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烏兎 ─2年後
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「お母さん──」
「お姉ちゃんは──頑張り屋だし誰かの心を一番に考えちゃうから、自分の心を大事にするのを忘れちゃうのね。それは私が育ててあげられなかった心だわ。ごめんね」
そんな事ない。
私が上手に生きられなかっただけだ。
被りを振っても母はごめんねと繰り返す。
「教えて。お姉ちゃんの幸せを」
分からない。
何が私の幸せなのか。
母と海都に幸せに生きてほしい。
和秋さんに迷惑を掛けたくない。
花純さんと類くんがお父さんと幸せに暮らしてほしい。
ハルに──
ハルにただ──
「──ハルに逢いたい」
まだそんな言葉が自分から出るのか──バカみたいだ。
自分が拒絶したのに。
「逢えばいいじゃない」
「私、今──結婚してるの。2年前にね。とてもいい人で大事にしてくれる。苦しい時も守ってくれた人。悲しい時も支えてくれた人なの。だから──そんな人を裏切る自分も嫌なの」
「でもお姉ちゃんはその人のこと好きじゃないわ」
母があっけらかんと言う。
「好きよ。ただ──ハルが忘れられないだけ」
「私は未だに晃さんが好きよ。あの人が死んで何十年?かしら月日なんて忘れちゃったわ。だって年月を数えても仕方がないもの。好きな人と離れても好きなの。死んでも好き」
母のこう言うところは強くて憧れる。
「だから──お姉ちゃん。死んでも好きな人は手放しちゃダメよなの。他の何を手放してもいいの。恥も外聞もお金も自由も家族も。でも──好きな人はダメ」
「家族も好きなの。好きなものがいっぱいある時はどうしたらいいの?」
母なら──どうするのだろう?
少し興味本位で聞いてみる。
私はマネ出来ないけれど。
「それでも好きは一つよ」
ツンとして話す母は聞き分けの悪い幼子のようだ。
「じゃあお母さんはもし父さんか私たちか選ばなきゃならなかったら私たちを捨てるの?」
膝を抱えたまま微笑めば、母も微笑み言い切る。
「捨てるわ」
断言する母にビックリする。
そうなのかと今更ながら母の知らない面を見た気がする。
「けど──そうしたら晃さんが私を嫌いになっちゃう。だからまだ晃さんには逢いにいかないの。晃さんがいなくてもこの世界で生きるの。晃さんに嫌われたくないから」
母は──父を追って死にたかったのだろうか。
亡くなった父を未だに生きているように語る。死んだら終わりではない。母にとって生死は関係ないように父に嫌われる事を恐れる。
「私は晃さんが愛した貴方達を見守らなくっちゃ。そしてやっと天国に逢いに行けるの。なのに──やだわ──お姉ちゃんの方が先に晃さんに会うのかしら?」
「──そうかもしれない」
鈍感だと思っていた母に言い当てられる。
それほどには体型は変わってないと思っていたのに。
どこで分かったのだろうか。
「なら──尚更にハルさんに逢いに行きなさい」
笑うしかない。
「──無理だよ。死にそうだから愛してください?ハルも開いた口が塞がらないよ。それでももしハルが私を受け入れてくれたら?ハルの生活を壊して私だけ最期に幸せになって終わり?私は幸せだけどハルは不幸だ。和秋さんにも死ぬから最期は本当に好きな人と過ごしたいんです。だから別れてください?──最低な妻なのに──これ以上失望されたくないよ」
「それでも──最低でも──そんな貴方を見たいわ。貴方を愛している人は最低な貴方が愛おしいの」
母が抱きしめてくれる。
その温かさに寄り添いたくなる。
けれどそんなこと──出来ない。
「そんなの──嘘よ」
「相変わらずね……」
溜め息まじりに告げられ立ち上がる。
携帯をバックに詰め鏡の前で髪を整えだす。
「何してるの?」
突然の動きに対応出来ない。
本当に何してるの?
「貴方はよくハルさんに一言多いって怒っていたけれど、貴方は言葉が足りなさ過ぎるの。だからもう一度、正直に話し合いなさい。私は帰ってきた海都とお出掛けしてくるわ」
見回しても海都がいない。
ちょっと待って。
ハルを呼びに行ったの?
