潰されてしまった。

 子供だったから、周囲に流されたからなんてそれは、ただの言いわけ。今となってはどこまで強い想いだったかわからないし、あの頃の私たちに、今へと続く未来があったのかどうかも定かではない。

 でも、あのとき、ふたりの恋が終わってしまった本当の原因は、自分の気持ちが先走るばかりで、ちゃんと言葉を交わさなかったからだということだけは、はっきりとわかる。そしてそれは今も同様。羞恥心、虚栄心。私はなんて幼稚なのだろうと思う。

 自分の醜い感情を知られたくない知りたくないその一心で口を噤み、見なかったことになんてできないくせに、自分の中で勝手な答え合わせをして、無かったことにしようとしている。

 恋は人を愚かにすると言うけれど、私のしていることはあの頃と同じ。恋をしたから愚かになったのではなく、情けなくもただ、成長していないだけだ。でも、これを乗り越えるには、どうすれば良いのか。その答えがまだ見つからない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...