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紛擾雑駁の了知
x65_櫂_
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『私の部屋でご飯一緒にしませんか?』
侑梨からのメールを、かれこれ5分は眺めている。
気持ちは全力でイエスだ。
だから困る。
今、これ以上好きになるのは非常に厳しい。
2人きりで会うのも、侑梨の香りのするあの部屋は
正直ヤバい。
今は侑梨を夫人やマウロから離す為に極力の外出は
控えてもらっている。
侑梨がそれにストレスを感じているのも分かる。
だが、あの夫人の怖さは計り知れない。
俺との取引中に他に仕掛けないとは思えない。
夫人はキレイなルールの上で生きる人間ではない。
正直、侑梨を守り切れるのか不安が強い。
その不安が侑梨を閉じ込こめるという姑息な手段を
選んだ要因だ。
「最低だな……」
侑梨と話そう。
夫人との取引は言えないが、自分の不甲斐なさの
許しを請いたい。
『……忙しいなら大丈夫だよ?』
追加メールが届く。
彼女に気を使わせているのが分かる。
『8時頃に行ける。楽しみにしてる』
『櫂と鍋しようと買った土鍋があるから
木の子の炊き込みご飯作るね』
……なんだこの可愛い生き物は。
「結婚したい……」
まだ身体の関係もないし、歳も離れてる。会社だってまだまだ綱渡り状態でこんなこと彼女に言えば引かれること間違いなしだ。
『デザート買っていく。何がいい?』
メール送信し、コーヒーを飲む。
ヤバイ。幸せかも。
「……櫂、貴方、大丈夫?」
頭を人差し指で軽く2度叩く。
沙織が胡乱な顔をしている。
「大丈夫じゃない……めちゃ可愛い」
「……そう」
『リンゴがいいな』
侑梨からのメールに気持ちが沈む。
「──沙織は凛子さんのこと当時どう思ってた?」
「今も昔も永遠に大嫌いよ」
パソコンから目を離さず答える沙織は無表情だ。
「侑梨は凛子さんの娘だ。どう思ってる?」
沙織は椅子から立ち上がり
櫂の机の前で仁王立ちをする。
「何が言いたいのか、聞きたいのか、言わせたいのか知りませんけど、私こそ聞きたいわ。櫂、貴方こそ、侑梨さんは修司さんの娘でもあるけれど凛子さんの娘でもあるのよ。それをどう思ってるの?」
痛い質問だ。
「貴方が高崎夫人と何を契約しているのかは知らない。私が知るのは、それが成功したら会社の可能性が広がることと、首輪で繋がれたことだけよ」
「マイナスもあるが、今のままでマウロには勝てない。
あの2人を割く布石は逃したくない」
逃せば仕事もだが、最低最悪なタッグで侑梨への追い込みがかかる。それは避けたい。
「私にはバカな選択だと思うけど」
沙織は引っ込めまない。
「更には高崎夫人のクリスマスパーティに侑梨さんと出席なんて鴨がネギと豆腐と春菊まで添えていくようなものよ」
他のイベント企画の出席予定調整もしなきゃいけないわとご立腹だ。
「当然、マウロも来るわ」
「──そうだな」
だがその日が終われば契約締結だ。
「貴方本当にバカなの?せめて侑梨さんはパーティには行かせてはダメよ」
「それが条件だ」
「私の言ったこともう忘れたの?侑梨さんは凛子さんの娘よ。マウロに合わせてはダメだわ」
「マウロも侑梨に凛子さんのことは言えないだろう。
言えば修司さんの死にも触れる」
今この瞬間でさえリアルにあの頃を思い出されて苦しくなる。
「それもあるけれど、私が言いたいのはマウロを死ぬほど愛した凛子さんの娘だということよ!」
この部屋は隔離されているが沙織の声の大きさに当たりを見回す。
「娘だから同じ男を好きになるなんてあり得ないし、侑梨はマウロを嫌っている」
自分から近づくことはないはずだ。マウロも夫人がパトロンから外れるのであれば、侑梨に近づく理由もなくなる。侑梨を気に入っているのは夫人だ。
「……そう自分が思っているように事が運べるといいわね。私は7年前の最低な結末を知っているわ。貴方もね。
あれからずっとマウロを倒すことだけを考えて生きてきた。その始まりが夫人と知って動揺する私に貴方は更に夫人との契約の話を持ち込んだ──もう一度言うわ。
