そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知らず絡繰る

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侑梨と林檎に接点はない。
ただの知識自慢だろうか?
夫人の名前は菖子だ。
夫人はジーノと同じでいつも何か
謎掛けのように侑梨を惑わす。
答えを見つけられないまま、夫人が次の衝撃を侑梨に
投げつける。
「ジーノは今、奥様との2人目の子どもが産まれたのよ」
「結婚されているんですか⁈」
6年前らしい。
それなのに夫人とも愛人関係を続け他にも女性がいる。私にも躊躇いなく触れてきた。
──気持ち悪い──気持ち悪くなってきた。
「顔色が良くないわ?大丈夫侑梨さん」
この人は正気だろうか。見入ってしまう。
「大丈夫よ。彼は奥様を愛していないわ」
侑梨の心配事を理解しているかのような口ぶりだ。
「…なぜ愛していないと?」
現に2人の子供を授かっている。仮に政略結婚だとしても、愛情が芽生えていることもある。
夫婦のことはきっと周りにはわからない。
「彼とネリーナを結婚させたのはわたくしよ」
怒りより拒絶が支配する。
「彼ね。当時好きな人がいたの。本人も気付かない些細な恋心。けれどわたくしは気がついたわ。だから惹き合わせて溺れさせ──そして引き裂いた」
カップの紅茶の温度が下がる様に、侑梨の心も冷たくなる。
「ネリーナとの結婚を勧めた時、
彼はva dene tuttoなんでもいいよと答えたわ」
…きっとあの微笑みで応えたのだろう。
「でもネリーナとの縁談を持ってきたのはマウロ家よ。
わたくしはそれを承諾させただけ。
当時マウロ家のイタリアでの業績は落ち、ジーノの日本業績は拡大していたの。それに危惧したジーノの兄セルジョが付けた御目付役がネリーナ。簡単に言えばセルジョのお古を下賜された様なものね…可哀想なジーノ。好きでもない女性との婚姻、それも世界一嫌いな兄のお手付きなんて汚らわしくて、愛せるわけがない」
それを知っていながら結婚させたのね…。どうしよう夫人と顔も合わせたくない。夫人の瞳が見れない。
どんな思惑が2人にあるのかは知らないけれど…酷い。
「お父様の愛人であるお母様を早くに亡くされた彼が、
普通の家庭なんて知らないわ。お母様が早くに亡くなられたのもセルジョが要因の一つ。それを見ぬフリをした父にも彼は失望した。この世に愛なんて存在しないと思ってる──可哀想なジーノ」
知りたくもない‼︎
本当にこの人たちはは異常だ。関わらない方がいい。
本能が警告音を頭の中で発している。
「私はジーノとは金輪際会わない。悲しい過去を聞かされても夫人の望む関係にはならないわ!」
侑梨は立ち上がり夫人へと叫ぶ。
「合わない貝を無理に合わせれば理りが乱れるわ」
…どう話せば夫人は理解してくれるのだろう。
「貴方の番は三島櫂ではないわ」
残念ね。と労りの声で呟く。
櫂の名前がここで出た。
今日の目的はそれを聞く為だった。
けれどもし、夫人が櫂の存在を知らないのであれば
余計な火種を撒きたくなかった。
そんな考えの甘さを笑うかのように
あっさりと夫人は口にする。
「彼に…何かした?」
言葉が雑になる。そんなこと気にしていられない。
「ちょっとした余興よ。でも貴方には内緒。貴方が知ればこの余興は終了。彼にとっても悪い話ではないわ」
さて、今日はここまでにしましょうか。
夫人は静かに席を立ち侑梨に小さくバイバイと手を振り「またね」と立ち去った。
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