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ミドルノート
012 ギルフォード
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あの日から一週間が過ぎ、多くの人が王妃の側にいる者の姿を目にするが、その姿はローブを深く被り顔を見たものはいない──けれど王妃が彼女に全幅の信頼を置いているのも彼女が王妃を慈しんでいるのも読み取れる。
そんな関係に彼女の顔を見たい者が溢れたが未だに彼女の姿を知る者はいない。
一説には王でさえ知らぬと言う噂もある。
だがその彼女が偶に近衛第三騎士隊長と話しているのを見かけたと言う者もいる。
「隊長──リヴィアはどこに行っちゃったんですかね?」
リヴィアが王宮入りの話を快く受けたと思っていたロンにはリヴィアの逃亡は衝撃的だったようだ。
ロンが王都内を探し回っていることも知っている。
──止める事など出来ない。
自分でもそうするだろう。
ロンがリヴィアに懐いていたのも、オリヴィアに恋をしていたのも知っている。
それなのにオリヴィアが今、王妃の側にいる隠伏の魔法使いだと彼に告げることは出来ない。
王妃の厳命でもある。
だがそれと同じくらいに──彼女を隠伏したい気持ちもある。
他の男に見せたくない。
誰の瞳にも汚されたくない。
〈──それほどに……お前を閉じ込めた魔法使いは強力なのだな。オリヴィア。お前程の美しい娘を私は知らない。その者の気持ちも分かるものよ〉
あの言葉に王妃を諫めたが、あれは私も同じ。
同じだ──
自分の欲深さをここまで感じたことはなかった。
男性だとしてもリヴィアの心を愛しいと思った。
名も知らない女性のその美しさに恋をした。
その二人が同一の人間だったんだ。
愛しさは更に増える。
欲を言えば王妃にでさえ嫉妬している自分がいる。
あの方のお陰でこうしていられるのに、オリヴィアの王妃への接し方を見ていると少し──苛立つ。
オリヴィアの接し方はよく言えば献身的だ。
王妃に仕えるというよりは慈しむ。
その言葉が一番的確だろう。
それは私やロンにもだったし、それが彼女なのだろう。
だが悪く言えば勘違いをさせる。
彼女の心がどこにあるのか分からない。
それなのにあんな風に接しされると自分のことが好きなのではないかと勘違いをしてしまう。
そう自制しているにも関わらず、そんな希望が持ち上げる。
「意外でした。隊長もリヴィアにもう少し愛情があるのかと思ってましたよ」
ロンが胡乱な顔をする。
ロンの気持ちは痛いほどによく分かる。
けれどロンに話すことは出来ない。
「リディアが選んだのだから仕方がないさ」
「俺はリヴィアもオリヴィアも諦めませんよ」
その言葉を痛いほどに理解出来るけれど、苛立つ。
「二人には何か事情があったのかもしれない──もう放って置いた方がいい」
「──俺に何も言わずに行ったんだなぁ……あの日──王宮に上がれるのが嬉しいって……リヴィアは嘘付きだ」
その言葉に自分もロンに嘘をついている罪悪感が襲う。
「──時間だ。すまんが抜ける」
「最近、王妃様は第一近衛ではなく、なぜ隊長を名指しして警護にあたらせるんですか?そして俺らは呼ばれない。いつも隊長だけだ」
「──すまない」
「俺らにも言えない任務ですか?──まあぁ仕方ありませんけど。いってらっしゃいー」
罪悪感が募る。
けれど──王妃と自分がいる時だけ、彼女は深く被ったローブを取る。
これほどの魅惑に勝てる人間がいるのだろうか?
