そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知れば、知られる

xx9

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専用フロントに行くとパーティの関係か少し忙しそうにしていた。
事情を話すとお客様へ確認のアポを取りVIPルームへの入室許可が降りた。きっと普段なら私ではなく担当者が行くのだろう。
お相手、お部屋にいらっしゃるんだ…。
ちょっとドキドキするぞ。紳士でダンディな人かな?
あの女性の愛人となればそんな人を想像してしまう。
と、自分のマナーの悪さを叱りながらも想像が膨らんでくる。
専用スタッフ曰く、お客様はこれから用事があるので今から入浴されるらしい。その間に勝手に探してくださいとのことだった。
ますますラッキーだ。
お相手の男性も気になるが、侑梨の1番の興味は部屋の内装だ。けれどお客様がいらっしゃる前でジロジロと見るのは難しい。
鍵は開けておくとのことで、さすが専用フロント。
そんなこともできるのか。
普段はお客様が帰られたら鍵やカードなど不要で部屋に入れる為だろう。
扉の前に立つと、もう扉の大きさが違う。
扉を押すと音もなく開いた。
その瞬間、都心のホテルというのを忘れた。
伽羅と沈香の香りを基調に少しアンバーやスパイスも感じるオリエンタルな香りだ。
控えめに言って最高だ。この香りを吸い込めただけでも価値はある。実は香りフェチだったりする。
部屋数は意外にも一室だったが、広い。100平米はありそうだ。奥のバルコニーには庭とプールが見え、寝室は襖で軽く区切られ、丸窓から都内の煌きが見える。
琉球畳の井草は青々としてあの香りに包まれて寝転びたいと思わせる。
興奮気味の侑梨だが、ここに来た役目を思い出す。
ボタン探しだ。
まず、ありそうなのは…やっぱりベット周辺だよね…
乱れたままのベッドに目を向けて気恥ずかしくなる。
だが、お客様と鉢合わせする方が嫌だ。この部屋を見るという目的は達した。次はボタン探しだ。
侑梨は滑らすように一歩を踏み出しベット周辺へ近づいた。ベット下辺りには落ちてない。シーツに紛れているかもしれない。嫌悪とかではなく、ただただ気恥ずかしい。侑梨はよく歳の割に大人びているとか、落ち着いていると言われるが、恋愛経験は皆無だ。淡い初恋を眠らせている中学生レベルなのだ。いや、きっと侑梨より恋愛上級者の中学生の方が遥かに多いだろう。
けれど、沢城侑梨22歳!年齢だけは大人の自負がある。
中学生に負けるな!と自分を叱責し…まずは足元の方のシーツを…少しだけめくった。
と、そこにはブラックダイヤとダイヤを散りばめて花が描かれたような丸ボタンが転がっていた。
「あった!」
思わず叫んでしまった。
ボタンを握りしめ安堵した瞬間、浴室横のパウダールームが開いた。
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