そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知らず絡繰る

x52_櫂_

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『櫂、大好き』
侑梨の声に、さっきまでのジーノと夫人への苛立ちを忘れた。
彼女を抱きしめている自分以上に俺にしがみ付く。
15歳の彼女と出会った時、大人っぽい雰囲気だと思った。
22歳の彼女にも、そう感じていた。
だが心の中は違うとわかってきた。
侑梨は甘えれる相手がいなかった。
寂しいと言える誰かがいなかった。
だから大人の様に振る舞っていただけで、
実際は真逆だ。
これからだ。
きっと彼女は家族愛に飢えている。
レストランや外でのデートより、
このオフィスでのケータリングを好むのは
彼女の望む愛情の形は家族愛が強いからだろう。
実際、侑梨の両親は冷めた状態で男女の愛情に
懐疑的でも仕方ない。
…黒猫の様だと思う。
触ると逃げる癖に甘えたそうな顔をしてこっちを眺めている。フラッと居なくなったり、考えが読めない。
守りたいから捕まえたいのに、こっちの考えなんてお構いなしにヤンチャをする。
──いつも俺の膝の上で寝転んでいたらいいのに。
キレイな黒髪を撫でながらキスしたい。
俺だけの黒猫だ。
──そう思いたいのに、彼女のキレイな首筋にうっすらと赤い痣を見つける。
嫉妬で心が真っ暗になる。
彼女の髪からはシャンプーの香りが、肌からも甘い香りがする。キスマークが胸や臍周りに…太ももにあるかと思うと血が逆上する。
全ての衣服を剥ぎ取り全身を隈なくチェックしたい。
チェック項目全てに印を付けたい。
侑梨の甘い香りに俺の匂いを擦り付けたい。
マーキングして他のヤツに奪われたくない!
首筋を痣を更に強く吸い侑梨の肌に描かれた痕を書き替える。鎖骨辺りに、二の腕の内側とキスマークを付けていく。
片手は背中をなぞり、ブラのホックを外す。
胸に触れそうになった時、彼女の声が聞こえた。
泣くのゆ必死に我慢している様な声だった。
急激に罪悪感がこみ上げる。
マウロに襲われそうになったと聞いたばかりなのに、
彼女の望む愛情の形を知っているのに、
雄の性を優先した自分に。
「ごめん」
侑梨も傷ついた顔をする。
最低な自分を、殺してやりたい。

それから数日後、一本の電話が入る。
「突然ごめんなさい?」
高い声の優雅な話し方。
高崎夫人だった。
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