「──私、帰るわ」
玄関の扉を開こうとした瞬間──
「帰──さないよ」
息も絶え絶えなハルがそこにいた。
「お姉ちゃんは──頑張り屋だし誰かの心を一番に考えちゃうから、自分の心を大事にするのを忘れちゃうのね。それは私が育ててあげられなかった心だわ。ごめんね」
そんな事ない。
私が上手に生きられなかっただけだ。
被りを振っても母はごめんねと繰り返す。
「教えて。お姉ちゃんの幸せを」
分からない。
何が私の幸せなのか。
母と海都に幸せに生きてほしい。
和秋さんに迷惑を掛けたくない。
花純さんと類くんがお父さんと幸せに暮らしてほしい。
ハルに──
ハルにただ──
「──ハルに逢いたい」
まだそんな言葉が自分から出るのか──バカみたいだ。
自分が拒絶したのに。
「逢えばいいじゃない」
「私、今──結婚してるの。2年前にね。とてもいい人で大事にしてくれる。苦しい時も守ってくれた人。悲しい時も支えてくれた人なの。だから──そんな人を裏切る自分も嫌なの」
「でもお姉ちゃんはその人のこと好きじゃないわ」
母があっけらかんと言う。
「好きよ。ただ──ハルが忘れられないだけ」
「私は未だに晃さんが好きよ。あの人が死んで何十年?かしら月日なんて忘れちゃったわ。だって年月を数えても仕方がないもの。好きな人と離れても好きなの。死んでも好き」
母のこう言うところは強くて憧れる。
「だから──お姉ちゃん。死んでも好きな人は手放しちゃダメよなの。他の何を手放してもいいの。恥も外聞もお金も自由も家族も。でも──好きな人はダメ」
「家族も好きなの。好きなものがいっぱいある時はどうしたらいいの?」
母なら──どうするのだろう?
少し興味本位で聞いてみる。
私はマネ出来ないけれど。
「それでも好きは一つよ」
ツンとして話す母は聞き分けの悪い幼子のようだ。
「じゃあお母さんはもし父さんか私たちか選ばなきゃならなかったら私たちを捨てるの?」
膝を抱えたまま微笑めば、母も微笑み言い切る。
「捨てるわ」
断言する母にビックリする。
そうなのかと今更ながら母の知らない面を見た気がする。
「けど──そうしたら晃さんが私を嫌いになっちゃう。だからまだ晃さんには逢いにいかないの。晃さんがいなくてもこの世界で生きるの。晃さんに嫌われたくないから」
母は──父を追って死にたかったのだろうか。
亡くなった父を未だに生きているように語る。死んだら終わりではない。母にとって生死は関係ないように父に嫌われる事を恐れる。
「私は晃さんが愛した貴方達を見守らなくっちゃ。そしてやっと天国に逢いに行けるの。なのに──やだわ──お姉ちゃんの方が先に晃さんに会うのかしら?」
「──そうかもしれない」
鈍感だと思っていた母に言い当てられる。
それほどには体型は変わってないと思っていたのに。
どこで分かったのだろうか。
「なら──尚更にハルさんに逢いに行きなさい」
笑うしかない。
「──無理だよ。死にそうだから愛してください?ハルも開いた口が塞がらないよ。それでももしハルが私を受け入れてくれたら?ハルの生活を壊して私だけ最期に幸せになって終わり?私は幸せだけどハルは不幸だ。和秋さんにも死ぬから最期は本当に好きな人と過ごしたいんです。だから別れてください?──最低な妻なのに──これ以上失望されたくないよ」
「それでも──最低でも──そんな貴方を見たいわ。貴方を愛している人は最低な貴方が愛おしいの」
母が抱きしめてくれる。
その温かさに寄り添いたくなる。
けれどそんなこと──出来ない。
「そんなの──嘘よ」
「相変わらずね……」
溜め息まじりに告げられ立ち上がる。
携帯をバックに詰め鏡の前で髪を整えだす。
「何してるの?」
突然の動きに対応出来ない。
本当に何してるの?
「貴方はよくハルさんに一言多いって怒っていたけれど、貴方は言葉が足りなさ過ぎるの。だからもう一度、正直に話し合いなさい。私は帰ってきた海都とお出掛けしてくるわ」
見回しても海都がいない。
ちょっと待って。
ハルを呼びに行ったの?
「──私、帰るわ」
玄関の扉を開こうとした瞬間──
「帰──さないよ」
息も絶え絶えなハルがそこにいた。
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