そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知らず絡繰る

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忙しくて引っ越しや雑多に避ける時間がないとの理由だった。その言葉が本当か嘘なのか侑梨には分からない。
だけど本当の理由ではない気がした。
私には話したくないのだろう…。
櫂の側にいたかった。
2人の距離を縮めたかった。
引っ越さなくても、櫂が汚いと言っていた今のマンションで十分だ。だが、やんわりと断られる。
職探しもストップ状態だ。
櫂に止められているのだ。
金銭面は大丈夫だと言われたが、そんな問題ではなく、
侑梨は今、軽い軟禁状態だ。
櫂がいる時は外に出れるが、それ以外では極力外出を控えている。侑梨の部屋に櫂を誘うが数刻で帰ってしまう。
──寂しい──
孤独には慣れていると思っていたけれど、寂しが募る。
今の侑梨は本当に存在しているのかさえ感じる薄さだ。
「それって依存させようとしているのかもよ」
雪子がテーブルに肘を置き不満そうに言い放つ。
今日は雪子がアパートにら来てくれている。
侑梨の部屋はシンプルだ。
ローテーブル、ベッド、ちょっとした収納くらいしか家具はない。けれど叔母の用意してくれたマンションからの付き合いなので品は良い。
キリム柄のラグとクッションが部屋に色を与えているが、ベッドシーツは真っ白であっさりした部屋だ。
「そんなことしなくても…もう依存してるかも…」
だから同棲が嫌になったのかもしれない。
「でも侑梨の語る『櫂』はそんな卑劣な人間じゃない。
そうなると原因があるはずよ」
雪子がホームズに見える。
「まぁ、簡単に考えれば夫人とジーノとの接触を避けているのは分かるわ。でも同棲していた方が守れるはずよ」
「…私とジーノの関係を疑っているのかも。私から櫂の仕事の情報が漏れるのを危惧しているのかも」
自分で言って落ち込む。櫂はあの日〈キスされた〉と語った侑梨の首筋の跡を見て、疑っていた。ジーノと男女の関係にはなっていないと説明したけれど、櫂の本心は分からない。
「それでも同棲は出来なくても、エッチは出来るはずなのにそれもなし」
ホームズ雪子が侑梨を追い詰める。モリアーティーになった気分だ。
あれから櫂は侑梨に触れなくなった。
キスもしない。
部屋に1人、櫂には信頼されず、恋人とは呼べない状態だ。
結局、ここで行き詰まる。
何度、思ったか。
自分はいつも知らないことばかりだ。
いつも守られているばかりだ。
そして失ってきた。
そんなの……嫌だ。
侑梨はケータイのアドレスを開く。
そこには夫人の番号が表示されていた。

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