隠伏の魔法使い

六菖十菊

文字の大きさ
13 / 29
ミドルノート

012 ギルフォード

しおりを挟む
あの日から一週間が過ぎ、多くの人が王妃の側にいる者の姿を目にするが、その姿はローブを深く被り顔を見たものはいない──けれど王妃が彼女に全幅の信頼を置いているのも彼女が王妃を慈しんでいるのも読み取れる。
そんな関係に彼女の顔を見たい者が溢れたが未だに彼女の姿を知る者はいない。
一説には王でさえ知らぬと言う噂もある。
だがその彼女が偶に近衛第三騎士隊長と話しているのを見かけたと言う者もいる。



「隊長──リヴィアはどこに行っちゃったんですかね?」

リヴィアが王宮入りの話を快く受けたと思っていたロンにはリヴィアの逃亡は衝撃的だったようだ。
ロンが王都内を探し回っていることも知っている。
──止める事など出来ない。
自分でもそうするだろう。
ロンがリヴィアに懐いていたのも、オリヴィアに恋をしていたのも知っている。
それなのにオリヴィアが今、王妃の側にいる隠伏の魔法使いだと彼に告げることは出来ない。
王妃の厳命でもある。
だがそれと同じくらいに──彼女を隠伏したい気持ちもある。
他の男に見せたくない。
誰の瞳にも汚されたくない。

〈──それほどに……お前を閉じ込めた魔法使いは強力なのだな。オリヴィア。お前程の美しい娘を私は知らない。その者の気持ちも分かるものよ〉

あの言葉に王妃を諫めたが、あれは私も同じ。
同じだ──
自分の欲深さをここまで感じたことはなかった。

男性だとしてもリヴィアの心を愛しいと思った。
名も知らない女性のその美しさに恋をした。
その二人が同一の人間だったんだ。
愛しさは更に増える。

欲を言えば王妃にでさえ嫉妬している自分がいる。
あの方のお陰でこうしていられるのに、オリヴィアの王妃への接し方を見ていると少し──苛立つ。

オリヴィアの接し方はよく言えば献身的だ。
王妃に仕えるというよりは慈しむ。
その言葉が一番的確だろう。
それは私やロンにもだったし、それが彼女なのだろう。
だが悪く言えば勘違いをさせる。
彼女の心がどこにあるのか分からない。
それなのにあんな風に接しされると自分のことが好きなのではないかと勘違いをしてしまう。
そう自制しているにも関わらず、そんな希望が持ち上げる。

「意外でした。隊長もリヴィアにもう少し愛情があるのかと思ってましたよ」

ロンが胡乱な顔をする。
ロンの気持ちは痛いほどによく分かる。
けれどロンに話すことは出来ない。

「リディアが選んだのだから仕方がないさ」

「俺はリヴィアもオリヴィアも諦めませんよ」

その言葉を痛いほどに理解出来るけれど、苛立つ。

「二人には何か事情があったのかもしれない──もう放って置いた方がいい」

「──俺に何も言わずに行ったんだなぁ……あの日──王宮に上がれるのが嬉しいって……リヴィアは嘘付きだ」

その言葉に自分もロンに嘘をついている罪悪感が襲う。

「──時間だ。すまんが抜ける」

「最近、王妃様は第一近衛ではなく、なぜ隊長を名指しして警護にあたらせるんですか?そして俺らは呼ばれない。いつも隊長だけだ」

「──すまない」

「俺らにも言えない任務ですか?──まあぁ仕方ありませんけど。いってらっしゃいー」

罪悪感が募る。
けれど──王妃と自分がいる時だけ、彼女は深く被ったローブを取る。
これほどの魅惑に勝てる人間がいるのだろうか?
そう思うほどに美しい。
その姿に──微笑みに恐らくどんな神々だろうと敵わないのではと思ってしまう。

「ギルフォード」

そう言って微笑む姿に堪らなくなる。

「雨が降っているの」

その声にオリヴィアの喜びが伝わる。

「──あぁ。最近は例年通りに降るようになったね」

雨を覗き込むように眺める彼女がとても綺麗でいつまでも見惚れてしまう。

「オリヴィアにはわたくしでも惚れそうよ」

そう微笑む王妃が自分で遊んでいるのが分かる。
けれど嘘でもない事も分かる。

「どうすれば──彼女の心を手に入れる事が出来るのですか?」

もう誰でもいいから教えて欲しい。
そんな術があるのならどんな手でも使いたい。

「さぁな。だが──偶に恋するように空を見上げる。前の世界に愛する男でも残してきたのかもしれんな」

その言葉に王妃を見ると、ニヤリと笑う。

「遠くにいる男より、身近の男の方が良いと思わせれば良い。それだけじゃ」

「オリヴィア!」

「どうしたの?」

「シィ様は──雨の魔法使いはどんな方なんだ?」

オリヴィアの恋する男はシィ様なのだろうか?

「シィ様はとても優しくて静かでそう──慈雨そのものみたいな人よ」

それだけではオリヴィアの心は分からない。

「──どんな関係なんだ?」

「弟子みたいなものかしら?シィ様は私を娘と言ってくださったけれど──本当にそうなれたらどれだけ幸せかしら」

「弟子……娘?その……愛しい相手ではないのか?」

「シィ様は──シルド様は偉大な方。私がそんな感情を持てるような方ではないの。それに素敵で偉大なユラナ様という奥方様がいるのよ」

その微笑みに嘘はないと思う。
けれど先ほどのロンの言葉が頭を掠める。

〈リヴィアは嘘付きだ〉

「──本当に?」

「愛しいのは間違ってないから嘘になってしまうかしら?」

オリヴィアに嘘はないと思う。
ではオリヴィアの恋しい相手は誰だ?
まさか──オリヴィアを幽閉したヤツではないよな?
そんな筈ばない。
それなら相思相愛だ。
逃げる事も幽閉する必要もない。

「なら──貴方を幽閉した相手はどんな人なんだ──?」

その瞬間。彼女の微笑みが崩れた。
幽閉された苦しみからか?
恐怖から?  
それとも──

と、雨雲がチカッとと輝き、地を引き裂く前の序章を鳴らす。

「雷か──珍しいの」

「サーマス様……」

王妃の言葉を受けてのオリヴィアの呟きを聴き取れず彼女を見るが再びローブを被る。

「オリヴィア?」

低く鳴る雷が立ち去る様に遠ざかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~

Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。 閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。 恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。 「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。 ――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...