そう思うほどに美しい。
その姿に──微笑みに恐らくどんな神々だろうと敵わないのではと思ってしまう。
「ギルフォード」
そう言って微笑む姿に堪らなくなる。
「雨が降っているの」
その声にオリヴィアの喜びが伝わる。
「──あぁ。最近は例年通りに降るようになったね」
雨を覗き込むように眺める彼女がとても綺麗でいつまでも見惚れてしまう。
「オリヴィアにはわたくしでも惚れそうよ」
そう微笑む王妃が自分で遊んでいるのが分かる。
けれど嘘でもない事も分かる。
「どうすれば──彼女の心を手に入れる事が出来るのですか?」
もう誰でもいいから教えて欲しい。
そんな術があるのならどんな手でも使いたい。
「さぁな。だが──偶に恋するように空を見上げる。前の世界に愛する男でも残してきたのかもしれんな」
その言葉に王妃を見ると、ニヤリと笑う。
「遠くにいる男より、身近の男の方が良いと思わせれば良い。それだけじゃ」
「オリヴィア!」
「どうしたの?」
「シィ様は──雨の魔法使いはどんな方なんだ?」
オリヴィアの恋する男はシィ様なのだろうか?
「シィ様はとても優しくて静かでそう──慈雨そのものみたいな人よ」
それだけではオリヴィアの心は分からない。
「──どんな関係なんだ?」
「弟子みたいなものかしら?シィ様は私を娘と言ってくださったけれど──本当にそうなれたらどれだけ幸せかしら」
「弟子……娘?その……愛しい相手ではないのか?」
「シィ様は──シルド様は偉大な方。私がそんな感情を持てるような方ではないの。それに素敵で偉大なユラナ様という奥方様がいるのよ」
その微笑みに嘘はないと思う。
けれど先ほどのロンの言葉が頭を掠める。
〈リヴィアは嘘付きだ〉
「──本当に?」
「愛しいのは間違ってないから嘘になってしまうかしら?」
オリヴィアに嘘はないと思う。
ではオリヴィアの恋しい相手は誰だ?
まさか──オリヴィアを幽閉したヤツではないよな?
そんな筈ばない。
それなら相思相愛だ。
逃げる事も幽閉する必要もない。
「なら──貴方を幽閉した相手はどんな人なんだ──?」
その瞬間。彼女の微笑みが崩れた。
幽閉された苦しみからか?
恐怖から?
それとも──
と、雨雲がチカッとと輝き、地を引き裂く前の序章を鳴らす。
「雷か──珍しいの」
「サーマス様……」
王妃の言葉を受けてのオリヴィアの呟きを聴き取れず彼女を見るが再びローブを被る。
「オリヴィア?」
低く鳴る雷が立ち去る様に遠ざかった。
そんな関係に彼女の顔を見たい者が溢れたが未だに彼女の姿を知る者はいない。
一説には王でさえ知らぬと言う噂もある。
だがその彼女が偶に近衛第三騎士隊長と話しているのを見かけたと言う者もいる。
「隊長──リヴィアはどこに行っちゃったんですかね?」
リヴィアが王宮入りの話を快く受けたと思っていたロンにはリヴィアの逃亡は衝撃的だったようだ。
ロンが王都内を探し回っていることも知っている。
──止める事など出来ない。
自分でもそうするだろう。
ロンがリヴィアに懐いていたのも、オリヴィアに恋をしていたのも知っている。
それなのにオリヴィアが今、王妃の側にいる隠伏の魔法使いだと彼に告げることは出来ない。
王妃の厳命でもある。
だがそれと同じくらいに──彼女を隠伏したい気持ちもある。
他の男に見せたくない。
誰の瞳にも汚されたくない。
〈──それほどに……お前を閉じ込めた魔法使いは強力なのだな。オリヴィア。お前程の美しい娘を私は知らない。その者の気持ちも分かるものよ〉
あの言葉に王妃を諫めたが、あれは私も同じ。
同じだ──
自分の欲深さをここまで感じたことはなかった。
男性だとしてもリヴィアの心を愛しいと思った。
名も知らない女性のその美しさに恋をした。
その二人が同一の人間だったんだ。
愛しさは更に増える。
欲を言えば王妃にでさえ嫉妬している自分がいる。
あの方のお陰でこうしていられるのに、オリヴィアの王妃への接し方を見ていると少し──苛立つ。
オリヴィアの接し方はよく言えば献身的だ。
王妃に仕えるというよりは慈しむ。
