そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知ることを始めたい

xx7

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ガシャん
飲み物のグラスを倒してしまった。
グラスは割れていないが水がテーブルに広がる。
思っている以上に緊張しているのかもしれない。
まだ会えるのかも、ましてや話すことも無理かもしれないこの状態で微かに手が震えている。
パーティの準備は着々と進んで、5月の藤が盛大に飾られている。すごく高そう…そんな感想しか出てこない。
振舞うお酒もワインもクオリティが高く、それが私の緊張を煽る一端だと思う。
溢したグラスの片付けをしながら考える。
第一、会えたとしてもどう声を掛けたら良いのかさえわからない。
怪しく思われて警備の人に止められそうだ。
食事もレストランよりルームサービスかもしれないし、
そもそもレストランでスタッフがプライベートにことを声をかけるのも躊躇われる。
出来ればホテル外で話したいが、きっとプライベート車で颯爽といなくなりそうだ。
色仕掛けできるほどの経験値もなければ、あちらはイタリアの貴公子、美姫なんて履いて捨てるほどいるだろう。私はお呼びではないのだ。
ダメだ。…どうしよう。不安しかない。
ポジティブに考えよう!そう意気込んでみるも、思考は深く落ちてゆく。
第一、本当に父に何があったのか知りたければ、すぐにでもイタリアに行ってでも聞けば良かったし、お金を稼いで探偵だって雇えた。
結局私はいつだって相手から訪れてくれるのを待ってる。
そんな小さな人間なのに更に逃げるなんてダメだ。
ポケットの中のハンカチに自然と手が伸びる。
端下に刺繍でガレー船が描かれているどこにでも売ってるハンカチだ。
櫂さん…頑張れって背中を押してね。
そう心で呟き、パーティの訪れを待った。
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