貴方大丈夫?」
沙織は自分の頭を人差し指で軽く2度叩いた。
侑梨からのメールを、かれこれ5分は眺めている。
気持ちは全力でイエスだ。
だから困る。
今、これ以上好きになるのは非常に厳しい。
2人きりで会うのも、侑梨の香りのするあの部屋は
正直ヤバい。
今は侑梨を夫人やマウロから離す為に極力の外出は
控えてもらっている。
侑梨がそれにストレスを感じているのも分かる。
だが、あの夫人の怖さは計り知れない。
俺との取引中に他に仕掛けないとは思えない。
夫人はキレイなルールの上で生きる人間ではない。
正直、侑梨を守り切れるのか不安が強い。
その不安が侑梨を閉じ込こめるという姑息な手段を
選んだ要因だ。
「最低だな……」
侑梨と話そう。
夫人との取引は言えないが、自分の不甲斐なさの
許しを請いたい。
『……忙しいなら大丈夫だよ?』
追加メールが届く。
彼女に気を使わせているのが分かる。
『8時頃に行ける。楽しみにしてる』
『櫂と鍋しようと買った土鍋があるから
木の子の炊き込みご飯作るね』
……なんだこの可愛い生き物は。
「結婚したい……」
まだ身体の関係もないし、歳も離れてる。会社だってまだまだ綱渡り状態でこんなこと彼女に言えば引かれること間違いなしだ。
『デザート買っていく。何がいい?』
メール送信し、コーヒーを飲む。
ヤバイ。幸せかも。
「……櫂、貴方、大丈夫?」
頭を人差し指で軽く2度叩く。
沙織が胡乱な顔をしている。
「大丈夫じゃない……めちゃ可愛い」
「……そう」
『リンゴがいいな』
侑梨からのメールに気持ちが沈む。
「──沙織は凛子さんのこと当時どう思ってた?」
「今も昔も永遠に大嫌いよ」
パソコンから目を離さず答える沙織は無表情だ。
「侑梨は凛子さんの娘だ。どう思ってる?」
沙織は椅子から立ち上がり
櫂の机の前で仁王立ちをする。
「何が言いたいのか、聞きたいのか、言わせたいのか知りませんけど、私こそ聞きたいわ。櫂、貴方こそ、侑梨さんは修司さんの娘でもあるけれど凛子さんの娘でもあるのよ。それをどう思ってるの?」
痛い質問だ。
「貴方が高崎夫人と何を契約しているのかは知らない。私が知るのは、それが成功したら会社の可能性が広がることと、首輪で繋がれたことだけよ」
「マイナスもあるが、今のままでマウロには勝てない。
あの2人を割く布石は逃したくない」
逃せば仕事もだが、最低最悪なタッグで侑梨への追い込みがかかる。それは避けたい。
「私にはバカな選択だと思うけど」
沙織は引っ込めまない。
「更には高崎夫人のクリスマスパーティに侑梨さんと出席なんて鴨がネギと豆腐と春菊まで添えていくようなものよ」
他のイベント企画の出席予定調整もしなきゃいけないわとご立腹だ。
「当然、マウロも来るわ」
「──そうだな」
だがその日が終われば契約締結だ。
「貴方本当にバカなの?せめて侑梨さんはパーティには行かせてはダメよ」
「それが条件だ」
「私の言ったこともう忘れたの?侑梨さんは凛子さんの娘よ。マウロに合わせてはダメだわ」
「マウロも侑梨に凛子さんのことは言えないだろう。
言えば修司さんの死にも触れる」
今この瞬間でさえリアルにあの頃を思い出されて苦しくなる。
「それもあるけれど、私が言いたいのはマウロを死ぬほど愛した凛子さんの娘だということよ!」
この部屋は隔離されているが沙織の声の大きさに当たりを見回す。
「娘だから同じ男を好きになるなんてあり得ないし、侑梨はマウロを嫌っている」
自分から近づくことはないはずだ。マウロも夫人がパトロンから外れるのであれば、侑梨に近づく理由もなくなる。侑梨を気に入っているのは夫人だ。
「……そう自分が思っているように事が運べるといいわね。私は7年前の最低な結末を知っているわ。貴方もね。
あれからずっとマウロを倒すことだけを考えて生きてきた。その始まりが夫人と知って動揺する私に貴方は更に夫人との契約の話を持ち込んだ──もう一度言うわ。
貴方大丈夫?」
沙織は自分の頭を人差し指で軽く2度叩いた。
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