そんなの、知らない 【夫人叢書①】

足るを知らない、欲

x46 _ジーノ_

夫人の別邸には以前はよく呼び出されていた。
ここ数年、それも無かったのに突然の呼び出しだ。
別邸は夫人の〈特別な子〉だけしか入れない。
「今日の夫人の玩具はどんな子かな」
口に出すが、実際のところ興味はない。
夫人の差し出す玩具と戯れれば良いだけだ。
彼女たちも幸せそうに腰を振る。
気持ちいいし、彼女たちも喜ぶ。
誰もが幸せな世界だ。

だが、此方を見て驚いてる彼女に驚く。
〈私は澤城侑梨と申します。澤城修司の娘です〉
あの時、それでも構わないと思った。
夫人の呪いからは逃れられない。
それでも…あまりにも不敏な彼女の運命から
逃してあげたかった。
けれど、再び彼女は夫人の籠に戻された。
しかも夫人の宝である合わせ貝と共に。
これでは逃げられない。
…あの人の娘なんて皮肉なものだ。
僕が逃した籠へまた戻ってきたことにこの蝶は気づきもしない。
「バカだと思っていたけど、ここまでとは思ってなかったよ」
嫌味をいいたくなる。

夫人は僕がユーリを抱いていないのを分かっている。
身体の相性を見ただけで分かる方だ。
ホテルでボタンを探しに来させた時、
パーティであのドレスを着せた時、
それから数ヶ月と夫人は待った。
その結果、夫人は自ら動いた。
彼女があの人の娘だと夫人は気付いているだろう。
それすら愉しんでいる。
もう、逃げられない。
これから君は僕に抱かれる。
〈最低な話〉を知った時の君が不敏で堪らない。

なら、せめて罪悪に囚われるより
快楽に堕としてあげよう。
僕たちは合わせ貝だ。
快楽の波に踊らされよう。

夫人がお茶を手に戻ってきた。
微笑み夫人の耳元に唇を寄せ囁く。
「死ねよ。ババア」
夫人は優雅に微笑んだ。