その言葉が一番的確だろう。
それは私やロンにもだったし、それが彼女なのだろう。
だが悪く言えば勘違いをさせる。
彼女の心がどこにあるのか分からない。
それなのにあんな風に接しされると自分のことが好きなのではないかと勘違いをしてしまう。
そう自制しているにも関わらず、そんな希望が持ち上げる。
「意外でした。隊長もリヴィアにもう少し愛情があるのかと思ってましたよ」
ロンが胡乱な顔をする。
ロンの気持ちは痛いほどによく分かる。
けれどロンに話すことは出来ない。
「リディアが選んだのだから仕方がないさ」
「俺はリヴィアもオリヴィアも諦めませんよ」
その言葉を痛いほどに理解出来るけれど、苛立つ。
「二人には何か事情があったのかもしれない──もう放って置いた方がいい」
「──俺に何も言わずに行ったんだなぁ……あの日──王宮に上がれるのが嬉しいって……リヴィアは嘘付きだ」
その言葉に自分もロンに嘘をついている罪悪感が襲う。
「──時間だ。すまんが抜ける」
「最近、王妃様は第一近衛ではなく、なぜ隊長を名指しして警護にあたらせるんですか?そして俺らは呼ばれない。いつも隊長だけだ」
「──すまない」
「俺らにも言えない任務ですか?──まあぁ仕方ありませんけど。いってらっしゃいー」
罪悪感が募る。
けれど──王妃と自分がいる時だけ、彼女は深く被ったローブを取る。
これほどの魅惑に勝てる人間がいるのだろうか?
そう思うほどに美しい。
その姿に──微笑みに恐らくどんな神々だろうと敵わないのではと思ってしまう。
「ギルフォード」
そう言って微笑む姿に堪らなくなる。
「雨が降っているの」
その声にオリヴィアの喜びが伝わる。
「──あぁ。最近は例年通りに降るようになったね」
雨を覗き込むように眺める彼女がとても綺麗でいつまでも見惚れてしまう。
「オリヴィアにはわたくしでも惚れそうよ」
そう微笑む王妃が自分で遊んでいるのが分かる。
けれど嘘でもない事も分かる。
「どうすれば──彼女の心を手に入れる事が出来るのですか?」
もう誰でもいいから教えて欲しい。
そんな術があるのならどんな手でも使いたい。
「さぁな。だが──偶に恋するように空を見上げる。前の世界に愛する男でも残してきたのかもしれんな」
その言葉に王妃を見ると、ニヤリと笑う。
「遠くにいる男より、身近の男の方が良いと思わせれば良い。それだけじゃ」
「オリヴィア!」
「どうしたの?」
「シィ様は──雨の魔法使いはどんな方なんだ?」
オリヴィアの恋する男はシィ様なのだろうか?
「シィ様はとても優しくて静かでそう──慈雨そのものみたいな人よ」
それだけではオリヴィアの心は分からない。
「──どんな関係なんだ?」
「弟子みたいなものかしら?シィ様は私を娘と言ってくださったけれど──本当にそうなれたらどれだけ幸せかしら」
「弟子……娘?その……愛しい相手ではないのか?」
「シィ様は──シルド様は偉大な方。私がそんな感情を持てるような方ではないの。それに素敵で偉大なユラナ様という奥方様がいるのよ」
その微笑みに嘘はないと思う。
けれど先ほどのロンの言葉が頭を掠める。
〈リヴィアは嘘付きだ〉
「──本当に?」
「愛しいのは間違ってないから嘘になってしまうかしら?」
オリヴィアに嘘はないと思う。
ではオリヴィアの恋しい相手は誰だ?
まさか──オリヴィアを幽閉したヤツではないよな?
そんな筈ばない。
それなら相思相愛だ。
逃げる事も幽閉する必要もない。
「なら──貴方を幽閉した相手はどんな人なんだ──?」
その瞬間。彼女の微笑みが崩れた。
幽閉された苦しみからか?
恐怖から?
それとも──
と、雨雲がチカッとと輝き、地を引き裂く前の序章を鳴らす。
「雷か──珍しいの」
「サーマス様……」
王妃の言葉を受けてのオリヴィアの呟きを聴き取れず彼女を見るが再びローブを被る。
「オリヴィア?」
低く鳴る雷が立ち去る様に遠ざかった。
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